多くのプロジェクトは、計画段階ですでに失敗している:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(38)
確実に目標を達成するためには、“PDCA”の“P”で考えるべきことがたくさんある。検討すべき項目を一つ一つ丁寧に扱い、もっと慎重にプランニングを進めるべきだ。
なぜ日本人はマネジメントが苦手なのか
数年前、ある自治体のプールで、幼い少女が浄化設備の吸水口に吸い込まれて亡くなる事故があった。マスコミは「現場の危機管理に問題があった」と報じたが、それは間違っている。「問題は、『事故が起きたときの危機管理』ではなく、『ずっと前から吸水口の金網がはずれていた』という日ごろの管理にあったのだ。日本人は“危機管理が苦手”なのではなく、“管理自体が苦手”なのであって、危機的状況になるとそれが『バレる』だけなのである」――このように言われると、国や企業、さらにはプロジェクトチームまで、あらゆる組織のマネジメント、全てに当てはまるような気がしてくる。
本書「なぜ日本人はマネジメントが苦手なのか」は、設定したゴールに確実に到達できるよう、マネジメントを「ロジカルに進める」ための方法論を説いた作品である。こう述べると、「ロジカルに進めないマネジメントなんてあるのか」と考える向きもあるかもしれない。だが、あなたは本当に「自分が行っているマネジメントはロジカルなものだ」と言い切れるだろうか。
例えば、そもそも「マネジメント」とは何なのか、日本語ではどの言葉が当てはまるのか、誰にでも分かるようにさっと答えられるだろうか? 一言ではうまく答えられないはずだ。なぜならマネジメントとは「管理」でもなければ「運営」でも「経営」でもない。その全てが当てはまる、「組織のあらゆる活動を包括する概念」だからだ。
従って、「マネジメント」とは、その言葉の身近さとは裏腹に、決して一筋縄で行くものではない。それによって目標を達成するためには、“マネジメント”に含まれる各要素を丁寧かつ慎重に扱い、“ロジカル”に事を進めることが求められる。本書はそのためのコツや方法論を提示することで、読者1人1人が持っているマネジメント論に再考を促すのである。
中でも印象的なのは、「PDCAサイクルはなぜダメなのか?」という指摘だ。まず目標を設定して適切な手段を考え、目標の実践に乗り出し、その結果を次のアクションに生かす――当たり前のように信じられてきたこのプロセスだが、著者は「(日本においては)実際のマネジメントの改善にはほとんど役立っていない」と切り捨てるのである。その上で、「マネジメントの失敗は、その大部分が『P』=プランの段階ですでに起きてしまっている」と指摘するのだ。
では、どうすれば良いのか? そこで著者が提案するのが「Ph.P手法」(ピー・エイチ・ピー手法)という方法論である。これはP=プランを5つのフェイズに分け、計7つのステップを踏もうという考え方だ。具体的には、現状把握→原因特定→目標設定→手段選択→集団意思形成までの5ステップを「P」とし、その上で計画を実行(Do)し、その結果と目標を比較(See)する。
特に重要なのが「現状把握」から「手段選択」までの4ステップだという。というのも、現状把握は「事実を客観的に把握するもの」、原因分析は「実証的分析によって因果関係を科学的に特定するもの」、そして目標設定は「各人・各組織の価値観やモラル感覚などが関係してくるもの」というように、それぞれ内容が異なる上、1つ1つが非常に重要なテーマであるためだ。 特に目標設定などは、「関係者間でイデオロギーや倫理観・道徳観などが決定的に異なる場合には、多数決か決裂かといった状況も起こり得る」ほど“重いテーマ”なのである。
著者は、こうした5つのステップについて、「プランなどと『ひとくくり』にして」しまっては「混乱を助長するだけだ」と指摘。そこで自身の方法論、「Ph.P手法」によって、各ステップを整理して丁寧に扱う、マネジメントの正しい進め方を見せているのである。
とはいえ、筆者は決して「マネジメントの難しさ」を主張しているわけではない。逆に「決して面倒くさいものではなく、進め方に問題があるだけだ」と説いている。例えば、朝寝坊をしたとき、「遅刻しないためにはどうすればいい?」といったゴールを設定し、あらゆる手段を考え、実践した経験は誰しもあるはずだ。著者は、本質的にはこれも“マネジメント”であり、「実は誰もが無意識に日々やっている」のだが、無意識であるがゆえに、その方法について「ロジカルな整理ができていないだけだ」と説くのである。
さて、いかがだろう。プロジェクトマネージャや経営をリードする立場にあれば、マネジメントの知識や方法論に長けている人も多いことだろう。だが、その方法論は、実践の場で確実に役立てられるほど、“ロジカルに整理”されているだろうか?――本書を読んで、あらためて自身のマネジメントノウハウを見直してみると、その進め方に思わぬほころびを発見できるかもしれない。
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