日本企業にはハードルが高い? 「デジタルワークフロー」の必要性をServiceNowの戦略から探る:Weekly Memo(2/2 ページ)
既存のERPやCRMと連携して、業務プロセスとデータを可視化する「デジタルワークフロー」への注目度が高まっている。ただし、日本企業にはまだハードルが高いところもあるのではないか。日本企業はデジタルワークフローをどうすれば生かせるのか。同社日本法人の戦略から探る。
どうすればデジタルワークフローを生かせるか
今回の会見では、デジタルワークフローのメリットが分かりやすいユースケースが紹介された。
図4は、カスタマーエクスペリエンス向上を図る際に想定される企業全体のワークフローだ。鈴木氏は問題提起として、「カスタマーエクスペリエンスを向上させるソリューションとして代表的なのはCRMだが、われわれはカスタマーエクスペリエンスを向上させるのはCRMだけとは限らないのではないかと考えた。お客さまとの接点が多様化する中で、お客さまの期待にタイムリーに応えられているのかどうか。それぞれの接点で高品質なサービスを徹底して提供できているのかどうか。こうした疑問を抱いたからだ」と述べた。
図4でまず左側の「お客さま」に対応したCRMが担うのは、顧客情報や商談管理の範囲だ。CRMを利用する営業サービス担当者は、社内の受注処理や保守サービス、調達をはじめとするバックオフィスを担う業務部門と関係している。
こうして複雑につながった業務組織では、「お客さま要求への対応に時間がかかりすぎる」「お客さまが、リクエストの途中経過を知ることができない」「商品やサービスごとに、カスタマーエクスペリエンスが異なる」といった問題が起こり得る。すなわち、この状況では「手付かずのサイロなシステムとデータが散在し、手作業や属人的な組織間の情報のやりとりに終始する可能性が高い。従って、CRMによって顧客情報管理を強化することはできるものの、カスタマーエクスペリエンスの向上にはつながらない」(鈴木氏)と言う。
こうした問題の解決策となるのがデジタルワークフローだ。デジタルワークフローによって顧客とCRM、営業サービス担当者、関連業務をつなげば、「お客さま要求への対応時間の大幅な短縮」「お客さまリクエストの途中経過の可視化」「カスタマーエクスペリエンスの統一」を図れるようになり、「真のカスタマーエクスペリエンス向上をもたらすようになる」と鈴木氏は強調した(図5)。
つまり、カスタマーエクスペリエンス向上は、現在の状態(図4)からデジタルワークフローによってつなげる(図5)ことで実現できるというわけだ。だが、先述したように筆者がこれまで取材してきた中では、日本企業はまだ図4の状態が多く、図5への移行が本格的に動き出すのはこれからという印象だ。
会見の質疑応答では、こうした筆者の印象を述べた上で、「日本企業は変わりつつあるのか」と鈴木氏の手応えを聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
「変わる兆しが明らかになってきた。お客さま企業の経営層の方々も業務連携における生産性やカスタマーエクスペリエンスの向上に強い関心を持っており、デジタルワークフローの必要性についても理解が広がってきていると考えている。これから本格的なパラダイムシフトを起こせるように尽力したい」(鈴木氏)
その意味では、今後のServiceNowの役どころは非常に大きいだろう。
ただ、最後に筆者の印象を述べておくと、日本企業からするとデジタルワークフローの必要性は分かっていても適用に踏み出せないのは、先行あるいは並行してビジネスおよびマネジメントの変革を進める必要があるからだ。
デジタルワークフローの適用に当たっては、経営の在り方を見直すことが不可欠だ。DXでいえば、デジタルワークフローはあくまで「D」であり、導入すれば自動的に「X」を進めてくれるわけではない。ServiceNowもパートナー企業と共に支援していく構えだが、Xを進めるのは導入企業そのものであり、その最高責任者はまさしくCEO(最高経営責任者)だ。まずはその覚悟を持って臨むことが、デジタルワークフローを採用する企業にとって最も重要であることを訴求しておきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「Weekly Memo」記事一覧
ITバブル到来か? 年収2000万円以上稼げるスキルを紹介
スキル格差によって、企業は優秀な技術系人材に高額な報酬を支払うようになり、2023年の技術系人材の平均年収は2万ドル(約300万円)上昇した。あるスキルを持っていれば2000万円以上の給与を支払われるケースもあるようだ。
富士通、NEC、NTTデータの最新受注から探る「2024年国内IT需要の行方」
2024年の国内IT需要はどう動くか。富士通やNEC、NTTデータのITサービス大手3社の最新受注状況から探る。
これからPaaSの時代が来る――そう感じさせるServiceNowの“動き”とは
クラウドサービスと言えばIaaSとSaaSが目立ちがちで、その間のアプリケーション開発基盤となるPaaSはどちらかに含まれて語られるという印象がある。だが、DXの進展に伴って、これからPaaSの時代が来るのではないかとServiceNowの動きから感じた。どういうことか、解説しよう。
パソナグループ、ServiceNowらが連携 「3つの掛け合わせ」で中堅企業のDXを推進
パソナグループとServiceNow、サークレイス、テキーラ、アオラナウが連携し、日本企業のDX支援を推進する取り組みを開始した。各社の得意分野を掛け合わせて中堅企業マーケットの開拓を目指す。
ANAシステムズは「システム運用の自動化」をいかに実現したか
レガシーシステムのモダナイゼーションを運用負担が軽減される形でいかに進めるか。航空システムという「絶対に間違いが許されない」領域の運用を「No-Ops」で自動化したANAシステムズの事例を見てみよう。

