「もしドラ」の読み過ぎに要注意:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(25)
その決断、そのやり方、本当に自分の頭で考えたものですか? 「もしドラ」などを読むのも大切なことだが、最終的には自分の頭で考えなければ、ビジネスで勝つことは難しい。
マネジメント信仰が会社を滅ぼす
経営が傾き始めたある中小企業の社長は、「会社を復活させるためにトイレ掃除から徹底的に行った」と書いてある本を読み、早速、自社の社員にトイレ掃除を徹底的にやらせた。その会社は、トイレはピカピカになったものの、数年後に倒産してしまった。社長はマネジメント本に書いてあった『トイレ掃除をさせたら、社員の意識が変わり、企業が復活した』という話を真に受け、そこから何かが変わると信じ込んでしまった。そして、ビジネスを立て直すことを怠ってしまった」のだ――。
トイレを掃除すれば、社員の意識やモラルが変わって業績向上につながる、というのは確かによく聞く話だ。だが、ビジネスとはそれほど簡単なものではないし、“トイレの神様”もそう都合よく光臨してはくれない。「トイレ掃除」に問題があるわけではなく、「いま、自社がなすべきことは何か」を自分の頭で考えないまま、「マネジメント本に書いてあった理論や手法に逃げて、ビジネスの現実を直視しなかった」他力本願な姿勢に問題があるのだ。
本書「マネジメント信仰が会社を滅ぼす」は、収益向上という“結果だけ”を求めるあまり 、理論や手法に逃げ、ビジネスの本質を見落としがちな最近の傾向に異議を唱えた作品である。著者は「何を行うか」というビジネスより、「どのように行うか」というマネジメントの方が重視されている風潮に対し、「マネジメントには付加価値を生み出す力はない。付加価値を生み出すのは、あくまでもビジネスである」と、忘れられつつあるごく当たり前の事実をあらためて喝破するのである。
むろん、このように説明すると「そんなことは分かっている」と考える人も多いかもしれない。だが、豊富に収められた事例を読めば、冒頭のトイレ掃除のケースも他人事として笑うことはできなくなるはずだ。おそらく、誰しも一度は心当たりがあるのではないか、といった事例ばかりだからである。
例えば、ゼネラル・エレクトリックの元CEO、ジャック・ウェルチ氏の自叙伝を読んだあるメーカーの社長は、GE社がそうしていたというだけで、バリュー(経営理念)の実践度を社員の評価に組み込んだ。だが、肝心の「自社のバリューとは何か」を考えることなく、それまで使っていた「社会との共存共栄」をバリューとして設定してしまった。その結果、自社の核である製造部門や営業部門の従業員が評価されず、「地域行事に参加した」「丁寧な応対をした」といった管理部門の人間ばかりが評価されることになり、従業員のモチベーションと業績を大きく低下させてしまった。著者はこれを「『他社がやっているから当社もやる』と考える『真似ジメント』」だと切り捨てる。
また、マネジメント信仰が強い人ほど「理論で何でも解決できる」と過信し、「都合の良いことばかりを考えてしまう傾向がある」という。例えば成果主義は、もともと人件費削減を主目的としたものだったが、モチベーションが向上する、効率がアップするといった面ばかりが強調された。だが現実には、社員のチームワークは乱れ、モチベーションは下がり、企業の長期的な競争力は低下してしまった。「マネジメント信仰を持つ者が、理論や建前を駆使して都合がよいことを主張しだすと」、世間に広まっている理論を覆すことは難しいため、「周囲の人はその実行を止めにくく」なってしまうのだ。
このほか「書類1枚の持ち出しにも上司の承認が必要な会社」「リスク管理のあまり新規事業が滞り、競争力を落としてしまった会社」など、“主”であるビジネスをないがしろにし、“従”に過ぎないマネジメントを重んじる本末転倒を犯してしまった事例を多数紹介している。とはいえ、著者はこれらを単純に非難しているわけではない。こうした傾向にあるからこそ「自分の意志に自信を持ち」「新しいこと、困難なことに積極果敢に挑戦していく気概が必要だ」、「マネジメントなんて小難しいことを言っていないで、さっさとビジネスを始めよう」とエールを送っているのである。
もちろん、そのための方策も好事例とともに多数紹介している。それらを一貫しているのは「(知らぬ間に刷り込まれた)“常識”に惑わされず、自ら判断」しようというメッセージだ。
まずはあなたの本棚を眺めてみてはいかがだろう。マネジメントのノウハウ本、ハウツー本、とりわけ理論の「背景や哲学」を取り払い、分かりやすさを追求したような書籍ばかりが並んでいるようなら要注意だ。最近行った判断は「真似ジメント」ではなかったか、それらの書籍は参考にとどめ、本当に自分の頭で考えて仕事に臨んでいるか、本書を片手に振り返ってみてはいかがだろうか。
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- 「技術へのこだわり」という日本企業の根深い病
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- その油断と慢心が“炎上”を招く
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- あなたなら、自社システムをどう攻撃する?
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- ナイトライダーも示唆する人とシステムのあるべき関係
- アップルが成功し、ソニーが失敗した理由
- 貴社のビジネス、ITシステムに“マインド”はあるか?
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- 失敗は、「簡単なこと」「当たり前のこと」で起こる
- ITがどれほど進展しても、経営の基本は変わらない
- コピペやお絵かきが得意な人は“中毒”の疑いあり
- 情報は、人間関係があって初めて有効に活用できる
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- ソーシャルメディア・リテラシが収益を左右する
- 技術者はアーティストであり、製造業者ではない
- 分析するのは「ツール」ではなく「人」である
- ブランドは、消耗品である
- 当然のことを当然にこなすための指南書
- リスクを知っていてこそ、スマホは使いこなせる
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