Twitterは、企業に“人格”を求めている:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(16)
企業がTwitterを活用するとき、どのような点に配慮すべきなのだろうか。それは一般のユーザーが、ほかの人とコミュニケートするときに求めるものと大きく変わらない。
1万人市場調査で読み解く ツイッター社会進化論
カスタマサービス関連分野において、昨今よく話題に上るのがTwitterへの対応だ。一部のCRM製品やコンタクトセンター支援システムなどでは、「Twitter対応」を機能として盛り込む製品も見られるようになった。Twitterというと“一部の先進的なユーザーが中心”といったイメージもあるが、その登録者数は2010年4月の時点で世界で1億人を突破し、日本国内でも「2010年7月の時点で総登録者は約1600万人と推計されている」。もはや“一部の人たちの特別なメディア”ではないのだ。
本書「1万人市場調査で読み解く ツイッター社会進化論」は、2010年7月、全国15〜69歳の男女1万人にインターネットで調査を行った結果を基に、Twitterがいまどう使われ、何を期待され、今後はどう使われるようになっていくのか、プロのマーケターの視点からTwitterの「いま」を見極め、未来を占った作品である。「実名は4人に1人」「平均年齢は38歳」「熱心な人とそうでない人が6対4の割合」など、日本におけるTwitterの現状を浮き彫りにする調査結果を豊富に盛り込んでおり、シンプルで的を射た解説とあいまって、ぱらぱらとページをめくっているだけでも面白い。
ただ、そうした中でも目を引くのは、TwitterとミクシィなどSNSとの大きな違いは「誰もが接することのできるメディア」というオープン性にあり、「そこで盛り上がっている話題について、社会や企業は『知らなかった』と無視することはできない」と指摘している点である。
それも、「顧客の声を聞くことに相当な投資を行ってきた」企業は、Twitterの登場によって、「市場の中で企業と分かちがたい関係を持ち、苦情や問い合せよりも共感や期待を寄せてくれるであろう「ファミリーを育成する」機会が得られた、と指摘しているのである。
その象徴的な例として、著者は企業のブランド戦略を挙げる。これまでのブランディングが「ある程度特化したアイデンティティーによって、知名度と特定のイメージを得るという戦略」だったのに対し、Twitterの場合は「枝葉の豊かなブランドイメージをファンとともに成長させる戦略といってもよい」と説明している。
また、日産自動車のCOOが消費者とTwitterで対話した事例において、企業には「市場とその変化を直接肌で感じる機会はほとんどない」が、つぶやきには「市場の感度、本音が潜んで」いると解説。そして消費者と1時間にわたって「リラックスしたやりとり」を続けた日産のCOOのように、「市場と直接対話する能力」「市場を直接感じる能力」を持っているか、発揮できるか否かが、企業人として、また組織としての行く末に、大きな影響を与えるだろうと説くのである。
商品・サービスがコモディティ化するスピードが加速している近年、企業が安定的に収益を獲得するためには、エンゲージメント、すなわち“きずな”と呼べるレベルの、顧客との強固な関係性が不可欠と言われている。その点、上記のような事例はまさしくエンゲージメントを醸成するアプローチそのものである。こうした例からは、Twitter対応とは決して「いつかは……」といったレベルの話ではなく、いますぐ取り組むべき課題であると、あらためて実感させられるのではないだろうか。
また、企業取材からつかんだエッセンスとして「企業ツイッター、7つのポイント」も紹介しているのだが、そこで「お客様相談室や広報、販促、技術部門の連携網を」作り、常に円滑で適切なエスカレーションができるよう、「社内体制を整備」することの重要性を指摘している点も興味深い。これはすなわち、企業も「1人のユーザー」と同様に“一貫性ある対応”や“誠意”が求められるということであろう。
言うまでもなく、“一貫性ある対応”や“誠意”とは企業のコミュニケーション活動における最重要課題であり、その企業の実力や信頼性を示すものでもある。これに対してTwitterは、リアルタイムに「カジュアルなコミュニケーションを楽しむ場」だからこそ、 「市場と直接対話する能力」や、「企業人としての表現、対話能力そして人柄までも」あらわにしてしまうのだ。それだけに、これを味方に付けたときの“効果”は計り知れないのだが……。
Twitterが誰にとっても当たり前の顧客チャネルになる日は、そう遠くないのかもしれない。そのとき、企業の顧客対応とそれを支える社内体制はどう変化しているのだろうか。規模を問わず、すべての企業にとって、いまあらためてコミュニケーションを考える「真剣勝負」のときが来ているのかもしれない。
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