なぜAKB48は廃れないのか:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(29)
どうすれば効率的にビジネスを展開できるのか――この課題は「コスト削減」などの表層的な施策では解決できない。“ビジネスを成立させる仕組み”から見直す必要がある。
知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか
昨今、「クラウド」や「プラットフォーム」という言葉が、ビジネス一般の世界でも使われる機会が増えてきた。自社では処理のためのコンピュータを持たず、必要なときに、必要なだけITリソースを使う「クラウド」、あらゆるソフトウェアやハードウェアなどを稼働させる基盤となる「プラットフォーム」――両者のこうした特徴や考え方が、そのまま有効なビジネスモデルを考えるための“視点”となり、あらゆるヒントをもたらしてくれるためだ。
本書「クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか」は、家電ジャーナリストの西田宗千佳氏と通信ジャーナリストの神尾寿氏が、そうした2つの視点で、さまざまなビジネスモデルやITにまつわるキーワードを分析、主に「プラットフォーム」の在り方にフォーカスしながら、「どのような要素や仕組みがそのビジネスを支えているのか/そのキーワードに込められているのか」について考察した作品である。
例えば、数年前からよく聞かれる「ガラパゴス化」という言葉。これは周知の通り、日本国内特有のニーズに基づいて開発したために、「日本市場でのみ通用する固有の進化」を遂げ、「国際競争力を失う」ことを意味している。だが、これを防ぐために「製品・サービスを全てグローバル化しよう」というのも間違っている。世界各地に固有の市場特性がある以上、各地域に最適化させることは製品の売り上げを伸ばす上で不可欠となるためだ。
ではどうすれば良いのか? これに対して筆者は、「グローバルで共通に使う『プラットフォーム』をしっかりと作った上で、地域市場ごとに合わせるデバイスや機能は『モジュール』設計にしておく」べきではないかと提言するのである。その分かりやすい例が自動車だ。「基本となる車台とエンジンなど機関部を作り、それをもとにモジュール化された部品を組み合わせ」ることでローカライズしたり、「派生車の開発を行」ったりしている。本書では、このように、まずビジネスの基盤を確保し、その上でさまざまな要素を稼働させたり、組み合わせたりする「プラットフォーム」型の考え方が、いま成功しているビジネスや各種キーワードに共通していることをあらゆる角度から分析しているのだ。
よって、筆者らが紹介する「プラットフォーム」は、上記の車台のような具体的な“モノ”ばかりではない。例えば耳慣れた「ベータ版」という言葉。この本来の意味をご存じだろうか。これは決して「未完成品」という意味ではなく、「開発途上版」であり、製品としての完成度を担保しながら「今後も進化が続く」という意味合いを持っている。そして製品・サービスをベータ版とする意義は、多くの先進的なユーザーに「不具合の洗い出し」を手伝ってもらい、「修正意見を(効率よく)集め」ることで、より良い製品・サービスを提供することにある。
筆者はこうした意義を基に、ベータ版とはすなわち「企業と消費者の共生関係」を示すものであり、この“ユーザーとのコミュニケーション”こそが、ベータ版という製品を成立させるための「プラットフォーム」となっている、と説くのだ。従って、「ベータ版」の意味を履き違えて、「不完全な品質のままリリースしても良いもの」「ユーザーに助けてもらうためのもの」と考えてしまうと、ビジネスの“基盤”が崩れ、収益を伸ばすことは自ずと難しくなってしまうと指摘するのである。
そうした視点で見ると、アイドルグループ「AKB48」と、ゲームの「アイドルマスター」にも共通点があるという。それはコアなファンとプロジェクト運営者が手を結び、“自分たちのアイドル”を支え合うという一種の「共犯関係」が、その存続を支える「プラットフォーム」となっていることだという。
というのも、両者とも、その存続は人気に左右されるだけに、本来はビジネスとして大きなリスクを抱えている。だが、コアなファン層がCDやグッズの売り上げに貢献するとともに、リアルやネットの世界で口コミを創出する核となり、“アイドルとしての進展/幅広い層への訴求”を強力に支えている。つまり、こうした「コアファンを味方につけている」ことこそがビジネスのリスクを低減させ、一定の安定性を担保していると説くのだ。従ってこの場合も、コアファンとの“共犯関係”という基盤が崩れてしまうと、その存続は危うくなってしまうと指摘するのである。
このように見ていくと、「プラットフォーム」とひと口で言っても、その考え方を適用できる次元はさまざまであり、考え方の応用範囲も非常に幅広いことが分かる。それと同時に、「何がプラットフォームとなるのか」を正確に見抜けばビジネスの強力な推進力となるが、見誤ればビジネスとして成立しなくなるほどのインパクトを持つこともよく理解できる。また、各事例を読み込んで行くと、プラットフォームに乗せる製品・サービスなどについて、「自社ではどのように提供するか」「どこまで自社で持つか/責任を負うか/統制するか」「どこから先を外部から調達するか/外部に任せるか」といった“クラウド的”なテーマが、あらゆる角度から柔軟に検討されていることにも気付く。これがビジネスの“基盤”を生かす大きなポイントとなっているのだ。
さて、以上のように、筆者らはプラットフォームを見抜き、その上に乗せるものを柔軟に考えるためのフレームワークを提供してくれている。これに則り、あなたも「自社のビジネスは何がプラットフォームとなるのか」「基盤に乗せるものは、どこまで自社で持つべきなのか」について考えてみてはいかがだろうか。そうすると、自社にとって必要なもの/そうでないもの、持つべきもの/利用すべきものも、自ずと浮き彫りになってくるのではないだろうか。
あるいは、本書の帯にある「初音ミクはクラウド、戦国BASARAはプラットフォーム」という分析の真意について自分なりに考え、Twitterなどで議論を持ちかけてみるのも面白そうだ。もしかしたら、そうしてできたコミュニティで、“集まりの場を持たずに、必要なとき、必要なだけアイデアを獲得できる”ことが、ビジネスパーソンとしてのあなたを支える“プラットフォーム”になってくれるかもしれない。
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