「AIエージェント」とは何か、何ができるのか セールスフォースの会見から読み解く:Weekly Memo(2/2 ページ)
企業のAI活用で注目度が高まっている「AIエージェント」。AIエージェントとは何か、一体何ができるのか。どのような目的での利用が想定されているのか。セールスフォース・ジャパンの会見から、その正体を探る。
セールスフォースがAIエージェントを提供する理由
「AIエージェントは、組織の力に制限を無くす」
前野氏はこうも述べた。どういうことか。
「これまで組織は従業員の生産性によって活動を支えられてきたが、昨今の人手不足によってその生産性を維持することが難しくなってきている。一方で、製品やサービスに対する顧客の期待は高まっており、その間のギャップは広がるばかりだ。それに対し、AIエージェントを活用することで生産性を上げ、人はもっと人としてやるべきことに注力する。そうすれば、組織の力は理論上、無限のスケール性を持つことになる。こうした働き方を実現するのが、これからの経営の重要なポイントになるだろう」
すなわち、AIエージェントの活用は、企業にとって人手不足の解消策、さらには労働力の強化につながるというわけだ。
その上で、前野氏が満を持して紹介したのが、Agentforceだ(図3)。
「当社はAgentforceによって『人間+AIエージェント+データ+CRM』の実現を目指している。AIエージェントは自律的に労働力を強化するが、人間の全ての役割を代わりに担えるわけではない。営業において見込み客と商談を進めたとしても、金額的なやり取りは人間が実施する必要がある。そうしたAIエージェントと人間の連携について、図3では外側のAgentforceと、その内側の『Customer 360』として描いている。当社のCRMであるCustomer 360が各分野での人間の営みを示し、それぞれの分野でAIエージェントが伴走するといった構図だ。また、AIエージェントが伴走して任務を実行するにはそのためのデータが必要なので、『Data Cloud』との連携も欠かせない。セキュリティやプライバシー、アナリティクス、ユーザーインターフェイスなどの基本機能を備えたSalesforceプラットフォームを基盤とした世界観が、Agentforceの目指すところだ」
改めて図3を見ると、Customer 360とAgentforceは表裏一体という構図だ。これはまさしくリアルとバーチャルが対になって動く「デジタルツイン」ともいえるだろう。
また、前野氏は「AgentforceはAIエージェントとして2つの提供形態がある」と述べた(図4)。
図4には5つの提供形態が記されているが、上から4つ目までは各分野でのAIエージェントの活動なのに対し、5つ目の一番下は個別の業務に対応したカスタムAIエージェントも構築可能としている。つまり、各分野に予め対応したAIエージェントと、カスタマイズできるAIエージェントの2つの提供形態が用意されているわけだ。
Agentforceについてこのように説明してきた前野氏は最後に、AIエージェントで実現したいこととして、次のように述べた(図5)。
「AIエージェントによる当社のアプローチとして大事にしているのは、より多くの商談につながって売り上げ拡大に貢献することや、より高い顧客サポートを提供するといったカスタマーサクセスを実現することだ。今、多くの企業でAI活用のプロジェクトが進められており、多くのリソースが注入されている。さらに自社の業務に合ったAIモデルを作るためには相応のトレーニングを実施するなど、さまざまな取り組みが必要となる。Agentforceは単なるAIエージェントだけでなく、それを活用するために必要なものを仕組みとして提供している。図5で言えば、ユーザーには水面下の労力を極力かけず、水面上のカスタマーサクセスにフォーカスしていただこうというのが、Agentforceの狙いだ」
Agentforceは単なるAIエージェントではなく、AIエージェント活用ソリューションといったところか。目的がカスタマーサクセスというのもSalesforceらしいところだ。おそらく多くのSalesforceユーザーがAgentforceを「雇う」だろう。
そこで、AIエージェントをいち早く提供する同社に求めたいのは、ユーザーと共同で投資対効果を明らかにしてほしいということだ。投資額は公表できないとしても何らかの形で投資対効果を示す手段を模索してもらいたい。効果だけでは本当にユーザーのためになっているのかどうか分からないので、ぜひ検討していただきたい。
筆者がこう訴える背景には、「企業にとってAIは宝の持ち腐れではないか」との見方もあるからだ。企業への投資筋もAIに対しては冷ややかに見る目も少なくない。その多くが、AIそのものに懐疑的なのではなく、企業が活用できるようになるまでには思いの外、時間がかかるのではないかと見ているからだ。そうした懸念を払拭するためにも、投資対効果がしっかりと上がっている事例を示したいところだ。SalesforceをはじめAIエージェントを提供するSaaSベンダーには、AIパワーを証明する意味でもトライしていただきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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