ハーレーダビッドソンジャパンは10月20日、「X350」というニューモデルを発売しました。排気量400cc以下のバイクに乗れる普通二輪免許、いわゆる中免で乗れるハーレーが上陸したということで、SNSを中心に賛否両論が巻き起こりました。
なぜそこまで大きな話題となったのか、そもそもX350はどんなバイクなのか。前編となる今回は、簡単に歴史を振り返りましょう。
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
ハーレーダビッドソンは、1903年に米国のウィスコンシン州ミルウォーキーで創業しました。同社の代名詞ともいえるV型2気筒エンジン、いわゆる“Vツイン”を搭載したモデルは1909年に誕生しており、それ以来110年以上もの長きにわたって進化と改良を繰り返しつつ、このフォーマットを育ててきました。
アメリカ大陸を横断するような長距離クルージングにおいて、このVツインが生み出す三拍子のような鼓動感は非常に心地良く、また造型的にも美しいことから、クルーザー(アメリカン)のエンジンはVツインがマストであるという、半ば縛りのようなものができてしまったほどです。
事実、日本の4メーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)は、現在も北米市場向けにVツインを搭載したクルーザーをラインアップしています。
それほどバイクシーンに多大な影響を与えたハーレーですから、Vツイン以外は認めないという意見があるのも納得です。今回発売された「X350」は、エンジンが水冷並列2気筒(パラツイン)ですから、ハーレーのVツインに心酔している筋金入りのファンからすれば「こんなのは違う」と思われるのも仕方がないでしょう。
現在のハーレーのラインアップは、X350を除けば最小排気量は975cc、最大排気量は1923cc。日本でこれらに乗るには大型二輪免許が必要となります。そして、排気量が増えるほど車体も大きく、かつ重くもなるので、それを軽々と操っているライダーは尊敬の対象となり、総じてステータス性もアップします。
こうした背景もあり、どうしても排気量の話題は避けられないのですが、実はハーレーも第二次世界大戦後、イタリアのアエルマッキと提携するなどして、小排気量のバイクを販売していた時期がありました。
ラインアップの中には65ccのミニバイクや125ccのオフロードバイク、さらには165ccのスクーターや250ccのゴルフカーなどもあり、さながら現在の日本メーカーのようでした。
1978年にアエルマッキがイタリアのカジバに買収されて以降、大排気量のVツインを主流としたメーカーに戻るのですが、X350を語る上でハーレーにもそんな過去があったことは覚えておいて損はないでしょう。
なお、X350は普通二輪免許で乗れますので、既存のハーレー各車よりもライセンスの面でハードルが一段下がることになります。ステータス性は低くなるかもしれませんが、エントリーユーザーが参入しやすくなることは大いに歓迎すべきでしょう。
SNSで意外と多かったのが、X350が中国で生産されることへの意見です。X350および同時発売の「X500」は、イタリアのベネリブランドを所有する中国の浙江QJモータースで生産されます。
確かに米国製ではありませんが、設計はハーレー本社が担当しており、そのことはかつての名車「XR750」をオマージュした隙のないスタイリングからも伝わってきます。
生産国については、実は2022年から一部のモデルを除き、日本で販売されるハーレーはタイ生産に切り替えられました。X350と同様のコンセプトの小排気量モデルがインドでも作られていますので、生産拠点が米国以外にも存在するというのが現在のハーレーなのです。
ハーレーは平均価格が300万円を超える高級ブランドであり、バイクに興味のない人にもその名が通じるという稀有な存在です。そんな米国メーカーが満を持して普通二輪免許で乗れるモデルを日本へ投入するのですから、発表されるや否やさまざまな意見が寄せられたのは無理からぬことでしょう。
しかし、この手法は同じく高級ブランドであるドイツのBMWが先に行っており、一定以上の成功をおさめています。そのため、X350もこれに追従する可能性は極めて高いと思われます。続く後編では、X350がどんなバイクなのか詳しく紹介しましょう。
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