プロジェクトチーム結成──業務部門との関係を考えるユーザーサイド・プロジェクト推進ガイド(7)(1/3 ページ)

「危険なタイプ」にならないためにもプロジェクトチームはシステム担当者だけではなく、業務部門の人材を組み入れて作られるべきだ。しかし、そうした体制を構築するためには数々の障壁がある。

» 2006年03月24日 12時00分 公開
[山村秀樹,@IT]

プロジェクトチームとは?

 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』誌に、チームビルディングに関する興味深い論文があります(2004年12月号「チームとグループは異なる」)。「強い組織となるためには、チームとグループの違いを意識することが重要」という論考です。同じ号にもう1つ、バーチャルチームに関する論述もあり、こちらもいろいろな示唆が含まれています。これらは、コンピュータ・システムの開発プロジェクトチームを考えるうえで参考になります。


参考記事
「チームとグループは異なる」ジョン・R・カッツェンバック、ダグラス・K・スミス/「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」2004年12月号/ダイヤモンド社)
「バーチャル・チームの優位性」アン・アイクルザック、アルビンド・マルホトラ、ジェフリー・スタンプス、ジェシカ・リップナック/「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」2004年12月号/ダイヤモンド社)


プロジェクトチームはチームであること

 チームという言葉はあらためて定義を確認する機会がないほど一般的な言葉となっています。筆者もそうですが、チームとグループの違いを意識せずに使われていると思います。しかし、注意してみると何となく使い分けしていることに気付くはずです。

 グループは単に集団をいいます。個人の知識や技術は、周囲に影響を及ぼすことがあってもそれは限定的なものであり、大筋ではその人の役割の中でのみ活用されます。そのため、グループが発揮する出力はメンバーの成果の総和となります。異なる役割の人から構成されている場合においてもそうです。ルーチンワークを遂行する集団は、ワークグループなのです。

 グループに対して、チームは勝利するための集団です。個人の知識や技術はチームの中でお互いに助け合ったり刺激し合ったりして高められ、それらが生み出す価値はチーム全体でさらに磨き上げられます。個人が強くなり、それによってチームが強くなるという循環があります。チームの出力は相乗効果によりメンバーの総和以上のものとなります。期間やリソースなど制約のある条件下で結果を出すことが求められるプロジェクトチームはチームであるべきです。

 しかし、チームはメンバー間に深刻な争いが発生したり、全員がそろって見当違いの方向を目指してしまったりするなどのリスクもあります。効果を最大にし、リスクを抑えることがチームマネジメントです。

フルタイムチームとパートタイムチーム

 チームには、リアルなチームとバーチャルなチームがあります。リアルなチームは同じ場所で作業をしますが、バーチャルなチームは各メンバーが離れた場所で作業をします。一面では、リアルチームはプロジェクトに専念するメンバーから成るチームであり、バーチャルチームはルーチンとプロジェクトの両方をこなすメンバーから成るチームといえます。

 ハーバード・ビジネス・レビューの論文では、まず作業する場所によるコミュニケーションの質に重点を置いていますが、(離れた場所にいるメンバーが機能要求仕様を作成することは、この連載の想定外なので)ここではそれよりもプロジェクトへかかわる度合いを重視し、より適当な言葉として前者を「フルタイムチーム」、後者を「パートタイムチーム」と呼ぶことにします。

 フルタイムチームのメンバーはもともと所属していた組織から離れてプロジェクトに参加します。そのため、出身職場の仕事を引きずることなしにプロジェクトに専念できるので、高い作業効率が望めます。しかし、もともとの職場を離れるということは、その職場へのかかわりが低下し、影響力やリアルな情報収集を維持することはできなくなります。

 パートタイムチームは、ある組織に所属しつつプロジェクトに参加するものです。マトリクス組織ともいえますが、所属組織の仕事が主で、プロジェクトの方は従となります。プロジェクトにかけられる時間に制約があったり、集中することが困難だったりするので、作業効率やスピードを望むことはできません。しかし、その職場に対する影響力はそのまま保持しており、また常に新鮮な情報に接しています。

 フルタイムチームにもパートタイムチームにも、長所と短所があります。そこで、両方のいいとこ取りを考えてみましょう。

 プロジェクトを推進するためにプロジェクトチームを組織します。これは、本来の意味のチームであって最大の成果を狙います。フルタイムな組織であることにより、作業の効率やスピードの最大化を狙います。

 各業務部門にはパートタイムでプロジェクトに参加してもらうメンバーを選出してもらいます。これは本来の意味ではグループとなります。プロジェクトチームだけでなく、このワークグループも公に認められた組織とし、メンバーがプロジェクトにかかわりやすい作業環境を醸成します。

 ワークグループに選出されたメンバーには、その業務部門の正確で詳細な情報や最新情報の提供、機能要求仕様検討会議への参加、システムテストなどの協力要請に際し部門内で音頭を取ってもらいます。

 このワークグループの役割には、プロジェクトチームの作業経過や成果をチェックすることにより、プロジェクトチームが独断専行タイプになったり、誤った方向に進んだりすることを防止することも含まれます。プロジェクトチームは、このグループに対し、不明事項を問い合わせるだけではなく、作業の成果を伝え続けることが重要です。

チームがチームにならないケース

 プロジェクトチームは、システム担当部署のメンバーと業務部門出身のメンバーから構成されることになります。いくつかの業務部門から優秀な人がメンバーに選抜され、システム担当部署のメンバーと相互に理解、補完、影響し合って強いチームになることが理想です。

 しかし、そうはいかないケースがあります。

 その典型は、システム担当部署のメンバーは既存システムのトラブル対応やルーチン作業で忙しくプロジェクトどころではなく、同時に業務部門からのメンバーはシステム開発の経験がなく留意すべきことが分からない、もしくは留意すべきことがあることすら認識していない場合、そして出身部門のすべての業務に精通していると錯覚している場合に見られます。

 つまり、システム担当部署のメンバーと業務部門出身のメンバーが良質なコミュニケーションを築くことができず、危機的な状況に陥るケースといえるでしょう。しばしば見受けられるこのケースについて、しばらく考えていきましょう。

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