工夫と規律で「システム用語辞書」を実現せよ:ユーザーサイド・プロジェクト推進ガイド(18)(2/2 ページ)
ユーザー企業がシステムのために用語辞書を整備するのは、大変な困難が伴う。それを乗り越えるには、相応の工夫が必要だ。
用語辞書に支援機能を付加する
用語辞書に登録済みの用語を利用して、ほかの資料を楽に作成できる便利なシステムがあれば、メンバーは用語辞書の作成に前向きになれます。用語辞書のメリットをメンバー自身がプロジェクト作業の中で感じられるようにするのです。例えば、機能要求仕様書を作成する際に、用語辞書に登録済みの用語を表示して入力を支援する機能があれば便利です。
筆者はあいにく、このような便利な機能が付いた用語辞書用のソフトウェア製品、あるいはフリーソフトウェアが存在するのか知りません。そこで、Microsoft Excelをプラットフォームとして用語辞書支援ツールを作成することにしてみました。アイデアは単純なものですが、その割に便利です。サンプルファイル(sample.zip)をダウンロードし、使い方に合わせて改造、利用されてはどうでしょうか。使用方法はサンプルファイルに記述しています。
ダウンロード
▼サンプルファイル(Excelマクロコードを含みます)
特長とする機能は2つあります。
- ほかのドキュメントに対する用語の入力支援
- ほかのドキュメントで使われている用語のチェック支援
なお、ほかのドキュメントもExcelで作成されていることが前提になります。
用語入力支援
入力支援は、機能要求仕様書などほかのドキュメントを作成する際に、用語辞書に登録済みの用語を一覧表示し、入力を支援するものです。目的は入力ミスの防止と入力負荷の軽減です。マイクロソフト製品に搭載されているインテリセンス機能のようなもので、用語を途中まで入力するごとに候補語を表示・絞り込みしてくれるので、矢印キーで選択できます。選択した用語は単位、フォーマットとともに出力されます。
用語チェック支援
用語のチェック支援は、機能要求仕様書などほかのドキュメントに用語辞書に未登録の用語が使われていないかを調査するための機能です。ドキュメント作成時には用語辞書に登録されていた用語でも、プロジェクトが進むうちに、変更した用語や使わないことにした用語が出てきます。このチェックを支援するものです。
具体的には用語辞書に登録されている用語をドキュメント上で検索するものです。用語や単位、フォーマットと一致する文字列があれば着色表示します。着色されなかった部分は用語辞書に一致するものがなかった文字列であり、点検する必要のある個所でということになります。
また、ドキュメント上で検出された用語辞書の用語にも着色します。着色されなかった用語はそのドキュメントで使われていません。ドキュメントに記述モレがあったり、用語辞書が更新されていなかったりする恐れがあります。チェックする目安にもなります。
ユーザーこそルールを守れ
ユーザーはベンダに対して、システムの用語採用ルールに限らず、ルール順守の徹底を要請し、ベンダがそれに違反して瑕疵(かし)が発生すれば無償で修正させます。しかし、実際には、ユーザーサイドのプロジェクトチームが自らのルールを守らないというケースの方が多いようです。
ユーザーは、ベンダに対してはカネを支払っている立場から強い態度で臨んでも、身内に対しては緩くなりがちです。これは、厳しくすると、コミュニケーションが悪くなり、仕事に差し障りが出ると考えられているからです。また、長く勤める職場は、楽しく居心地のいいことが大切であり、あまり口うるさくいわない方が良い、といった意識もあります。
さらには、リーダーが業務部門からプロジェクト専任者としてメンバーを招聘した場合、そのメンバーの出身職場に対する知識を信頼し過ぎるあまり、仕事のやり方や成果をノーチェックにしてしまうことがあります。他部署からわざわざ来てもらっている応援者ということで、遠慮が発生することも考えられます。
しかし、身内に対してこそ、ルールを守らせないといけません。ユーザーの仕事はプロジェクトの最上流です。ここでの不備は、プロジェクト全体に大きな影響を及ぼします。ユーザーがいいかげんな作業をすれば、たとえ優れたベンダでも、プロジェクトの成功はおぼつかないでしょう。このようなユーザーは、ベンダから信頼を損ない、リスクの高い客と見なされます。
リーダーは各メンバーがルールをキチンと守っているかチェックしなくてはいけません。各メンバーが作業の方向を誤っていないか、質や進ちょくに異常がないか、また、彼らがチャンと成長しているかなどのチェックも同様に行います。
これらは、成果物のレビューを通じてチェックします。また、成果物をチェックすることで、メンバー間の作業に不整合や矛盾、あるいは温度差がないかをチェックします。いちいちメンバーに作業内容の報告をさせる必要はなく、リーダー自らメンバーの作業成果を見て把握するようにすべきです。
そのため、リーダーには、成果物を見てプロジェクト作業の詳細を把握する能力、つまり、ルールが守られていないか、進ちょくに異常があるなど、その状況を察知するだけの実力が資格として必要です。リーダーの仕事は大変です。作業の工夫やツールの利用は、メンバーだけが行うものではなく、管理する立場であっても有効であり、作業効率を上げることが望まれます。
筆者プロフィール
山村 秀樹(やまむら ひでき)
某製造業において、主としてシステムの運用保守作業に従事している。仕事を通して、コンピュータ・システムに関心を持つようになり、中でもシステムの開発プロセスについて興味を感じている。
Elie_Worldを運営し、システムのライフサイクル全般にわたる作業について考えている。
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