“観察力”がコミュニケーションのキモ:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(35)
自分の理屈にいかに筋が通っていようとも、相手の心理状態に適した対応を心掛けていなければ、良いコミュニケーションは決して成立しない。
A or B?
「人付き合いの基本は、観察力を鍛えることである。相手がどのような人間なのかを見抜くことができなければ、適切な対応をとるのも難しい」。「鋭い観察力こそ、円満な人間関係を築くうえでの必要不可欠な基礎力」だ――。
ユーザーの要望を正しく理解したり、提案したりするために、SEや情報システム部門のスタッフには優れたコミュニケーション能力が求められている。しかし、相手の業務知識や課題を理解したり、業務で使う言葉の定義をそろえたりしたところで、必ずしもうまくいくとは限らないのがコミュニケーションの難しいところだ。
相手がいまどんな状況なのか、どんな気持ちなのかなどの情報をくみ取って、それに適した対応ができなければ、例え論理的には筋が通っていても、ぎこちない会話になってしまう。冒頭で述べたように、業務上の円滑なコミュニケーションのためには、相手をさりげなく、しかしじっくりと観察し、その心理と論理の両方に配慮することが求められるのである。
その点、本書「A or B」はそうしたコミュニケーション能力を鍛えるための良いきっかけになるのではないだろうか。本書は、ビジネスで遭遇する48のシチュエーションを想定し、「楽しく仕事ができているのはどちらか?」「怒りっぽいのはどちらか?」など、AとB、2つのイラストから正解を推測するという作品である。例えば「クライアントにウケがいいのはどちらか?」では、童顔タイプの男性をA、落ち着いた印象の男性をBとし、その表情や全体的な雰囲気から正解を考える。本書では、これを通じて「人間観察のポイント」を効率よく学んでほしいと述べている。
もちろん、単なるクイズのようなものではない。その解答とともに、あらゆる心理学者の見解に基づいて、人の普遍的な心理をさまざまな角度から学べる点が大きな特徴だ。
種明かしを避けるために、どの問題の解説かは明示しないが、例えばある問題では、「私たちは、無意識のうちに、自分とよく似た人を好む傾向がある。これを類似性の法則という」と説いている。よって、ビジネスにおいて、部下や営業担当者の評価が不公平になりがちなのも「きわめて人間的な現象」であり、そもそも「公平な目で人を判断することなど不可能」だと解説するのだ。
本書ではこれを基に、社内で不公平な評価をされても「『まぁそういうこともあるか』と気楽に考えていたほうがいい」とアドバイスするのだが、“法則”がシンプルなゆえに、自分の日常に当てはめた場合も自然に考えたくなってしまう。例えば上記の「類似性の法則」なら、管理層との会議やクライアントとの商談のような重要な局面では、相手側の担当者と何らかの共通点がある人間を同席させる、といった方法も有効なのではないだろうか。
「難しいことをたのむときには周囲に人がいたほうがよい」という指摘も興味深い。これはボストン大学のキイ・サトー博士の説であり、「私たちは、周囲に人がいると、その人たちの目を気にして、親切なってしまう」のだという。とはいえ、この方法は、周囲の目というプレッシャーに相手をつけ込むだけに終わらず、頼まれた方にとっては、親切心や能力をアピールするチャンスにもなるのだという。この辺りは、ユーザー部門の担当者に正確なシステム改修依頼書を出してほしいときなど、ユーザー部門との交渉の場などで使えるかもしれない。
このほか、品物の「種類が多いと、注目されやすいが買ってもらえない。逆に、種類が少ないと、注目されにくいが、結局は買ってもらえる」などは、ユーザー部門に提供するサービスメニューを考えたり、システムのUIを設計する際などに1つの参考になりそうだ。もちろん、広く一般に向けた作品であるため、全てがIT部門関係者の役に立つわけでもないし、中には「当たり前だろう」と感じるものもあるが、少なくともコミュニケーションというものを客観的に意識したり、そのツボをつかんだりするためのファーストステップにはなってくれるはずである。
加えて、表紙の印象からも分かるように、決してカタい本ではない。問題も「頭にケガをした女性と腕にケガをした女性、会話が流暢にできるのはどちら?」「効果的な広告はどちら?」など興味深いものが多く、まさしくクイズ感覚で楽しめるはずだ。仕事の合間などに気分転換を兼ねて、ぜひ気軽にコミュニケーションというものを考え、感じてみてはいかがだろう。
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