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脱「使われないデータ基盤」 セゾンテクノロジーが4年で挑んだ全社活用全社員が“自走”するためのデータ民主化

セゾンテクノロジーは、非エンジニアを含む全社員が使うデータ基盤を構築した。安心して使えること、誰でも使えること、知恵を生かせることを段階的に実現した試行錯誤と生成AI活用の軌跡から、成功の鍵と今後の方向性を考察する。

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 AIの活用が企業の競争力を左右する現在、多くの企業が「データドリブン経営」を掲げている。しかし、データ基盤を構築するだけでは現場に浸透せず、知識やノウハウを持つ社員しかデータを使いこなせないといった企業は多い。どうすれば社員がデータを活用する環境を実現できるのか。

 その問いに正面から向き合い、4年にわたって実践知を積み上げているのがセゾンテクノロジーだ。同社の佐々木勝氏(情報システム部 IT推進課)は「Enterprise IT Summit 2026 冬」(ITmedia エンタープライズ主催、2026年2月16〜19日開催)で「全社員で実現するデータ駆動経営:試行錯誤の4年間と今後の展望」と題したセッションに登壇して、データ基盤の設計から現場への浸透、AIの実装、次の一手まで語った。

データ活用基盤「DDP」の全体像

 セゾンテクノロジーはデータ連携やシステム統合を中核事業として、ファイル転送・データ連携ツール「HULFT」やデータ連携ツール「DataSpider」などを提供している。同社は2020年11月にデータ活用の取り組みを開始。2021年4月にDWH(データウェアハウス)として「Snowflake」を採用し、2022年4月に「データドリブンプラットフォーム」(DDP)として全社に展開した。DDPについて、佐々木氏はこう説明する。

 「DDPは、DWHに統合したデータを全社員が自由に活用できる環境です。単にためるだけでは利用が困難なデータを、いつでも、誰でも取り出して使えます」

 この「いつでも、誰でも」を実現するため、同社は4つのフェーズ(データ探索、取得、加工の自動化、可視化)に合わせて「4種の神器」と呼ぶツール群を用意した。ITスキルの高低を問わず、社員が「今の自分にできること」からスモールスタートして段階的にスキルアップできる設計にした。

「攻め」の活用を支える「守り」の要

 「DDP 1.0」(2021年〜2023年前半)では、「安心して使える環境整備」と「社内システムデータの収集・統合」に注力した。その中核がセキュリティ設計とID管理だ。

 社員のデータアクセスには、利便性とセキュリティのトレードオフが課題になる。特定の部門だけがデータを扱う場合とは異なり、データリテラシーにばらつきがある社員を適切にアクセス制御する必要があるからだ。

 そこで同社はSnowflakeの「ロールベースアクセス制御」(RBAC)を採用した。各社員に個人ロールと所属の部門ロールをひも付ける設計で、データのアクセス権を個人単位で管理する。

 「人事部は人事ロールを持つのでセンシティブな情報にアクセスできますが、他の社員は一般ロールのみなので参照できません。個人ごとに見える/見えないを細かくコントロールしています」

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専用ロールによって、閲覧できるデータを管理(提供:セゾンテクノロジー、以下同)《クリックで拡大》

 RBACは、4種の神器を通じたアクセスにも適用している。同一の処理フローでもユーザーのロールによってアクセスできるデータ範囲が変わる。

 ユーザー向けの開発テンプレートでもセキュアな環境を担保している。セキュリティハンドリングとエラー処理をあらかじめ組み込み、ユーザーにセキュリティ対策の知識がなくても安全に利用できる。

 セキュリティ設計の次に立ちはだかるのが、ID・権限管理の運用負荷だ。入社や退社、異動のたびにIDや権限を更新する必要があり、これを手作業で行うと工数が膨大になる上、ヒューマンエラーのリスクも伴う。

 そこで同社はオンプレミスの社員マスターを「Microsoft Entra ID」を介してSnowflakeと連携させ、ID・権限を自動で同期できるようにした。入社時はIDと専用ロールを自動でアサインして、退社時にはIDを自動で無効化する。異動時は社員マスターから情報を日次で抽出して、ロールの見直しが必要なユーザーを管理者に通知する仕組みだ。

 「社員マスターとSnowflakeのID・権限を同期することで、社員は異動当日から適切な権限でDDPを利用できます。手作業に起因する遅延や誤りがなくなり、運用の信頼性が大きく向上しました」

 DDP活用のためのノウハウ提供にも力を入れた。ポータルサイトを開設して、利用申請や規約、データの鮮度情報といった情報を集約した。DDPを自由に使える実行環境やチュートリアルの整備、セミナーコンテンツの公開、SlackでのQ&Aサポートなど、セルフ学習とスキル向上を支援する仕組みも整えた。

期待を阻んだ2つの壁を生成AIで突破

 ところが、こうした環境を用意したにもかかわらず、DDPのユーザー数は想定していた水準まで伸びなかった。解決策を探るため、佐々木氏らはユーザーにヒアリングを実施した。

 そこで寄せられたのは「業務に忙殺されて学習時間を確保できない」「ツールがオーバースペック」「データの存在は知っているが、自分の欲しいデータをうまく見つけられない」「業務のヒントになる情報や事例が欲しい」「データをどこまで信用してよいか分からない」という声だった。

 佐々木氏はこれらを「データ活用スキルの壁」と「データを理解する壁」に整理した。

 「ユーザー数が伸びなかったのは、社員の負担を前提とした設計だったからです。ツールを知らなくても、データの所在を知らなくてもデータを扱える世界観に変える必要があると気付きました」

 こうして、2023年後半に「DDP 2.0」への移行が始まった。生成AIが急速に普及する中、セゾンテクノロジーはLLMの研究開発に取り組み、成果をDDPに実装する方針を打ち出した。

 2024年6月にリリースしたのが、自然言語でDDPと対話できるAIアプリケーション「ChatDDP」だ。ユーザーが問い合わせると、ベクトル化したテーブル定義やメタデータを参照した生成AI「Azure OpenAI Service」がSQLを自動生成し、DDPにクエリを発行して回答を返す。データが業務システムからDDPに日次で連携されるため、ユーザーは最新情報に基づいた回答を得られる。

 「ChatDDPによって、SQLやツールの知識がなくてもデータを活用できるようになりました。ユーザーはDDPのデータ定義を意識せず、知りたいことを自然言語で入力するだけで必要な情報を取得できます。簡易なグラフも作成できるので、データの可視化による気付きも得られます」

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自然言語で必要なデータを得られるChatDDP《クリックで拡大》

 ChatDDPは、4種の神器が担ってきた機能を単一のアプリケーションかつ自然言語でカバーできる。RBACが引き継がれており、「Okta」によるシングルサインオンでログインした時点でSnowflakeのロールとひも付けられて権限範囲内のデータのみが回答に用いられる。

AIの精度を左右するメタデータの品質

 ChatDDPにも問題がなかったわけではない。リリース当初に回答品質を分析した結果、メタデータの整備不足が明らかになった。

 AIの回答精度はメタデータの品質に大きく依存する。人間はデータの背景や欠陥を暗黙知で補いながら答えを導き出すが、AIは与えられたデータをそのまま処理するため、暗黙知を“察する”ことができない。

 「データの背景や文脈をメタデータとして整備し、AIに正しく与えられるかどうかで回答の精度は大きく変わります。これは地道な作業ですが、手を抜けない部分です」

 この問題に対応するため、セゾンテクノロジーはメタデータの管理に「HULFT DataCatalog」を利用している。蓄積したメタデータをAIがSnowflakeで参照できる状態にすると同時に、ユーザーがデータを探す場としても機能させている。

「DDP 3.0」で目指す知識の活用

 DDP 2.0で一定の成果を収めた同社は、2026年から「DDP 3.0」に踏み出した。コンセプトは「コミュニケーションデータの知識化」だ。1.0と2.0を通じて、業務システムから生まれる構造化データはほぼDDPに集約できた。しかし佐々木氏は、DDPにまだ格納できていない“お宝データ”があると指摘する。それは日々の会話やチャット、会議の録画・要約などのデータだ。

 「過去の問題解決策が引き継がれていない、設計の経緯がどこにも残っていないといったケースは珍しくありません。企業の知恵は日々のコミュニケーションから生まれているのに、個人の記憶に眠ったままだと明文化されません。そうした知恵こそ本来生かされるべきものです」

 DDP 3.0ではWeb会議やチャットで生じる非構造化データをDDPに取り込み、「AI-Ready」な状態に変換することを目指している。文字起こし、要約、ベクトル化などの処理でメタ情報を付与して、AIアプリケーションがすぐに活用できる形に整える。

 「ユーザーが『なぜこの設計になったのか』と問い合わせたとき、AIが『それはいつの会議でこう決まった』『議事録はここにある』と回答できるようにする計画です」

 構想の第1弾として、2026年2月6日に会話データを活用したAIアプリケーションをリリースした。情シス部門のSlackチャンネルへの定型的な問い合わせにAIが一次回答する仕組みで、ヘルプデスク担当者の工数削減を図る。

 DDPの軌跡を整理すると、1.0は「データを集める」、2.0は「誰でも使える」、3.0は「組織の知恵を生かす」という段階的な深化がある。この歩みが示すのはデータ基盤の整備と同等かそれ以上に、使う側の負担を取り除く設計とAIと人を補完させるメタデータ戦略が重要だという教訓だ。データ活用は、ツールの導入だけでは完結しない。

 「これからもデータ駆動経営の実現に向けて進化を続けたい」と語り、佐々木氏はセッションを締めくくった。データ活用の浸透に課題を抱える担当者にとって、同社の4年間は示唆に富む事例と言える。

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提供:株式会社セゾンテクノロジー
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2026年4月24日

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