「ゆるキャン△」志摩リンが愛したヤマハ・ビーノ。 漫画、アニメ、ドラマの違いをマニアックな視点で熱く語る!
「ゆるキャン△」のダブルヒロインの1人、志摩リンが乗っているのはヤマハのビーノという50ccの原付一種スクーターで、実は漫画、アニメ、ドラマでそれぞれ仕様や世代が微妙に異なるのです。
原作の漫画は2015年5月にスタートし、2018年1月にアニメ化、2020年1月にテレビドラマ化、そして2022年7月にはアニメの劇場版が公開されるなど、今なお連載もメディアミックスも継続中の「ゆるキャン△」。
ダブルヒロインの1人、志摩リンが乗っているのはヤマハのビーノという50ccの原付一種スクーターで、実は漫画、アニメ、ドラマでそれぞれ仕様や世代が微妙に異なるのです。今回はその違いを、オタク目線で熱く解説します!
大屋雄一
モーターサイクル&自転車ジャーナリスト。短大卒業後、好きが高じて二輪雑誌の編集プロダクションに就職し、6年の経験を積んだのちフリーランスへ。ニューモデルの試乗記事だけでもこれまでに1500本以上執筆し、現在進行形で増加中だ。また、中学〜工高時代はロードバイクにものめりこんでいたことから、10年前から自転車雑誌にも寄稿している。キャンプツーリングも古くからの趣味の一つであり、アウトドア系ギアにも明るい。
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初代ビーノは1997年に登場、CMキャラクターはPUFFYだった!
アニメ化やテレビドラマ化によって、知名度が一気に高まったゆるキャン△。山梨県身延町の高校に通う女子高生たちが、タイトル通りゆる〜くキャンプに興じるだけの内容なのですが、そのゆるさが時代とマッチしたのでしょう。これをきっかけに昨今のキャンプブームが加速したとも言われており、実際に始めた人も多いのではないでしょうか。
さて、ダブルヒロインの1人である志摩リンは、ヤマハのビーノという原付スクーターでソロキャンプを楽しんでいます。このビーノというモデル、四半世紀以上も前の1997年3月に初代が発売されました。1992年にホンダがジョルノ、1998年にはスズキがヴェルデをリリースしており、ビーノと合わせてレトロスクーター市場が形成されたのです。いずれも曲線基調のクラシカルなスタイリングが特徴で、エンジンの出力などパフォーマンス的にもほぼ横並びだったのですが、最も人気を集めたのはビーノでした。
その最大の要因は、CMキャラクターに女性ボーカルデュオ・PUFFYを起用したことだと言われています。1996年にデビューしたPUFFYは、1stシングル「アジアの純真」で爆発的な人気を集めました。ヤマハのテレビCMでは、PUFFYの2人がそれぞれビーノにまたがり、奥田民生さん作詞・作曲の「サーキットの娘」を口ずさんでいます。この曲はミリオンセラーとなり、オリコンチャートでも1位を獲得しました(出典:オリコンニュース)。当時、確かに街中でビーノを多く見かけましたし、乗っていたのは大半が若い女性だったように思います。
漫画は2代目をベースに初代の要素をプラス、ドラマでは3代目が登場
四半世紀以上という長い歴史の中で、ビーノは2度のフルモデルチェンジを実施しており、大きく3世代に区切ることができます。
前後10インチホイールやドラムブレーキ、ボディ一体型の丸型ヘッドライトなど、基本的な構成については、初代から3代目まで踏襲されています。一方で、2004年に登場した2代目は、生産が国内から台湾へ移管され、50ccのエンジンがハイパワーな2ストロークから、燃費と環境性能に優れる4ストロークに変わりました。
スタイリングやフロントサスペンションの特徴などから、漫画とアニメの中でリンが乗っているのは2代目であると推測できます。断定できない理由は、ハンドルの中央にあるメーターの形状です。漫画で描かれているメーターは初代をオマージュしたような丸型であり、アニメでは2代目そのもののひょうたん型になっています。また、エンジンの排気音は2ストロークです。漫画では、停車中の擬音が「ベンベンベンベン」となっており、4ストローク特有の「ストトトトッ」とは明らかに異なります。アニメでもしっかりと2ストロークの効果音になっています。ベテランライダーなら、一発で聞き分けられるでしょう。
というわけで漫画とアニメに登場するビーノは、2代目をベースに、2ストロークだった初代の要素をプラスしたものと言えそうです。ちなみに3代目は2018年5月に登場しており、生産はヤマハではなく、なんとホンダが熊本製作所で行っています。ベースとなっている車両は、かつてライバル関係にあったジョルノで、今では風前の灯火となっている50ccクラスの宿命と言えるでしょう。
なおドラマでは、ヤマハが最新の3代目ビーノを用意しています。通常の販売車両と異なる点は、パールシアンとアイボリーで塗り分けられた車体色と、レッグシールドの左側に貼られた、初心者マークのデカール程度です。
道の駅しもべには、志摩リンカラーの初代ビーノが展示中
作品の舞台である山梨県身延町。アニメの劇場版公開に合わせて、国道300号線沿いにある道の駅しもべのキャンプ場が、2022年7月に「道の駅しもべオートキャンプ場〜ゆるキャン△の里〜」としてリニューアルオープンしました。
筆者は聖地巡礼を兼ねて2022年12月にここでキャンプをしたのですが、驚いたのは売店のある建物のほぼ半分が、ゆるキャン△スペースになっていたことです。キャラクターパネル5体をはじめ、場面写真パネルやポスターなどが所狭しと掲示されており、もちろんゆるキャン△グッズも大量に販売されています。その中には、志摩リンがビーノに取り付けているサイドバッグを忠実に再現した製品もあるのです。
さらにビックリしたのは、キャラクターパネルの横に志摩リンカラーのビーノが鎮座していたことです。しかも2ストロークエンジンを搭載する初代がベース! 初心者マークのデカールが高齢者マークになっているなど、ゆるキャン△ファンならクスッと笑える洒落も効いています。2023年2月中旬時点でも、まだ展示されていました。気になる人は立ち寄られてみてはいかがでしょうか。
土岐綾乃はホンダのエイプ・100、おじいちゃんはスラクストン1200R
ゆるキャン△には、ビーノ以外にもバイクが登場します。ダブルヒロインのもう1人、各務原なでしこの幼なじみである土岐綾乃が、ホンダの「エイプ・100」に乗っています。ビーノのようなスクーターとは異なり、左手でクラッチレバーを、左足でシフトペダルを操作するマニュアルトランスミッション車なので、土岐綾乃は女子高生でありながら、かなりのバイク好きということが伝わってきます。
彼女の乗る「エイプ・100」は、燃料タンクのカラーリングから、2008年1月に受注期間限定で販売された「エイプ・100スペシャル」であることが分かります。往年の名車、ホンダの「ドリームCB750FOUR」をイメージしたパールコーラルリーフブルーで、「エイプ・50」にはこの色は設定されていません。驚いたのは、1000台限定だった「エイプ・100スペシャル」を、テレビドラマ版でも使用していたことです。2017年に生産は終了、人気モデルだったことから中古市場のタマ数は豊富なのですが、この限定車を探すのは容易ではなかったはずです。
志摩リンのおじいちゃん、新城肇もバイクに乗っています。イギリスの二輪メーカーであるトライアンフ(Triumph)の「スラクストン1200R」というネオクラシックモデルです。1960年代に流行したカフェレーサーというスタイルがモチーフとなっていますが、日本での発売は2016年からという新しいモデルです。キャンプ道具を積載するため、レザー製と思しきサイドバッグ(アニメ)やメーカー純正アクセサリのパニアケース(原作9巻)を追加するなど、上手く工夫しているのが印象的です。
この「スラクストン1200R」、その後どうなったかというと……。これ以上は劇場版アニメのネタバレになるのでこの辺で。
ドラマで登場する折りたたみ自転車はダホンの2台
志摩リンは当初、折りたたみ自転車でソロキャンプを楽しんでいました。アニメでは“明確なモデルの設定なし”とされており、小径車マニアの間では、おそらくダホン(DAHON)のどれかだろうとうわさされていたのです。ダホンは、米国・カリフォルニア州に本社を置く折りたたみ自転車の専門ブランドで、生産は中国で行われています。
ドラマでは、福原遥さんが演じる志摩リンがダホンの「スピード ファルコ」を、大原優乃さん演じる各務原なでしこが「ボードウォーク D7」に乗っていました。後者については、アニメにもかなり類似した自転車が登場しています。
なお2021年3月には、KADOKAWAとダホンがタッグを組み、なでしことリンをイメージした委員会監修のオリジナルカラーをまとう限定モデル「ボードウォーク D8」を、2種計56台販売しています。こうしたコラボ商品に関して、ゆるキャン△は深夜枠のアニメの中でも突出しており、ファンにとってアイテムを集めるのも楽しみの一つになっています。
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