その情報共有ツール、本当に役立っていますか?:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(41)
顧客やパートナー企業とアイデアを出し合い、新たな価値を創出する「価値共創」の考え方は多くの企業に浸透している。だが、あなたの会社は「価値共創の正しい在り方」を本当に理解できているだろうか?
生き残る企業のコ・クリエーション戦略 ビジネスを成長させる「共同創造」とは何か
もはや、企業本位の枠組みにとらわれた価値創造では、収益を伸ばすことは難しい。顧客、経営者、従業員など、あらゆるステークホルダーが協力し合って製品・サービスを開発する姿勢がなければ、生き残っていくことはできない――。
本書「生き残る企業のコ・クリエーション戦略」は、2004年、ミシガン大学教授のベンカト・ラマスワミ氏とC.K.プラハラード氏が提唱した「コ・クリエーション戦略」を、ラマスワミ氏らがあらためて整理・拡充した作品である。
コ・クリエーション戦略とは、自社だけではなく、顧客やサプライヤ、パートナーといった企業ネットワークの協力を得て、新たな商品価値を作り出したり、顧客の体験価値を高めたりする手法のこと。近年、好調な企業の間では顧客の声を製品開発に反映したり、部材サプライヤと協力して調達業務を効率化するといったことが盛んに行われている。このことから、両氏が正しく先を予見していたと言えるが、本書では2004年以降に登場した数々の事例をピックアップし、より具体的な見地から戦略のポイントを解説している点が特徴だ。
中でも目を引かれるのは、「ITが、大規模な参加型プラットフォームを生み出すのに重要な役割を果たす」という指摘だ。本書では、その一例として、アップルがiPhoneのSDK(ソフトウェア開発キット)を提供している事例を挙げている。アップルは「アプリケーション開発を外部に開放」することで、「ユーザも、ソフトウェア開発者も、企業家も、パートナー企業も、アップルの提供する巨大な実験場に自由に参加できる」――すなわち“価値共創を実現している”と説くのだ。
ただし、この事例のポイントはSDKの提供そのものではないという。アップルは「SDKの背後にあるコアな技術」については自社で管理することで、「エンドユーザ体験の質を一定に保ちつつ、開発者に大きな柔軟性を与えている」。そうした“プラットフォームの質を維持し、サービス向上に役立てる仕組み”を堅持することで、 iPhoneは「多くの機能を体験できるばかりか、開発の喜びさえ体験できる製品となった」と強調するのである。
インドに本拠を置くITベンダ、インフォシス・テクノロジーズの事例も興味深い。同社では「ブレインストーミングなど問題解決のための取り組み」に、従業員だけではなく、社外の専門家なども巻き込むための仕組みを開発した。
そのためにまず取り組んだのが、自社の専門領域に限らず「幅広い知識や情報へのアクセス」を可能にする環境の用意/社外の「専門家やパートナーとの協業ネットワーク」の構築/「アイデアをまとめ上げるための手順や(利用しやすい)ツール」の用意/ 「(アイデアを出し合うための)魅力的なイベントや体験」の用意といった“仕組みを支える要件”の考案と整備だ。その上で、可視化ツールや情報共有ツールなどを使って、関係者同士が随時アイデアを交換できる「コ・クリエーション用プラットフォーム」を実現したのだという。
さて、以上2つの事例は、その共通点から重要な示唆を与えてくれる。それは「単なるアイデア出しのプラットフォーム構築に終わっていない」ということだ。アップルでは「アプリケーション開発を外部に開放」しながら、「SDKの背後にあるコアな技術」は自社で管理し、ビジネス品質の維持・向上を図った。インフォシスは、「アイデアを出し合い、まとめるための要件」を考案・整備した上でテクノロジを使っている。
すなわち、まずは「経営プロセスを、コ・クリエーションを生かすような形に整備した上でテクノロジを使っている」点が大きなポイントとなっているのである。意見交換や情報共有の重要性を認識していながらも、この点を見落とし、ITツールを使った情報共有/コミュニティ機能がビジネスに対して有効に機能していない例は意外に多いのではないだろうか。
顧客やサプライヤ、パートナーの協力を得て、新たな商品価値を作り出すコ・クリエーション戦略――こうした文面に、もはや新鮮味など感じられない。しかし、今のあなたの会社における“情報共有や意見交換”の状況はどうだろう。アイデアをビジネスにつなげられる体制が整っているだろうか。可視化ツールや情報共有ツールなどが、経営プロセスから浮いた存在になってはいないだろうか。あなた自身は価値共創の仕組みや在り方について正しく理解できているだろうか。コ・クリエーション戦略が広く浸透した今、あらためてその仕組みを学び直すことで、価値共創に対する“自社の理解度”をチェックしてみてはいかがだろうか。
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