現在、日本では国内外メーカーのバイクが600車種以上も購入できると言われています。四半世紀以上にわたって数多くのニューモデルに試乗してきたバイクジャーナリストが、ここ3年以内で特にインパクトを受けたモデルを5台紹介しましょう。
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
排気量の大きなバイクと聞いて、まず誰もが思い浮かべるのが米国のハーレーダビッドソンでしょう。2023年6月にはハーレー史上最大となる1977ccのV型2気筒エンジンを搭載したモデルが発表されるなど、今なお排気量は増加傾向にあります。
そのハーレーを抑え、量産バイクとして最も大きな排気量のバイクを販売しているのが、イギリスのトライアンフです。およそ20年前の2004年に発売された「ロケット3」というシリーズがそれで、搭載される水冷直列3気筒エンジンは何と2294cc! 2020年にはエンジン、車体とも完全新設計となり、排気量は2458ccにアップしました。
乗用車で言えば3ナンバークラスのエンジンを抱えるロケット3。スロットルを大きく開ければ、“突進”や“瞬間移動”などと表現できるほどの猛烈な加速力を見せますが、巡航時のエンジンフィールは極めてジェントルかつシルキーで、この二面性こそがシリーズ最大の魅力と言えるでしょう。
ハンドリングも、この個性的なスタイリングから想像できないほどナチュラルで、ライダーをアシストする電子制御システムも充実。ちなみにハーレーのラインアップの大半が300万円をオーバーしますが、ロケット3 Rは282万5000円に抑えられているのも見逃せないポイントです。
ヤマハから「トリシティ」という名の原付二種コミューターが発売されたのは2014年のこと。フロント2輪・リア1輪という特殊な構造ながら、操舵(そうだ)のフィーリングは一般的なスクーターとほとんど変わりません。
それでいて、コーナリング中はまるでフロントタイヤが路面に吸い付いているような安心感があり、バイクにとっての新時代が到来したことを実感しました。
フロント2輪・リア1輪というレイアウトは目新しく思われますが、実はトリシティがデビューする6年前に、イタリアのピアッジオが「MP3」というモデルで実現していました。筆者はその初代モデルを試乗しているのですが、トリシティと同様にフロントタイヤの接地感に感動したことを今も鮮明に覚えています。
ヤマハは、ピアッジオの持つ特許を巧みに回避しつつ同等以上のシステムを構築し、トリシティシリーズについては125cc/150cc/300ccとラインアップを拡充。さらに「ナイケン」という888ccのスポーツモデルまで発売するに至りました。
先日、「トリシティ125」と「155」の最新モデルに試乗しました。足周りやフレームが刷新され、ハンドリングがより自然になりました。多くのライダーに体験してほしい秀作です。
2015年、カワサキは量産バイク初となるスーパーチャージャー付きのエンジンを開発しました。それを最初に搭載した「ニンジャH2R」というモデルは、排気量998ccから310psという途方もないパワーを絞り出したことから、その年の話題を総ナメにしたのです。
そんな強烈なパワーユニットを搭載したネイキッドが、この「Z H2」です。最高出力は200psに抑えられているとはいえ、6000rpmを超えてからの伸び上がりは、まるで地面の上を滑空しているかのように強烈です。
それでいて、低中回転域ではライダーの右手の動きに対してどこまでも忠実で、さらに微振動が極めて少ないこともあり、日常的に使えるエンジンに仕立てられているのです。
筆者が試乗したのは上位仕様の「SE」で、セミアクティブ電子制御サスペンションを採用しています。ギャップ通過時の吸収性は抜群に良く、しかもレインモードに切り替えるとスカイフックテクノロジーが発動し、まるで見えざる何かによって車体が水平に保たれているかのような乗り心地となるのです。
アグレッシブなスタイリングと強烈なスペックに目を奪われがちですが、スーパーチャージドエンジンによる唯一無二のパワーフィールと、それを支える電子制御サスの働きは素晴らしく、この値段がバーゲンプライスに思えるほどです。
カワサキからもう1台、インパクトを受けたモデルを紹介しましょう。「ニンジャZX-25R」は、カワサキとしては13年ぶりとなる250cc並列4気筒エンジンを搭載しています。
現在250ccクラスのエンジンは、単気筒と並列2気筒が主流となっています。厳しくなる一方の排気ガス規制や騒音規制に適合しつつ、高コストの高性能モデルを作り続けるのが難しくなった、というのが4気筒エンジンが消えた理由です。具体的には、2007年に全てのメーカーの250cc4気筒モデルがディスコンとなりました。
そんな中、カワサキはインドネシアで250ccの高性能モデルが売れると判断し、ニンジャZX-25Rを開発したのです。その目論見(もくろみ)は完璧に当たり、2020年9月に日本でも発売されるや否や大ヒットとなりました。
新開発の4気筒エンジンは、スロットルを開けるほどに甲高くなるエキゾーストノートが魅力的で、これは単気筒や2気筒では絶対に味わえません。そして、サスペンションにもコストがかけられており、クラスを超えたスポーティーなハンドリングも有しています。
100万円に迫る車両価格は、250ccクラスとしてはかなり高いのですが、1980年代のレーサーレプリカブームを知る世代、いわゆるシニア層の心をわしづかみにしたことで、発売から3年が経過した今も品薄状態が続いているのです。
最後に紹介するのは、イタリアのドゥカティがラインアップする「ムルティストラーダV4」です。シリーズとしては第4世代にあたり、「4台のバイク(スポーツ、ツーリング、エンデューロ、アーバン)を1台に」というコンセプトを掲げています。
筆者はこれをサーキットで試乗しました。いわゆるアドベンチャーやクロスオーバーなどのカテゴリーに属するモデルですが、ハンドリングは意外なほどスポーティーで、ライダーが膝を擦るほどバンクさせても全く破綻しません。
そして何より驚いたのが、水冷V4エンジンのスムーズさと、電子制御デバイスの高性能ぶりです。前者については無振動と表現できるほどシルキーで、とても1000ccを超えるエンジンとは思えないほど低回転域から滑らかに発進できます。
電子制御デバイスについては、旋回中に無理をするとトラクションコントロールが介入するものの、注意していなければ気付かないほど自然に助けてくれるのです。
アドベンチャー界では、実力でも売り上げでもドイツのBMWが一強状態にあり、それ以外のメーカーを積極的に試乗してこなかったのですが、ムルティストラーダV4に乗ったことで深く反省しました。特に電子制御については、ドゥカティはかなりリードしているといってもよいでしょう。
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