Salesforceの動きに見る「AIエージェントの最前線」 相互運用はどの程度進んでいる?:Weekly Memo
業務アプリケーションにおけるAIエージェントの最前線の動きとはどんなものか、MCPサーバやA2Aを通じた相互運用はどの程度実現しているのか。Salesforceの最新の動きから考察する。
業務アプリケーションにおけるAIエージェントの最前線の動きとはどんなものか。AIエージェントを企業が利用する上で重要な、MCPサーバやA2Aを通じた相互運用はどの程度実現しているのか。CRM(顧客情報管理)を提供するSalesforceが発表した最新のAIエージェントソリューションの動きを追いながら、その勘所を考察する。
「3つの動き」に見るAIエージェントの最前線
Salesforceの最新AIエージェントソリューションというのは、同社が米国で2025年6月下旬に発表したAIエージェント活用プラットフォーム「Agentforce 3」のことだ。これを受けて、同社の日本法人セールスフォース・ジャパンが7月28日、日本市場でも提供開始することを発表(注1)した。
Salesforceが「デジタル労働力を生み出すプラットフォーム」と銘打って2024年9月に発表した「Agentforce」は、企業のあらゆるデータの基盤となる「Data Cloud」で利用する同社の業務アプリケーション群「Customer 360」に適用するAIエージェントを活用する環境だ(図1)。
セールスフォース・ジャパンの三戸篤氏(専務執行役員 製品統括本部 統括本部長)は発表同日に開いたプレス・アナリスト向け説明会で「Agentforceの活用は幅広い業務分野に広がっている」と胸を張った(図2)。これまでグローバルで8000社を超える企業が導入の契約を結んだという。
三戸氏によると、Agentforceは当初「あらゆる顧客体験に対応する、信頼できる自律型AIエージェント」として登場した。その後、推論エンジンや開発者向けツールを強化し、今回の「3」では「完全なる可視性とシームレスな相互運用性によるデジタル労働力の可能性を解き放つ」ことをスローガンに掲げている。
強化された機能のポイントは、次の3つだ(図3)。
- 完全なる可視性: 「人とエージェントがハイブリッドで働く環境を管理して、計測し最適化していくために可視化できるようにした」(三戸氏)
- 短期間での価値実現: 「200以上の業種や業態にまたがるさまざまなアクションに関するテンプレートを提供することにより、AIエージェントの効果をより早く生み出せるようにした」(同)(図4)
- オープンな相互運用性: 「AIエージェントが必要なツールと安全にやり取りできるオープン環境の実現に向け、MCP(Model Context Protocol)を活用した外部のリソースとの接続を可能にした」(同)
Agentforce 3で機能強化されたこれらの点が、まさしく業務アプリケーションにおけるAIエージェントの最前線の動きといえるだろう。
以下では、この中から3つ目のオープンな相互運用性に注目したい。
AIエージェントの本質は相互運用性の効果にあり
オープンな相互運用性について、セールスフォース・ジャパンの前野秀彰氏(製品統括本部 プロダクトマネジメント&マーケティング本部 ディレクター)はその具体的な仕組みとして、「AgentforceにMCPクライアントがネイティブに組み込まれ、カスタムコードなしでMCP準拠のあらゆるサーバーにAgentforceのAIエージェントが接続できるようになる」と説明した(図5)。
MCPはAIエージェントをさまざまなツールとつないで活用できるようにするプロトコルで、このMCPを補完する形でAIエージェント同士をつなぐ「Agent-to-Agent」(以下、A2A)とともに、AIエージェントをオーケストレーションさせるための標準技術として捉えられている。
前野氏はさらに、「(Agentforceのマーケットプレースである)『AgentExchange』を通じて信頼できるMCPサーバーを発見し、容易に追加することができる。組織がチーム全体にAIエージェントを導入する中で、AgentExchangeは既にパートナー企業が構築したエージェントアクションやテンプレートを通じて、迅速に価値創出できる信頼性の高いツールを簡単に整備できる仕組みを実現している。今後、企業は30社以上のパートナーが提供するMCPサーバーを利用できるようになり、新たなツールやリソースへのアクセスも可能になる」とも述べた。
図6が、MCPによるパートナーの顔ぶれだ。AIエージェントを提供する業務アプリケーションベンダーは、これからどこもこうした形のパートナーエコシシテムを拡大するとみられるが、現時点で30社以上のパートナーの顔ぶれを一覧にして見せたのは、筆者の知る限りSalesforceが初めてだ。その意味でも同社は先陣を切っているといえるだろう。
ただ、今回の会見では同社も積極的に取り組んでいるA2Aを巡る動きについての言及がなかったので、質疑応答で聞いてみたところ、前野氏は「A2Aについても相互通信の形態が整備され次第、Agentforceに組み込む方向で準備を進めている」とのことだ。
A2Aの動きについては、本連載の2025年7月7日掲載記事「AIエージェント連携技術『A2A』標準化へ 7社の狙いと『顔ぶれ』の意味を読む」を参照していただきたい。
このオープンな相互運用性については、本連載でもこれまでマルチベンダーやマルチエージェントの連携・相互運用性を実現するオーケストレーションやマネジメントについての必要性や課題、ベンダーの取り組みなどについて多くのスペースを割いて解説してきた。
なぜか。どの企業もさまざまな業務アプリケーションを使っていることから、AIエージェントもマルチベンダーに対応して業務を越えて使えなければ、企業として業務全体の効率化や生産性向上につながらないからだ。
業務アプリケーションベンダーはどうしても自らの製品群に適用するAIエージェントをアピールし、売り込もうとする。それはビジネスだから当然だ。しかし、ユーザー側は例えばSalesforceの製品群だけで全ての業務を回せるわけではない。
とりわけ自律的に業務を代行するAIエージェントは、そうした縦割りの業務を飛び越えてこそ最大の効果を生み出せる。それがAIエージェントの本質だと、筆者は考える。
ただ、このテーマで最近取材をしていて強く感じるのは、「オーケストレーションはまだ先の話」との受け止め方が多いことだ。まずはうまく使えるかどうかを部分的に試してみることから始めるのは当然のことだ。問題はその先の活用シナリオを企業としてどう描くか。AIエージェントをどう使うかは単なるITツール導入ではなく、ビジネスもマネジメントも合わせた経営改革そのものの話だ。
従って、AgentforceのようなAIエージェントのオーケストレーションプラットフォームは、まさしく経営改革の基盤となるものとして企業は受け止めるべきだ。その上で、自らの意思でソリューションを選択し、改革を進めてもらいたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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