インターネットアプリケーション時代の企業ネットワーク再設計
アプリケーション形態の変革と物理ネットワークの再設計

SOAPのもたらす革命

 ここまでの解説で,SOAPがどのようなテクノロジであるかをイメージできたと思う。この段階では,Webサーバーがプログラムライブラリに変貌することを理解していただければ,十分である。

 では,SOAPによってもたらされる世界とは,どのようなものなのだろうか。筆者が予想する具体的な変化を述べ,SOAPの話を終わりにしたい。

○B2Bの活性化
 おそらく,SOAPを最も早期に活用し始めるのは,B2Bの市場であろう。B2Bとは,インターネットを使った企業間決済(Business to Business)のことである。各業界でXMLのスキーマが標準化され,それに伴ってSOAPが実装されれば,B2Bアプリケーションは比較的容易に構築できる。従来のEDIアプリケーションは,検討すべき事項も多く,設備的にも高度なものを要求されるため,なかなか手を出せないことも多かった。しかし,今後は規模の大小を問わず,すべての企業がインターネットを通じて決済するようになってゆくことだろう。

○アプリケーションの多段化
 執筆時点におけるWebサイトでは,ブラウザからのリクエストをWebサーバーが受け付けると,そのサイト内ですべての処理を完結させていた。それに対して,SOAPを利用する環境下では,インターネット上のあちこちにサブルーチンが転がっていることになる。そのため,1つのブラウザから発信されたリクエストは,直接の受付先であるSOAPサーバーを含め,複数のWebサイトによって協調して処理されるようになるだろう。

 このような変化によって活性化されると思われるのが,「b2B2C」や「B2b2C」といった市場である。b2B2Cとは,中小のベンチャー企業が下請けとなって,大企業が提供する小売市場サイトに商品やサービスを提供する形態であり,B2b2Cとは,大手メーカーなどの大企業が,固定客を掴んだ中小のサイトを通じて商品やサービスを提供する形態である。

 たとえば,ある顧客がPCを購入するために,なじみのPCショップが運営するWebサイトを訪れたとしよう。顧客は,スペックや希望価格,好きな色などを指定し,発注ボタンをクリックする。発注のリクエストを受け取ったPCショップのWebサーバーは,取引先であるハードウェアメーカーや筐体メーカーなどのSOAPサーバーに,それぞれ該当する製品の検索リクエストを発行する。SOAPサーバーは,自社のデータベースを検索して,その結果をPCショップのWebサーバーに返す。すべての検索結果を受け取ったPCショップのWebサーバーは,その結果を任意の形式に編集して顧客に表示する。顧客は,自分がアクセスしたPCショップのWebサーバーが結果を返しているのだと思うだろうが,実際にはその背後に存在する複数のサイトが協調した結果を見ているのである。

Fig.1-8 SOAPによるアプリケーションの多段化(図版をクリックすると拡大可能)
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 ここで面白いのは,ハードウェアメーカーや筐体メーカーのSOAPサーバーである。確かに,PCショップのWebサーバーから見れば,自分のリクエストに応えているのは,要求先であるハードウェアメーカーや筐体メーカーのSOAPサーバーにほかならない。しかし,リクエストの応えを本当に提供しているのが誰なのか(どのサーバーなのか)は,実は定かではない。なぜなら,リクエストを受けたハードウェアメーカーや筐体メーカーのSOAPサーバーが,さらに別SOAPサーバーにリクエストを出し,その結果を返しているかもしれないからである。

 実社会においては,ある仕事を外注すると,その外注先から,さらに孫請け,曾孫請けと,何度も外注されることがよくある。SOAPを利用すれば,このような実社会に応じた処理を,シームレスに実現できるようになるのである。

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