あなたの会社は「突然死」の危機にさらされている:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(63)
自然環境、ビジネスの両面で“想定外”が日常的に起こり得る今、会社を「突然死」から救える新しいタイプのリーダーが必要だ。
「リーダーの条件」が変わった
不測の事態が起きて危機に直面した時、リーダーに求められるのは「的確な判断力」と「素早い行動力」だ。模様眺めをしたり、周りの出方をうかがっているようではリーダーたり得ない――。
本書「『リーダーの条件』が変わった」は、経営コンサルタントとして著名な大前研一氏が、国や企業をけん引する次代のリーダーが備えているべき資質について考察した作品である。冒頭の「不測の事態」とは言うまでもなく先の東日本大震災のことだが、大前氏はその際の政治家たちの動きについて「あまりにも悠長」と指摘。一方で、日本の経営者たちについても、「ある経営者と会食したところ、津波で工場が被災して復旧に2カ月かかる、と他人事のように話していた。そんなに大変な状況なら、会食なんかしていないで現場に飛び、不眠不休で復旧作業の陣頭指揮を執るべき」と断じる。つまり本書は、有事に際して露呈した日本の弱点――リーダーシップと事業継続に光を当て、よりリアルな見地から、今あらためて「組織を統率する人間のあるべき姿」を解説しているのである。
印象的なのは、「当たり前のことを粛々とこなす」「上司の言うことをよく聞く」といった「従来の(人材抜擢法の)延長線上で光る存在」を「TAM型(“ ト”ンネルの出口の“明”かりを“目”指す)」人材と定義し、想定外の危機に直面した際、「従来の常識で考えるTAM型のリーダー」は適していないと説いている点だ。むろんこの「想定外」とは、自然環境、ビジネス両面の想定外を指しており、「世界中どこにいても瞬時に的確な判断が求められるボーダーレス経済において、リスクテイクしながら事業を継続していくには、そもそもこうした有事や危機に強い『CKD型』のリーダーシップがなければならない」と説くのだ。
では「CKD型」とは何か? これは「“チ”リの“鉱”山落盤事故からの“脱”出」から取ったもので、「トンネルの出口も、薄明かりもない。空気さえあるのどうか分からない」状況で、「新たな解決策を生み出すことのできる」リーダーを指している。
ただ、こうしたリーダーは今初めて求められるようになったわけではなく、実は「もう何年も前から『リーダーの条件』は変わって」いたのだという。それは「技術と世界の経済地図が激変することによって、事業そのものが連続性や継続性を失い、『突然死』型に変わってしまった」ためだ。
事実、ビジネスや市場動向のスピードが激化・複雑化し、現在は“想定外”が日常的に起こっている。そうした中、米国では“想定外”への対応を命懸けで学んできた軍隊の若手エリートを進んで採用する企業も続出しているという。大前氏はこれを受けて、「いま求められているのは、よりアグレッシブで、よりスピーディで、より戦闘的なリーダーシップである」と説き、その在り方を詳細に解説するのである。
そうした中、特に目を引かれるのは、リーダーとしての1つの資質、「スピード」についての指摘だ。まずリーダーには「未曽有の危機に際しては、復旧や調整という発想ではなく、大胆に新しいものを生み出す」発想が必要だという。例えば「海外の工場に余力があったら、そちらに生産を移すことができないか」「日本の工場修理に当たっている精鋭部隊を中国の工場に派遣して新たな生産ラインを立ち上げた方が手っ取り早い」のではないかと述べている。
もう1つは「ファインプレーより継続性」として、優れた経営者は「不測の事態が起きても被害が出ないように普段から対策を講じている」ものだと説いている。東日本大震災を例に取れば、BCPの策定をはじめ、「バックアップシステムの整備」「バックアップオフィスの確保」「社員の迅速な安否確認」などを実現できて然るべきだった。だが実際には「顧客データベースなどはバックアップサーバを置いておくのが常識なのに、置いていなかった」ケースもあったとして、そうした「間違い」を犯さぬよう厳しく指摘するのである。
だが、もっとも重要なのは、そうした対策立案・実施について「1週間以内に現状分析と今後の対策、そして工程表を作らねばならない」という指摘だろう。 40年間、コンサルタントを続けてきた大前氏の経験からすれば、「1週間かけてもそれができないような組織なら、1年かけたってろくな対策はできない。その集中力とスピードがなくては、有事のリーダーは務まらない」という。
さて、いかがだろう。昨今は激しい自然・経済環境変化への対策として、ITシステム面でもBCPやクラウド活用が大きな話題になっている。そのためのツールや、ツールを生かすための方法論、さらには導入事例も多数登場している。だが、例えばあなたの会社では実際に対策やツールの導入に乗り出しているだろうか?「模様眺めをしたり、周りの出方を伺う」のはシステム活用においても日本企業の常だ。だが、「技術と世界の経済地図が激変」し、“想定外”が日常的に起こっている今、あなたの会社も「突然死」の危機にさらされているのだ。そうした中、今までのような「悠長な」姿勢で生き残れるのだろうか? あなたの立場で、今できることはないのだろうか?
リーダーに求められるのは「的確な判断力」と「素早い行動力」――聞きなれたはずのこの言葉も、本書を読むとリアルな危機感とともに迫ってくる。そしてこれらが大切なのは、リーダーに限ったことでもないはずだ。有事、危機管理といった言葉に麻痺しかけている今、組織を統率するための極めて具体的なアドバイスから、経営者から現場層まで、あらためて居住まいを正されるはずだ。
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