インターネットアプリケーション時代の企業ネットワーク再設計
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アプリケーション形態の変革と物理ネットワークの再設計
○インターネットサービスの変質
執筆時点において,インターネット上で提供されている主要なサービスは,コンテンツサービスである。もちろん,物販したり無体物を販売したりしているサイトもあるが,それらのサイトもほとんど例外なく,「人が見るもの」を提供し,そのうえで商品の販売などにつなげている。SOAPの登場によって,このような状況は大きく変化するだろう。
その典型例は,マイクロソフトがTechED 2000でデモンストレーションしていたサンプルにも見られる。そのサンプルとは,社名を与えると,その時点の株価を返すというSOAPサーバーであった。このようなSOAPサーバーをインターネット上に設置し,契約した法人サイトに対してのみサービスを提供するような商売が,今後は成り立ち得る。つまり,「人に見せるためのインタフェースを備えていないサービス」が台頭する可能性があるのである。
一般に,コンシューマに対して直接サービスを提供するためには,変動するアクセスに耐えられるだけの設備を整えねばならなかったり,コンシューマ受けするデザインを提供しなければならなかったり,情報を頻繁に更新しなければならなかったりと,サービス提供者に対する負担も大きくなりがちである。しかし,コンシューマに対するサービスを諦め,法人との固定契約にしてしまえば,事業予測も立てやすく,負担も軽減される。今後は,天気,株価,ニュース,ホロスコープといった各コンテンツが独立したSOAPサーバーで提供され,ポータルサイトなどのWebサーバーは,それらのSOAPサーバーから検索結果をかき集め,ユーザーフレンドリなインターフェイスで表示するだけとなるだろう。
○究極の革命
話は変わるが,毎年年末は,所得税を計算する時期である。所得税は,いろいろなところで計算されている。税務署はもちろん,各企業でも特別徴収にかかわる年末調整のために,所得税を計算しなければならない。年が明ければ,各市区町村が住民税のデータを収集するために,やはり所得税を計算する。
もし誰かが,所得税を計算するプログラムを作成して,SOAPサーバーで公開したら,どうなるだろうか。もし,そのプログラムが優秀で,日本中からのトラフィックに耐えられるとしたら,どうなるだろうか。極論をすれば,日本国内に所得税を計算するためのプログラムは,その1本だけあればよいということになる。
すばらしい世界だとは思われないだろうか。これは,ソフトウェアの技術者が夢見てきた究極の姿である。これまでは漠然とした夢にしかすぎなかったものが,インターネットという共通のネットワーク,XMLという共通のインターフェイス,SOAPという共通の連動規格を得て,現実のものになりつつある。
ただし,これはコンピュータ業界にとって大きなチャンスであるとともに,大きなピンチでもある。ある機能を提供するサービスが1つだけあればよいのならば,競合するソフトウェアの数は激減する。1つのプログラムを握った企業は大もうけだが,そのほかの企業は仕事を失うことにもなりかねない。もちろん,ある機能を提供するサービスが1つだけあればよい,というのは極端かもしれない。現に,似たような役割を果たす複数のサービスがインターネット上には存在し,しのぎを削っている。しかし,今後,ソフトウェアの開発機会が減ってゆくことは間違いように思える。「プログラマ」と呼ばれる職種がなくなってしまう日も,そう遠くないのかもしれない。
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