キャンパーの必需品「ペグ」が法廷闘争に 「ソリッドステーク」のスノーピークが「エリッゼステーク」販売元を提訴
テントやタープを張るのに必須の道具「ペグ」。高品質なペグとして知られる「ソリッドステーク」と「エリッゼステーク」という2つの鍛造ペグをめぐって法廷バトルが勃発しました。一体何が起きたのでしょうか。
テントやタープを張るのに必須の道具、ペグ。中でも、高品質なペグとして知られるのが「ソリッドステーク」と「エリッゼステーク」という2つの鍛造ペグです。愛用するキャンパーも多いこの2つのペグにバトルが勃発し、法廷で争われることになりました。一体何が起きたのでしょうか。
「デザインに誇り」──スノーピークが“エリステ”の販売中止を求めて提訴
「当社としては話し合いによる解決の見込みがなくなったと判断」──「ソリッドステーク」(ソリステ)を販売する「スノーピーク」(snow peak、新潟県三条市)は12月9日、「エリッゼステーク」(エリステ)を販売する山谷産業(新潟県三条市)が不正競争防止法に違反しているとして、エリステの製造販売差し止めと損害賠償の支払いを求めて東京地裁に提訴したと発表しました。
スノーピークはキャンパーに人気のアウトドア用品メーカーで、東証1部上場企業。ソリステは1995年に発売し、「鍛造製による質感を始めとする独自の特徴的形態」があると主張しています。山谷産業が2013年に発売したエリステについて、「その形態が当社の『ソリッドステーク』の形態と同一又は酷似するものであるとの疑い」から、山谷産業と何度か話し合いを進めようとしたものの、協議による解決を断念して訴訟に踏み切った──という説明です。
スノーピークの製品は品質の高さに加え、独自のデザインが人気のポイント。「商品のデザイン創作に多大な費用と時間と労力を費やしております」という同社は、「スノーピークならではのデザインを、とても大切にしており、またそれらのデザインがお客様にご愛好いただけていることに誇りを持っております」とニュースリリースで述べています。
このため「お客様が『スノーピークの商品である』と誤認し、混同してしまうおそれがあると考えられる後発的なデザインについては、これらを看過することはできないと考えており、常に厳格な対応を行って参りました」とコメントしています。
エリステ側は「ソリステに酷似はしていない」と反論
スノーピークと同じ新潟県三条市の山谷産業は、提訴を受けて、「当社としては、『エリッゼステーク』と『ソリッドステーク』の形態は同一または酷似しておらず、スノーピーク社の主張するような違反の事実はないものと考えております」と反論。「粛々と対処」する方針を明らかにしています。
また、スノーピークの発表について、
まだ本訴訟の審理結果が出ていない段階にもかかわらず、当社の行為が不正競争防止法違反であると決めつけ、当社製品のお客様や当社の取引先を含む関係者に対し誤った印象を植え付けようとするものであって、当社として到底これを看過することはできません。したがって、S社告知に対しては、前述の専門家とも協議の上、速やかに然るべく対処を講じる所存です。
──と批判しています(ニュースリリースより)。
ソリッドステーク──「スノーピークのシンボル」
ソリッドステークはスノーピークが自ら「スノーピークのシンボル」と呼ぶペグ。ペグは消耗品という考え方を一新した、鍛造ペグの元祖と言える存在です。「ソリッド」(solid)は「硬い」、「ステーク」(stake)は「杭」を意味します。
スノーピークの地元、燕三条に伝わる鍛造製法で鍛えた鋼材に、自動車の外板にも使われる防さび性の高い「カチオン電着塗装」によりブラックカラーをまとわせた、質実剛健な外観です。ヘッドは円柱形で打ち込みやすく、地中の岩を砕いてがっちりと食い込みます。ヘッド部にある穴は、同社のペグ専用ハンマーで引き抜くのに便利なフック用です。
エリッゼステーク──割安でカラフル
エリッゼステークは、山谷産業が「村の鍛冶屋」ブランドで2013年から販売する鍛造ペグです。こちらも「鍛冶の本場 燕三条製」をうたっており、引き抜きに便利なフック穴も備えたデザインです。
商品名はイタリア語で「楕円」を意味する「エリッゼ」(elisse)に、英語で「杭」を意味する「ステーク」(stake)を組み合わせたもの。ペグ断面が楕円になっており、地中で回転しにくいという機能性を名前に込めています(ちなみに、ソリステも断面は楕円です)。
ソリステに比べると割安な上、鍛造ペグとしての品質も高い上、基本的に黒一色のソリステと異なり、多彩なカラーをそろえているのがエリステのポイントです。カチオン電着塗装に加え、粉体塗装やメッキによるカラフルなバリエーションがそろっています。色付きのペグは地面に置いても目立ちやすく、つまづいたり、置き忘れにくいのがありがたいところ。エリステも多くのキャンパーに愛用されています。
どうなる訴訟の行方
スノーピークはエリステについて「その形態が当社の『ソリッドステーク』の形態と同一又は酷似するものであるとの疑い」があると主張し、同社にとってのデザインの重要性を述べているように、問題となっているのは第一にペグのデザインのようです。
商品のデザインを保護するものとして「意匠権」があります。ソリステは1997年5月に意匠登録(登録意匠番号990949)されていますが、この当時に登録された意匠権は最長15年で切れるため、現在のソリステに意匠権はありません。
このため、スノーピークが提訴の根拠にしたのが「不正競争防止法」です。同社は提訴にあたり、元知財高裁判事に中立的な立場から意見を求めたところ、「エリステの製造販売は不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当する可能性が高い」との意見を得たとしています。
不正競争防止法の2条1項1号では、「混同惹起行為」、つまり既にある商品と似たような商品や名称を使うことで「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を規制しています。商品の形態がその会社・ブランドの目印としてよく知られており、消費者が両者の商品を混同するおそれがあること──などが要件です。過去には「iMac」のAppleが、よく似たデザインのWindowsパソコン「e-one」(ソーテック)について混同惹起行為だと主張して提訴し、e-oneの製造販売差し止めが認められたことがあります。
不正競争防止法は、原産地の偽装やコピー商品、ブランドのただ乗り(フリーライド)、営業秘密の漏えいといった不正競争行為を規制するための法律です。ソリステのの意匠権は切れているのでデザイン自体では争えませんが、「エリステのデザインが似ていることでソリステと混同されるおそれがある」と、不正競争防止法を根拠にすることで提訴したと考えられます。スノーピークがニュースリリースで「お客様が『スノーピークの商品である』と誤認し、混同してしまうおそれがあると考えられる後発的なデザインについては、これらを看過することはできない」と強調しているのは、このような背景からでしょう。
ソリステとエリステという人気の鍛造ペグ。キャンパーとしても訴訟の行方は気になるところです。
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