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5.1.2 ルーティングプロトコル
●OSPF(Open Shortest Path First)

 OSPF(RFC 1247)は,Windows 2000で新たにサポートされるようになったリンク状態型(Link-state型)ルーティングプロトコルの一形態である。

 OSPFの場合,各ルーターが自分に接続されているリンクの状態(コストと隣接するルーターのIPアドレス)をネットワーク上の隣接ルーターに通知する。通知されたルーターは,通知してきたルーターのIPアドレスとそのリンク情報を元に,ネットワークマップを作成して格納する。そして,隣接するルーターに更新した部分のリンク状態のみを送信する。

 ルーターは,受け取ったデータグラムの宛先情報と,作成したネットワークマップから,宛先への最適な経路を算出する。RIPのようにルーティングテーブル全体を通知するのではなく,ネットワークに変更が生じたときに,隣接するルーターからのみ情報を通知されるので,ネットワークトラフィックは低減される。

 それでも,インターネットワークが大規模になると,ネットワーク全体が収束するまでルーティング情報がネットワーク内を流れるので,スループットが低下することがある。これを回避するために,ネットワーク全体を「OSPF領域」と呼ばれる小領域に分割し,各領域内のリンク状態情報の大きさを削減することができる。ネットワークに30〜50台以上のルーターが接続されている場合には,OSPF領域で分割したほうがよいだろう。

 また,OSPFにはホップ数の制限もないので,大規模なネットワークには向いている。さらに,ルーティング情報を不正に利用されないようにするための認証機能,リンク状態情報交換サイズを小さくするルートサマリ機能,リンク状態情報の交換ペアを減らすDR(Designated Router:代表ルータ)機能など,ルーティングにとって重要な機能をサポートしているので,今後はRIPに代わって利用が増えてくると思われる。

 ただし,RIPと比較すると,領域の分割や機能タイプの選択(ABR:Area Border Router,IR:Internal Router,ASBR:Autonomous System Border Router)が必要となるなど,ネットワーク構成は難しくなるので注意してほしい。もっとも,Windows 2000における設定そのものは,後述するとおり簡単である。

Fig.5-3 OSPFの動作概念
fig5_03.gif

 動的ルーティングプロトコルとしてOSPFを利用する場合は,以下のように設定する。

  1. [ルーティングとリモートアクセス]管理ツールを起動する。
     
  2. サーバー名を展開して[IPルーティング]を開き,[全般]を右クリックすると表示されるメニューから[新しいルーティングプロトコル]を選択する。
     
  3. [新しいルーティングプロトコル]ダイアログボックスが表示されるので,プロトコルの一覧から[Open Shortest Path First(OSPF)]を選択し,[OK]ボタンを押す。
     
  4. コンソールツリーの[IPルーティング]の配下に[OSPF]という項目が追加されるので,それを右クリックする。表示されたメニューから[新しいインタフェース]を選択する。
     
  5. [Open Shortest Path First(OSPF)の新しいインタフェース]ダイアログボックスが表示されるので,宛先となるルーターが存在しているセグメントに接続されているネットワークアダプタを選択し,[OK]ボタンを押す。
     
  6. [OSPFプロパティ]ダイアログボックスが表示されるので,[全般]パネルを開き,[次のアドレスでOSPFを有効にする],[領域ID],[ルーターの優先順位],[パスワード],[ネットワークの種類]を指定する。[領域ID]に0.0.0.0を指定すると,バックボーン領域となる。[領域ID]には,最低でも1つのOSPF領域を指定しなければならない。Windows 2000では,16領域まで定義できるようになっている。[ルーターの優先順位]はDRルーターの選択に利用され,0から255の値を指定する(255は最高の優先度を示す)。認証機能を利用する場合,同一ネットワーク内に存在するすべてのルーターのインタフェースに同じパスワードを設定する必要がある。ルーターによってはパスワードを暗号化していることがあり,この暗号化メカニズムが一致していないと,相互運用性の問題が発生することがあるので注意してほしい。Windows 2000の場合は、デフォルトではクリアテキストになっている。もしルーターをASBR(Autonomous System Border Router)にするのであれば,[自律システム境界ルーターを有効にする]を有効にし,[外部ルーティング]パネルを開いて受け付けるルーター情報または受け付けないルート情報を指定する必要がある。また,ルータがIR(Internal Router)であり,かつスタブ領域にあるのであれば,[領域]パネルを開いて[領域]を選択し,[OSPF領域の構成]パネルで[スタブ領域]を有効にする。ルーターがスタブ領域にあるABR(Area Border Router)であり,その領域が普通の領域であれば,[アドバタイズの概要をインポートする]を有効にする。ルーターがABRで仮想リンク上にあれば,[仮想インタフェース]パネルを開き,ABRのインタフェースがトランジット領域(通過領域)を経由してもう一方(仮想近隣ノード)につながるように設定する必要がある。
    Fig.5-4 [OSPFプロパティ]ダイアログボックス
    fig5_04.gif
     
  7. [NBMA近隣ノード]パネルでは,NBMA(Non Broadcast Multi-Access)型ネットワークにおいて隣接するルーターのIPアドレスや優先順位を設定することができる。[詳細]パネルでは,[通過の遅延(秒)],[再転送間隔(秒)],[Hello間隔(秒)],[Dead間隔(秒)],[ポーリング間隔(秒)],[最大転送ユニット(MTU)サイズ(バイト)]を設定することができる。Hello間隔には,隣接ルーターが生存して正常に機能しているかどうかを調べるために,パケットを送信する間隔を指定する。そのHelloパケットに対する応答を待って,Dead間隔で指定した時間を経過しても応答がなければ,隣接ルーターは生きていないと判断し,リンク状態情報を更新する。
    Fig.5-5 [NBMA近隣ノード]パネル
    fig5_05.gif
     

 なお,参考までに距離ベクトル型ルーティングプロトコルとリンク状態型ルーティングプロトコルの比較表を下記に示すので,参照してほしい。

Table 5-2 距離ベクトル型ルーティングプロトコルとリンク状態型ルーティングプロトコルの比較
  距離ベクトル型 リンク状態型
情報交換方式 ルートテーブルエントリ(すべてのルータとサブネットの情報)を非同期(定期的)かつ非認証で交換 ネットワークIDとリンク状態(自分が接続されているネットワークで発生した変更情報のみ)を同期(変更発生時)かつ認証有りで交換
ルートの決定方法 目的地までのホップ数の合計が最小 ネットワークに付与されたコストの合計が最小
構成 容易 複雑で難しい
収束時間 遅い 早い
適用 小規模ネットワーク 大規模ネットワーク
RIP for IP, RIP for IPX OSPF for IP, NLSP for IPX
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