音楽活動を通してメンバーの成長や葛藤、対立を描く「バンドアニメ」。生きづらさを抱えたキャラクターが音楽に乗せて、自分の気持ちを吐き出していく様は、胸に迫るものがあります。今回はそんなバンドアニメのおすすめ作品をピックアップしました。
ここで紹介するのは、物語はもちろんライブシーンや音楽自体が魅力的なアニメばかり。怒りや悲しみ、孤独、やり場のない気持ちを抱えているなら、ぜひチェックしてみてください。自分の魂を解放してくれるような”推しのバンド”に出会えるかもしれませんよ。
フリーライターとして、家電、家具、アニメ等の記事を担当。大学時代から小説や脚本などの創作活動にはまり、脚本では『第33回シナリオS1グランプリ』にて奨励賞を受賞、小説では『自殺が存在しない国』(幻冬舎)を出版。なんでも書ける物書きの万事屋みたいなものを目指して活動中。最近はボクシングをやりはじめ、体重が8kg近く落ちて少し動きやすくなってきました。好きなのものは、アニメ、映画、小説、ボクシング、人間観察。好きな数字は「0」。Twitter:@kirimachannel
春アニメとして絶賛放送中の『ガールズバンドクライ』。高校を中退し熊本から上京してきた主人公・井芹仁菜(いせりにいな)と、そんな仁菜が憧れるダイヤモンドダストの元メンバー河原木桃香(かわらぎももか)との出会いから始まる、ロックなバンドアニメです。
主人公・仁菜は家訓のある少しお堅い家庭で育ち、地元の学校ではいじめに遭うなど、やり場のない怒りと息苦しさを抱えている少女。自分1人でもやっていけることを証明するため、東京に出てからも予備校に通い大学受験を目指します。そんな中、川崎で偶然出会った憧れの存在・桃香のストリートライブを目撃。桃香に誘われる形でバンド活動を始めることになるのですが……。
仁菜の魅力はなんといっても、超が付く程のこじらせた性格。バンド活動に魅力を感じつつも、大学受験があるのと失敗が苦手な性格から”やりたいけどやりたくない”というややこしい態度をとってしまったり、自意識過剰だから仲良く話しかけてくれる相手にも警戒したり、でも距離を取ったら取ったで、本当はひとりぼっちは嫌だから家で泣いてしまったり……。劇中で他のメンバーに指摘されている通り、とにかく面倒くさい性格です。
しかし、その面倒くささによって心の底に押し込められた感情が仁菜の歌声として吐き出された時、聴く者の心を熱くさせる情熱的な音楽となって表現されます。曲がったことが大嫌い、自意識過剰な仁菜のやり場のない気持ちに、ロックという言葉が与えられることで、肯定され居場所ができていきます。第1話のラスト、仁菜の抱えた鬱屈や怒りが歌声と共に爆発するシーンは圧巻です。
その他のメンバーも一筋縄ではいかない事情を抱えたキャラクターばかり。それぞれの抑圧された気持ちが、ライブを通して解放される様子に心を打たれること間違いなしです。
他人と違うことの生きづらさと、お互いのすれ違う想いを克明に描いた『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』。バンド活動が流行っている現代を舞台に、羽丘女子学園の転校生・千早愛音(ちはやあのん)、クラスメイトの高松燈(たかまつともり)、月ノ森女子学園の長崎そよ、花咲川女子学園の椎名立希(しいなたき)、神出鬼没の要楽奈(かなめらーな)の5人がバンドを結成し、さまざまな葛藤と対立を乗り越えて絆を深めていく物語です。
ゴールデンウイークのイレギュラーなタイミングで羽丘女子学園に転校してきた愛音は、バンド活動の流行に乗るため、前の席に座る通称”羽丘の不思議ちゃん”の燈にメンバーになろうと声を掛けるも断られてしまいます。
燈が誘いを断ったのには、苦い過去の経験があるようで……。長崎そよとの出会いから、バンドを組むことになるのですが、そよがバンド活動に前向きなのには少し込み入った事情がありそうという、普通のバンドものよりも先の読めない複雑な構成をしている作品です。
注目して欲しいのは、燈の生きづらさを1人称視点で表現した第3話。燈は幼少期から石や虫集めなど他人と少し違う感覚を持っていることから、人付き合いがうまくいかない女の子でした。周囲になじめず、そんなやり場のない気持ちを人知れずノートに綴るシーンが描かれます。第3話はこうした経験が燈の目線から描かれるので、当事者意識が刺激されますし、居場所の無さや孤独を抱えている人には間違いなく刺さるはずです。
そんな燈の孤独な思いや喜びが歌詞として表現され、歌になり1つの音楽として形になっていく……。バンド活動を通して燈の居場所ができ、心が解放されていく姿には胸を打たれてしまいます。事情を知れば知る程、人見知りで臆病な燈がライブシーンで「春日影」を歌ったり、オープニングテーマ「壱雫空」を必死に歌い上げたりする様子にグッと来てしまうはずです。
謎のタイミングで転校してきた愛音の抱える承認欲求と挫折経験、元々そよや燈、立希が入っていたバンド・”CRYCHIC”の解散の背景など、謎や伏線も多く飽きさせない構成になっています。続編の制作も決定しているので、予習のためにもぜひチェックしてみてください。
極度の人見知りで友達がいない、いわゆる”ぼっち”の女の子・後藤ひとりがバンド活動を通して成長していくアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』。通称”ぼっちちゃん”のこじらせた姿が多くのファンの心をつかみ、放送されるやいなや社会現象化する程の絶大な人気を獲得。
Amazonプライムでは約2900件に及ぶコメントが書き込まれ、平均星4.8そのうち星5が90%という異例の高い評価を得ています。6月からは劇場版の公開を控えるなど、今なお熱が冷めやらぬバンドアニメです。
メインヒロインが”ぼっち”で”陰キャ”という設定がなかなかに斬新で、同じく”バンド×萌え”でかつて社会現象となった『けいおん!』とは、似て非なるものとして、独特な魅力を放っています。ぼっちならではの自意識過剰な誇大妄想とコミュ障の姿がやたらとリアルに描かれており、”ぼっちあるある”の宝庫としても楽しめますし、ぼっち経験者なら思わず共感してしまうシーンも多いはず。
中学時代に「こんな暗い私でも活躍できるのでは」と期待して、1人で毎日6時間ギターを練習し、”ギターヒーロー”の名前で演奏動画をネットに投稿。その腕前が密かに話題になるなど、コミュ障だけど実力を隠している感じも非常に魅力的です。
高校に上がり、ひょんなことから”結束バンド”というバンドのドラム・伊地知虹夏(いじちにじか)に声を掛けられ、バンド活動に参加すると最初は人前で演奏するのを恐れていたぼっちちゃんが、実力を発揮。ライブシーンで「このままじゃヤダ!」と自分の殻を破り秘めたる実力を解放する瞬間は、心拍数が上がること間違いなしです。
自意識の壁を乗り越えて成長したり、人見知りを克服してライブハウスの手伝いをしたりと、バンドマンとしても人としても徐々に成長し居場所を得ていく姿に、自分を重ねてしまうこともあるでしょう。今年の8月には日本最大級のロック・フェスティバル”ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024”に結束バンドの参戦も決まっているので、アニメを見た上で夏フェスを楽しんでみてはいかがでしょうか?
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