中小企業でも、なおざりなITインフラ整備は危険:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(75)
小規模な企業では選任のIT担当者をおかない例が多い。だが、インフラ整備をなおざりにすれば思わぬ痛手を被ることもある以上、導入・運用の基礎をしっかりと見直しておきたい。
小さな会社のIT担当者になったら読む本
「過去何十年にもわたって情報システムへの投資を続けてきた大会社とは異なり、小さな会社には人材やノウハウの蓄積がありません。また『IT担当者とは何をする人か』という定義もあいまいで、会社によって違うのが実情です。そのため、IT担当者といっても、実際にはパソコンとインターネットに関する『便利屋』の域を出ないケースも少なくありません」――
本書「小さな会社のIT担当者になったら読む本」は、社員数50人の会社を対象に、IT担当者が担うべき全業務を基礎から分かりやすく説いた作品である。実際、小規模な会社ではほとんどの場合、選任のIT担当者を置かず、総務や経理などの人員が兼任でITシステム関連業務を担当している。「少しパソコンに詳しい」というだけで、成り行きで任されている例も多い。
だが、ビジネスの遂行にITが不可欠となった現在、IT関連製品・サービスの選択・運用の在り方はビジネスに大きな影響を与える。それは、収益を伸ばすためのスピーディなビジネス展開、社内外の情報共有といった攻めの側面だけではなく、機密情報の管理、社内業務の証跡管理など、守りの側面においても同様だ。会社の規模にかかわらず、収益向上、コンプライアンスといった事業体としての基盤を固める上で、社内のITインフラ整備・運用をなおざりにすることは、ある意味、危険な行為なのである。
本書はそうした状況を見据え、選任のIT担当者を置けない企業に向けて、「LANの仕組みと構築の方法」から、情報セキュリティ対策の実施法、情報資産管理の方法、Microsoft Office Accessを使った簡単な業務システムの構築法、さらにはパッケージソフトやSaaSの有効活用法まで、専門用語を極力使わずに一から丁寧に解説している。
最終章では、人的な運用体制やビジネスプロセスの整備も含めた「情報システム」の導入方法も取り上げ、部門間の情報共有や、日々蓄積される業務データの有効活用なども推奨。一冊を通じて、「本格的なITインフラ構築に向けたロードマップ」としても読めるよう構成している点が特徴だ。
そうした中、1つの読みどころとなっているのが、各章の最終ページにコラムを挿入し、“インフラ整備・運用の勘所”について解説している点だ。例えば、「社員の気持ちを理解しよう」というコラムでは、IT担当者は「会社の利益に関心を持つべき」「会社の経営方針を理解すべき」「会社の強みや弱みを知るべき」といったポイントを紹介。経営ビジョンにひも付いたIT施策立案の重要性と、そのための具体的な取り組みについて解説している。
「現場業務を研究しよう」では、IT知識のみならず、業務知識に基づいたIT施策立案の重要性を指摘。IT担当者の業務は「他の社員の業務支援」が目的であると明言した上で、「業務知識がとぼしいと、IT担当者は社員に業務支援の提案ができず、困ったときにだけ呼ばれる『便利屋』になってしまいます。もしくは他の社員の業務から切り離された仕事を細々と続ける羽目になります」と、実にありがちな問題を指摘している。
この他、「コミュニケーション力を磨こう」、社内の理解者、外部の専門家や外注先といった「人的ネットワークを構築しよう」など、ステークホルダーの理解・協力を得ながら全体最適の視点でIT施策を進めることの重要性も指摘。コラムに限らず本文中でも、「業務手順が標準化されていなければ、社員の個人的なスキルによって業務品質がバラバラで、ミスや非効率な動きにつながってしまう」など、常に業務とシステムをひも付けた視点から解説しており、シンプルでありながら非常に読み応えがある。
タイトルこそ「小さな会社のIT担当者になったら〜」としているが、「IT担当者になったばかり人」だけではなく、ベテランの人、大規模な会社の情報システム部門に勤めている人にとっても、基礎を振り返る上で非常に有効なことは言うまでもない。多忙な毎日の中、つい基本をないがしろにしてしまいがちなものだが、全てのIT担当者、情報システム部門にとっての鉄則を、もう一度確認してみてはいかがだろう。
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