発信から対話(ダイアログ)へ
「ビジネスブログはじめの一歩」と題して、6カ月連載を続けてきましたが、今回でいよいよ最終回となりました。
さて、ブログが本格的に使われ始めてまだほんの数年ですが、インターネットの使い方だけでなく、インターネットユーザーの意識にも大きな変化をもたらしました。新しい技術やトレンドが世に出る常として、良くも悪くもブログが話題になることが増えています。ブログが炎上したり、ブログから個人情報が流出してストーカー被害が起きたりと、決してブログというツールに非があるわけではないにもかかわらず、色眼鏡で見られてしまうこともあります
そのような、ブログにまつわるネガティブな要素はゼロではありませんが、それ以上にブログは多くのポジティブな変化も起こしてくれています。
ブログがきっかけとなり、何が変わったかといえば、
- 自分の持つ情報を世の中に発信する手段を得た
- 得る方法がなかった他人の持つ情報を知ることができるようになった
- 双方向のつながり、コミュニケーションを作ることができるようになった
- 眠っていた情報がより多く飛び交うようになった
が挙げられます。
ツールがあれば、人はユニークで有益な情報を発信するのです。その結果、情報量の母数が大幅に増え、情報同士がぶつかりあい、変化し、新しい意味や価値を生み出すようになりました。松下幸之助さんの言葉に、「知恵のポンプはいくらくみ上げても枯れることはない」というのがありますが、ブログを通じて人が表現できることの可能性と創造性は、まさに枯れることのないのだと思わされます。
そんなわけで、個人的にブログは8:2の割合で私たちの生活にプラスに影響していると思っています。
ブログのないインターネットには戻れない
ブログを「しょせん一時のブーム」と見る人もいます。今後、ブログがどうなるかは分かりません。ブログと新技術が結び付き、現在のブログとは似て非なる形態に進化する可能性もあります。あるいは、まったく別の技術に取って代わられるかもしれませんが、ひとつ確実にいえることは、ブログが今後どう変化しようとも、ブログなしのインターネットには戻れないということです。
携帯電話や液晶テレビの便利さを一度味わってしまうと、ポケベルやブラウン管テレビに戻れなくなってしまうのと同じように、ブログ以前の情報量しかなかったインターネットの世界に戻ることはできません。
それどころか、インターネットユーザーの“情報への期待値”はますます膨らみ、「鮮度」「精度」「信頼度」のすべてにおいて、より高い質を求めることになるでしょう。
これは企業が発信する情報に対しても当てはまります。
単にブログ・ツールを導入したり、Webサイトをこまめに更新すれば事足れりという話ではなく、「企業として、インターネットユーザー(消費者)の期待するレベルの情報を提供しているのか? そうでないなら、いかに実行するのか」という企業の姿勢にかかわる次元の話になります。
インターネットユーザーからの、ビジネスブログへの提案・意見
企業にとって情報をオープンにすることは、諸刃の剣的な面があります。自由に制限なく情報を交換・伝達できるメリットが享受できる一方、影響力は一企業でコントロールできるものではなく、良い情報も悪い情報も、瞬く間に知れ渡ってしまう可能性は肝に銘じておく必要があります。
と、まあ、いいことずくめではないのですが、なるべくいい方向へと導くべく、私が所属するシックス・アパートの調査結果を紹介したいと思います。
以下は、「消費者として、ビジネスブログに対して感じること」という問いに対する回答ですが、「企業が消費者にどう向き合うべきか・どうコミュニケーションをとるべきか」という問いの参考にもなるでしょう。ポジティブ、ネガティブ、さらには提案までいろいろありますが、まずはポジティブな意見から目を通していきましょう。
ビジネスブログに対する、女性のポジティブな意見
- 企業や社員の内面が見えることで、非常に親しみを感じる。普通は知り得ない情報や事情が垣間見えて興味深く、参考になる。(26歳女性 会社員)
- 現場担当者が生の声を伝えてくれることに好感。会社の姿勢が見えてよい。(29歳女性 会社員)
- 個人的な意見や感想などを知ることができてうれしい。(38歳女性 主婦)
- 普段思っていること(激励の言葉・直してほしいことの両方)をどう伝えていいか分からないので、ブログにコメントを書き込めるのは、気持ちが伝わるようでうれしい。実際、書き込んだことに対して返答をいただいたこともある。即座に対応してもらえて、とても好印象。(35歳女性 自営業)
- ブログは親しみがわく。アットホームな雰囲気が好き。遊び心のある、あまりマジメでない友達感覚の情報を流してほしい。(34歳女性 会社員)
“親しみ”や“温もり”といった企業との「パーソナルな関係」を歓迎する傾向が女性には強いといえます。女性の方が男性よりもビジネスブログに肯定的な姿勢を見せています。
ビジネスブログに対する、男性のポジティブな意見
- ビジネスブログは消費者の声を聞くいい場。(39歳男性 会社員)
- 自分の知りたい商品情報についてカタログよりも参考になることがあり、ビジネスブログの必要性を感じた。(33歳男性 会社員)
- ブログの利点は情報を相互にやりとりできること。思い付いたことをすぐに企業側に伝えることもできるし、苦情もいいやすい。(26歳男性 学生)
男性は、女性が重視する“パーソナル”な面よりも、“情報として有益かどうか”、“意見をフィードバックするツールとして機能するか”といった部分に価値を見いだす傾向があるようです。
しかし、ビジネスブログであればなんでもよいという単純な話ではなく、評価されないものもあります。続いてネガティブな意見です。
ビジネスブログに対するネガティブな意見
- 宣伝色の濃いものがあるので、情報の選択に注意しなければいけない。(33歳男性 公務員)
- PR色が強くておざなり・舞台裏系の情報で気を引こうとするのが見え見えなブログは嫌い。 (22歳男性 学生)
- PR色が高いとうさんくさい。信用していいのかどうか疑いたくなる。(23歳男性 会社員)
- ありきたりの事なかれ主義的なブログが多くて残念。(33歳男性 会社員)
- 手前みそでうさんくさい。(40歳男性 自営業)
男性のほうがビジネスブログに警戒心を持ちやすいようです。公式サイトと差がない情報や二番煎(せん)じにすぎず「ありきたり」と見向きもされませんが、かといってPRに終始してしまうと読者を「うさんくさい」と引かせてしまう。男性を満足させるには新鮮さを保ちつつ、押し付けがましくない絶妙なさじ加減が要求され、ここが担当者の悩みどころでもあります(ちなみに女性からのネガティブな意見は非常に少なかったです)。
ただし、いかに消費者に好かれようかと悩むよりも、「いかに自ら進んで心を開くか」をより意識したほうがよいと思います。消費者はビジネスブログを毛嫌いしているわけでも、信用していないわけでもありません。ビジネスブログから有益な情報を期待していますし、多くの企業に取り組んでもらいたいとも考えています。
ではどうすれば受け入れられるブログを作れるのか? 例えば、企業に対してこんな提案をして います。ちょっと長くなりますが、一気にご紹介します。
ビジネスブログに対する提案・意見
- 問い合わせや苦情に迅速に反応できるか、できないかにブログの意味がある。(46歳女性 パート)
- 批判的なコメントに真面目に答える姿勢のある会社と取引をしたい。ブログはその物差しとなる。(27歳女性 公務員)
- たいてい、何度もアクセスしたいと思わせる魅力的なコンテンツがない。もっと親しみやすく、商品価値やイメージがよくなるブログがあればいい。(29歳女性 会社員)
- ビジネスである以上、いいコトしか語れない事情もあるのだろうが、消費者にとって面白い内容になれば読む回数も増える。(25歳女性 ?)
- 企業のWebサイトでは伝えにくいことを、自然に正直に伝えてほしい。質問もできるよう、メール・コメント対応があると便利。(36歳男性 ?)
- 経営者や現場責任者はもっと生の声を消費者に発信するべき。ビジネスブログはITや専門職系のブログが中心だが、その他の業種も積極的に発信してほしい。特に知名度の低い企業は、自ら情報発信することによって、ファンを増やすことができるかもしれない。(32歳男性 ?)
- 大本営的発表ばかりではその企業の“なり”は分からない。企業によって、顧客対応・採用など活用の目的は異なるが、積極的なコミュニケーションを行うツールとして活用してほしい。(39歳男性 会社員)
- 自社の広報的な内容に偏らず、ホームページよりも早く、実際の利用者の目線に合った情報を提供してもらいたい。でなければホームページとの違いがない。(32歳男性 会社員)
- 型にはまらない。柔軟なブログを期待する。新製品開発や既存商品に対するユーザーの意見、発想を反映できるブログを大いに期待したい。(52歳男性 会社員)
- 質問や問い合わせに返事をしないビジネスブログは不要。 (42歳男性 会社員)
- コメントできないブログは一方的なので、管理者のみが閲覧できる形式でもコメントを送信できるようであれば印象が変わる。(29歳男性 アルバイト)
- ディスクロージャーという観点から、従業員にブログ開設を奨励してはどうか(男性25歳 会社員)
男性も女性も、ビジネスブログへの提案・意見としてはおおむね共通しており、
- 迅速かつ双方向なコミュニケーション
- 正直さ・誠実さ
- コンテンツそのものの魅力
の3つを求めていることが分かります。
正直な情報発信をする者(会社)が正当な評価を受ける社会へ
今後、情報を発信する企業もインターネットユーザーも増えるなかで、情報量が多いほど有益な情報が生まれる可能性は高まってくるでしょう。その代わり、情報の淘汰も同時に起きるでしょう。
- 「受け入れられる情報と受け入れられない情報」
- 「信用される情報と信用されない情報」
- 「共感される情報と共感されない情報」
と、コンテンツの良し悪しではっきりと差が生まれてくると思います。
この変化を、「企業にとっては、労力とリスクでしかない」と後ろ向きにとらえるのか、「他社と差別化するチャンス」と考えるかで、大きな差が生まれることでしょう。
企業の情報発信スキルが高まることにより、「正直者(な会社)がバカをみない社会」に、もっと正確にいうと、「正直な情報発信をする者(会社)が正当な評価を受ける社会」に変わっていくと感じています。
それを実行するための技術、ツールはもちろん、評価する側のインターネットユーザーの期待という下地も十分に出来上がっています。求められている情報も、おのずと理解できていることでしょう。あとは実行に移すだけです。
この連載が、お読みいただいた皆さんの会社でビジネスブログを始める参考として、そしてインターネットユーザーとの関係の持ち方を考え直すキッカケとして、少しでもお役に立てば幸いです。6回にわたり、ご愛読いただき本当にありがとうございました。
筆者プロフィール
中山 順司(なかやま じゅんじ)
シックス・アパート株式会社 マーケティング ディレクター
愛知県出身。携帯電話キャリア、ITベンチャーを経て、現在はブログ・ソフトウェアベンダーのシックス・アパートでマーケティングに従事。これまで一貫してマーケティング業務に携わっている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.