分析するのは「ツール」ではなく「人」である:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(70)
大量データを分析するためのテクノロジやツールは手段に過ぎない。そこから自社にとって真に有用な知見を引き出せるのは、自社の業務を知り尽くした人間である。
ビッグデータビジネスの時代
「極めて大量のデータを前にしたときに、誰もが『ここから何らかの有用な知見を得られるのではないか』という期待を感じるわけではない。極端なことを言えば、『日本人全員の過去1年間の購買状況』といったデータが仮に利用可能であったとしても、それらのデータを前に知見導出の可能性を感じることはなく、途方に暮れる、あるいは気持ちが悪くなってしまう人が大半だろう」「ビッグデータ活用の促進要因が増加する中で、大きな阻害要因は人材不足である」――。
本書、「ビッグデータビジネスの時代」は、昨今、クラウドに次ぐキーワードとなっている「ビッグデータ」活用の現況を全方位的にまとめた作品である。周知の通り、ビッグデータとは、「構造化データだけではなく、画像データやソーシャルメディア上のつぶやきなどの非構造化データも含めて蓄積・分析し、収益やブランドの向上に役立てよう」といった概念だ。だが著者は、その方法や有効性に多くのページを費やす一方で、冒頭のように、「ビッグデータの取得・活用を主導できる人、すなわち統計学や情報科学の素養に富む人の数が不足している」ことも強く指摘するのだ。
もちろん、分析を専門家に外注する方法もある。だが「情報システム構築のための外注と同様、目的に沿った成果を得るためには、発注側に最低限の知識・スキル・リテラシが必要であり、それがなければ何をどのように外注すればよいのかという判断すらつかない」。
だが、これはユーザー企業に限った話でもないという。ツールベンダなどビッグデータ活用の支援サイド事業者も「統計分析や数理モデリングを担う人材が不足している」。事実、シリコンバレーでは「ハドゥープが使えて、統計リテラシがある人材」に関しては、「スタートアップ事業者から大手事業者までが広く募集」しているほか、マイクロソフトのキャリア関連ブログでも、「技術領域において今後重視されるであろう3つの領域」として、「データマイニング」「ビジネスインテリジェンス」「分析・統計」などを挙げているという。
では、どうすればそうした人材を育成できるのか? これに対して著者は、「ビジネスも分かってITも分かる人材が少ない」という、長年指摘され続けてきた問題に言及。システム構築と同様、「データ活用についても、業務を知り尽くしたスタッフが進んでかかわることが重要」と指摘するのである。
本書ではその好例として、ヤマト運輸の取り組みを紹介している。同社では、「情報システムの企画・進行に際しては、事業部門に所属する、業務に精通するものを『1、2年限定で拝借し、チームに組み込む体制』」を採っているという。むろん、優秀な人材は業務部門も手放したがらないが、「仕事を進める上でITが重要である」という認識は全社が持っている。そうした前提に立ち、あくまで期間限定の“レンタル移籍”とすることで、この取り組みを実現しているのだという。これはシステム構築に関する事例だが、著者は「データ活用の視点においても同様の仕組みが有効」と解説している。
一方、同じく物流企業のバンテックでは、「経営企画部門と経理事務部門、それから情報システム部門が参加する『BICI(ビジネスインテリジェンス・コンピテンシー・イニシアチブ)』と呼ぶ組織」を作り、「全社最適の見地から、活用するデータを整理」しているという。著者はこの事例をもって、「事業部門と情報システム部門の密接な連携と、それを踏まえたデータ活用」に着目すべきと指摘。データ活用のリテラシ向上に向けた全社的な取り組みを勧めるのである。
さて、いかがだろう。クラウドという言葉が登場した時と同様、「ビッグデータ」は半ばバズワードにもなっているほどであるだけに、データ活用の意義や重要性を認めていない人はまずいないだろう。だが、“データ活用のノウハウやリテラシの重要性”となると、認識している人は意外に少ないのではないだろうか。
また昨今は、営業部門をはじめ“現場のデータ活用”を支援するために、手軽さ、容易さを1つの特長とする分析ツールも複数存在する。だが、そうした機能に頼り過ぎることなく、著者も指摘しているように、「分析に向けた問題意識の醸成」や「自分は何ができないのか? そのできないことが解決されれば、どのような知見が得られそうなのか」といった点に気付くための1つの手掛かり、きっかけと考え、より高度なレベルで使いこなすことを目指すのが正解なのではないだろうか。
「ビッグデータ」「分析」というと、ツールの機能や高度なテクノロジといった側面ばかりに注目してしまいがちだが、自社にとって真に有効な知見やビジネスチャンスを見出すための大きなカギを握っているのは、やはり自社の業務を知り尽くした従業員である。ITシステム同様、1人1人が専門的な知識を持たないまでも、ツールやデータを使いこなすことを目指して積極的にかかわることが、ビッグデータ活用の大きなポイントになるのではないだろうか。
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