世の中のソフトウェアテストは“間違いだらけ”!?:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(2)
ソフトウェアテストにはあらゆる“誤解”が渦巻いている!? テストに何らかの課題を抱えている場合、テスト計画やツールなどを疑うよりも、あらためてテストの本質と基本を見直すことが、解決への1番の近道になるのかもしれない。
パーフェクトソフトウエア
ビジネスや社会にITが深く浸透している近年、ソフトウェアの品質に対する要求は年々高まっている。その品質に問題があれば、機会損失や信頼性低下、ひいては多くの人を巻き込む社会問題にも発展しかねないためだ。これに伴い、ソフトウェアテスト(以下、テスト)も品質担保のカギを握る重要なプロセスと認識されているが、その一方でテストに対する理解不足から効率的に実施されていなかったり、納期やコストの問題に押されて「出荷の妨げ」などととらえられているケースも少なくない。
そうした「ソフトウェアテストに対する無知」が、効率的なテストの実行を妨げ、プロジェクトマネージャやテスト技術者、ユーザーなどを「苦しめている」――本書はそうした見解に基づき、世界的に著名な技術者、ジェラルド.M.ワインバーグ氏が、開発現場における長年の経験を基に「テストに対する“誤解”」や「よくある間違い」を具体的に指摘しながら、テストの正しい在り方を解説していくという作品である。
では、テストに対する“誤解”とは何か?――氏が最初に指摘するのは、「テストをすれば完璧なソフトウェアが作れるという“幻想”」である。そもそも「完璧」などというものはこの世に存在せず、人の思考も「不完全であり、非合理的で、価値観に左右される」。よって、そうした「人」が作るソフトウェアにも“完璧”はあり得ない。だからこそ、ソフトウェアが「求められている機能を果たせるか否か」を確認するためにテストがあるのだと説く。だが、実際にはこうした“前提”を誤解している人が多いのだという。
そして問題は、こうした“幻想”がテスト技術者の負荷をいたずらに高めてしまいがちだということである。大切なのは「すべてをテストすること」ではなく、「(起こり得る)リスクを理解すること」と「誰にとってのリスクか」という“ポイント”を明確化することにある。すなわち、「テストとは一種のサンプリング」なのだ。だが、これをマネジメント層の人間が理解していない場合、「完璧はある」という“幻想”を抱いているがゆえに、「すべてをテストしろ」とテスト技術者らに無茶な要求をし、結果的にプロジェクトの進行を遅らせてしまう。
テストのノウハウに対する知識・理解不足もテスト技術者の負荷増大に拍車を掛ける。例えば、 テストを通じて問題を発見・修正するうえでは、「問題発見のためのテスト」「問題の絞り込み」「問題の特定」「重要度の決定」「修正」といった作業があるが、これらは本来、それぞれ個別のスキルを要する別々の作業である。だが、「テスト」の名の下にこれらがひとくくりにされ、「誰が、どの作業に責任を持つのか」あいまいにされているケースも少なくない。こうした認識不足が、本来、開発者が担当すべきテーマでありながら「テスト担当者に、全エラーの絞り込みと特定を行うよう要求する」ような無茶を生じさせ、結局はプロジェクトの進行に悪影響を与えてしまう。
本書では、以上のような“誤解”や“認識不足に起因する数々の問題”を、「テストとデバッグはどう違う」「良いテストの条件とは?」といった多様な切り口から1つ1つ具体的に紹介。正しい在り方を分かりやすく、かつ、著者独特のユーモアたっぷりの言い回しで、楽しく解説している。その陥りがちな“誤解”の多さには、「正しい認識を持ち直しさえすれば、実はテストにまつわるほとんどの問題は解決できてしまうのではないか」と感じるほどである。
だが、何より印象的なのは、プロジェクトマネージャや開発者、プログラマといった人たちのテストに対する認識が、テストに最も深くかかわるテスト技術者の認識と同程度、あるいはそれ以上に、プロジェクトの進行に影響を与えるという事実である。その点で、本書はむしろテスト技術者以外の人こそ読むべき作品であり、実際に著者自身もそれを想定して、専門用語の使用を避け、誰にでも読みやすい仕上がりを心掛けたのだという。
なぜいま「テストで苦労しているのか」「プロジェクトがうまく進まないのか」――そうした問題意識を持ったとき、特にマネジメント層の立場にある人は、ぜひ本書を手に取ってみてはいかがだろうか。長年、テストにかかわり続けてきたワインバーグ氏が、生きた知見を基に、あらためてテストの本質を見直した作品であるだけに、幾多の現場を経験したベテランの人ほど、目から鱗となるような思わぬ発見が待っているかもしれない。
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