AIエージェントを「人材」として生かすには Workdayの新戦略から探る:Weekly Memo
AIエージェントをツールではなく「人材」として生かしていくにはどうすればよいか。Workdayの新戦略から「人事×AI」の勘所を探る。
さまざまな業務を人に代わって自律的に担うAIエージェント。ツールではなく「人材」としてAIエージェントを生かそうと、企業の人事(HR)部門が動き始めている。こうした動きに対応しようと、人事分野でグローバルにソリューションを展開するWorkdayが新たな戦略を打ち出した。その内容のポイントを挙げながら、「人事×AI」の勘所を探る。
ワークデイが説く「HRモダナイゼーション」とは
「最近、人事部門の責任者とお話しすると、『AI活用の動きは人事にとって大きなプラス効果がある。企業としてAIの取り組みを考えると、人事のノウハウが必須となるので、経営サイドからは積極的に取り組むように言われて予算もついて、いろいろなトライができるようになってきたからだ。これからの人事の役割はAIをトリガーに大きく変わるだろう』といったことをよく聞くようになった。明らかに新たなトレンドが動き始めている」
米Workdayの日本法人ワークデイは2026年4月14日に事業戦略に関する記者説明会を開いた。同社の陣頭指揮を執る古市力氏(エグゼクティブ・プレジデント 兼 日本代表)は、国内での「人事×AI」のトレンドを示しながら(図1)、顧客企業との最近の会話について、こんなエピソードを披露した。その上で「人事領域でも“AI前提”の動きが進展している」と述べた同氏の話が印象的だったので、まず紹介しておきたい。
Workdayは人事管理を中心としたエンタープライズアプリケーションをクラウドサービスで提供し、年間売上高は95億3400万ドル(FY26=2026年1月期)、従業員数は2万人超、グローバルの顧客数1万1500社超といった実績を持つソフトウェアベンダーだ。エンタープライズアプリケーション分野ではOracleやSAP、Salesforceに次ぐ規模になる。
そんな同社もAI活用に向けて新たな戦略を打ち出している。以下、古市氏が会見で示した4つの図から、日本法人の取り組みのポイントを紹介していこう。
図2は、同社における過去3年の取り組みの推移だ。
米国本社からすると、3年前に日本を独立リージョンと位置付けてからの戦略的投資の軌跡でもある。とりわけ直近のFY26では、日本法人は「HRモダナイゼーションの本格展開」として、図2に示した取り組みを実施した。同社は「HRモダナイゼーション」をスローガンとして掲げている。
図3は、HRモダナイゼーションに向けた日本企業の成熟度ステージを表したものだ。
古市氏によると、日本企業における成熟度は、「JTC」(Japanese Traditional Company)から変革に着手して「脱JTC」を図り、先進のグローバル企業と同等の「ワールドクラス」となり、そして人とデジタルが融合した「AI-ready」になるという4つのステージがあるという。
図3の下部に記載されているのは、それぞれのステージにおける制度やIT面での特徴だ。AI-readyは、制度・仕組み面には「AI-readyな組織・人材」「人間とデジタルワークフォースの協働」、IT面には「AIエージェント」「AI活用のためのクリーンデータ基盤」と記されている。人事部門の観点からすると、制度における特徴をどう実現するかが、日本企業にとってこれから大きなチャレンジになるだろう。
AIエージェントの管理・活用へグランドデザインを描け
図4は、ワークデイにおけるFY27(2027年1月期)の事業戦略を示したものだ。
「HRモダナイゼーションの推進を継続しながら、AI-ready支援を進展させる」ことを掲げ、戦略として追加したAI-ready支援の具体策として、「包括的なAIソリューションの提供」「AI-readyへの伴走・サポート体制の強化」「パートナービジネスの強化」の3つを挙げた。
図5は、そのうちの包括的なAIソリューションにおける注目点を挙げたものだ。
Workdayが現在提供しているAIソリューションは、HR系AIエージェントをはじめ、ユーザーがAIエージェントを開発できる「Agent Builder Pro」、従業員とAIエージェントを一元管理できる「ASOR」(Agent System of Record)から構成されている(図5左)。図5の右に記されている新たな従量課金モデル「Flex Credits」は、「SKU(Stock Keeping Unit)ごとの契約無しで、ユニバーサルに利用可能な従量課金クレジットモデル」だ。今後のAIエージェントの料金モデルに一石を投じるものになるだろう。
なお、ASORについては、企業全体の業務にマルチベンダー・マルチタスクのAIエージェントをオーケストレーションさせて活用でき、マネジメントを実施する「エージェンティックAIプラットフォーム」になり得る。2025年6月2日公開の本連載記事「AIエージェントの活用に人事管理をどう生かす? Workdayの戦略から探る」で解説しているので、参照されたい。
ただ、エージェンティックAIプラットフォームについてはビッグテックベンダーがひしめく激戦市場になりそうだ。WorkdayとしてはASORの考え方を生かして他のプラットフォームとも柔軟に連携できるようにして、場合によっては他のプラットフォーム同士をつなぐ役割も果たしたいところだ。この点について会見の質疑応答で聞いたところ、「ASORはそうした連携機能も備えている」(古市氏)とのことだった。
冒頭で紹介した古市氏による顧客企業との最近の会話のエピソードをはじめ、今回の会見を通じて筆者が感じた「人事×AI」のキーワードは「AI-readyな組織・人材」だ(図3)。これを推進するのは、他でもない人事部門だ。もしくはDX(デジタルトランスフォーメーション)およびAIの専任組織を設けて推進するにしても、人事は深く関わる必要がある。
AIエージェントをツールではなく人材として生かしていくならば、今の段階で経営トップの直轄によって人事とITやDX、AIの組織から精鋭を集めたタスクフォースを設け、AIエージェントの管理や活用に向けた企業としてのグランドデザインを早急に描くべきだ。そのタスクフォースを起点に融合組織を作っていけばいい。AIエージェントを生かすグランドデザインができれば、それがすなわち人を生かすことにもなるはずだ。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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