プロジェクトチームに付きまとう制約を打破するためにユーザーサイド・プロジェクト推進ガイド(6)(1/2 ページ)

システム開発に不慣れなユーザー企業のプロジェクトチームには、3つの危険なタイプがある。「丸投げタイプ」「メッセンジャータイプ」「独断専行タイプ」だ。こうしたプロジェクトチームにならない方法を考えていこう。

» 2006年03月04日 12時00分 公開
[山村秀樹,@IT]

 前回「タイプ別プロジェクトチームの問題点」では、ありがちなプロジェクトチームのタイプを取り上げました。

 実際のプロジェクトチームで多いのは(2)の「メッセンジャータイプ」だと思われます。まったくの(1)「丸投げタイプ」はそんなに多いとは思いませんが、時間の都合などでプロジェクトの一部分が丸投げ状態になるケースはかなりあるでしょう。(3)のタイプも含め、これらのタイプは“安物買いのゼニ失い”です。これらのタイプのチームしか組織できないところが失敗を繰り返すのです。

 それでは、なぜこのようなチームしか組織できないのでしょうか。重要な原因として、プロジェクトチームに時間や人数の制約があること、さらには組織的なIT/システム開発のプロジェクトマネジメント・スキルの重要性認識不足、そしてその能力の不足が挙げられます。

時間と人数の不足

 プロジェクトチームがベンダに作業を丸投げしたり、その役割がメッセンジャーでしかなかったりするのは、端的にいってしまえば、時間や人数に制約があるということです。ベンダへの丸投げはユーザーサイドの時間と人数をプロジェクトに投入できないためであり、プロジェクトチームがメッセンジャーにしかならないのは時間と人数が不足していて、事前調査が不十分なままベンダとの作業を始めざるを得なかった結果と考えることができます。

 一般的に、コンピュータ・システムの開発は高度なスキルが必要な作業とみられています。また、技術の移り変わりが激しく、学習してもすぐに役に立たなくなるとも思われています。他方、コンピュータ・システムの開発は建築や機械設備設置と同様、「専門家に任せておけば大丈夫なもの」と考えられており、発注の段階では専門家に任せても失敗することがあるとはあまり想定されていません。

 そのためプロジェクトチームの周辺では、「コンピュータ・システム開発に関するスキルの習得は、ユーザーにとっては無駄。無駄なことはしないでベンダに任せてしまおう」という判断がなされることになります。IT企業ではない、一般の会社にとってシステム開発はコアコンピタンスではないと考えられているわけです。特に「システム開発は、頻繁に発生することはない」と認識されていれば、そこに人や時間を投入することは経済的でないと判断されるでしょう。ITに関するスキル向上を無理であるとか無駄なことだとあきらめていては、当然ながらスキルは付きません。内部に人材を育てないので組織的な成長はなく、現状より良くなることもありません。

プロジェクトマネジメント・スキルの不足

 また、システム開発にはIT技術だけではなく、プロジェクトマネジメントのスキルが必要とされます。

 プロジェクトマネジメントの主要なスキルには、次のようなものがあります。

  • チームマネジメント
  • 業務部門やベンダとのコミュニケーション
  • 会議やミーティングのコントロール
  • コストやスケジュールのマネジメント

 これらのスキルがなければ、貴重な時間を有効に使うこともできません。

 世の中一般に行われているプロジェクトでも、コストやスケジュールに関しては本来の意味で「管理」されているとはいえない状態だったとしても、「注意」「関心を持つ」ぐらいはしているものです。しかし、それ以外の項目に関しては、驚くほど意識されていないことがあります。これはプロジェクト作業の経験が不足しているためです。コストやスケジュールはルーチンワークでも管理項目とされていますが、そのほかのプロジェクトマネジメント項目はルーチンワークでは特に重要とされていません。

 例えば、ルーチンワークではチームで仕事をしているとしても、たいていは既知の作業をフローに従って処理するだけであり、チームマネジメントというほどのものは必要ありません。ルーチンワークでは各メンバーが作業を着々とこなすことが重要です。

 しかしプロジェクトではより良い効果が追求され、メンバーは協調の中にも競い合うところがあります。対立によってチームが危機的な状況に陥ることもありますし、全員が誤った方向に突っ走ることもあります。チームマネジメントは極めて重要な問題です。

 コミュニケーション・スキルにしても、ルーチンワークでは既知の事柄をやりとりするだけなのでスキルというほどのものは必要ではありません。しかし、プロジェクトとなると、当事者の誰もが未知であることや、たとえ当事者の一部が知っていてもそれ以外の人には未知である事柄を扱うので、誤解を防ぐために関係者同士で良好なコミュニケーションを取ることが重要であり、そのためのスキルが必要となります。

 プロジェクトでは、打ち合わせや会議、ミーティングをコントロールすることも重要なスキルです。「一貫性がないことの根本となっている原因を明確にして整理する」「相反する主張を調整する」「小さな声や聞こえない意見を拾う」「視点を変えさせる」「イメージを共有させる」「網羅して見せる」「荒れ場を鎮める」「これらを限られた時間で行う」などなど……。ルーチンワークで求められるレベルとは比較にならないほどの高度な運営術が必要です。

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