システム導入・浸透のポイントは“楽しさ”にあり:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(77)
高性能・多機能だけのシステムでは使ってもらえない。“楽しさ”がなければ浸透しない――iPadを企業に導入・浸透させる方法からは、システム開発・導入の大きなヒントを得ることができる。
iPadで現場を変える
iPadは、人と組織の活動に新たな広がりを創り出しています。iPadが「仕事現場の新しいあり方」を可能にしたのです。「iPadが存在しなければ、決して実現できなかった業務スタイルがここにある」――私たちにiPadをことさら特別視する気持ちはまったくありませんが、取材をした限り、このように言い切るしかないと感じています――。
本書「iPadで現場を変える」は3人のITジャーナリストが、iPad導入企業における“業務現場での活用ノウハウ”を紹介した作品である。現在、「プライベートであれ、ビジネスであれ、パーソナルな情報ツールとしてiPadを活用するための情報・ノウハウは、他のどのタブレット製品よりも豊富にそろっている」。だが、「業務現場直送の濃密な情報・ノウハウ」はまだまだ不足している。そこで本書は、企業ユースに特化した内容とし、導入企業7社の取材記事のほか、33社の導入事例、「iPad導入を成功させるための7つのポイント」などを盛り込み、ビジネスシーンでの積極的な活用を促している。
中でも印象的なのは、iPadは「生産性を高め、仕事を楽しく創造的なものにする」という指摘だ。「iPadを業務で使ってみること自体がこれまでにない新鮮な体験」であり、これが「従業員のモチベーションを高め」、「業務のアイデア出し」も活発になると、多くの企業が評価していたという。
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それを象徴するのが、中古車買い取り・小売業を手掛けるガリバー・インターナショナルの事例だ。同社は2010年6月から他社に先駆けて300台のiPadを導入。2011年8月には1450台を追加導入し直営店のスタッフに1人1台ずつ支給した。
同社の特徴は「中古車の買い取り業務用」「販売業務用」「営業担当者の支援用」「顧客へのアンケート用」「顧客へのプレゼン用」と、主要業務をカバーする5つのアプリケーションを用意し、日常に完全に浸透させたことだ。各アプリケーションの効果についてはここでは紹介しないが、軽さ、起動時間の短さ、駆動時間の長さなど、ハードウェアとしての性能の良さもあいまって、好意的に受け入れられているという。
加えて、アプリケーションについて、「次はこうしたらどうか」といった意見が、社員側からたくさん寄せられた。同社の場合、セキュリティ対策などをしっかりと施すとともに、個人利用やApp Storeの利用を禁止していない。そうしてiPadに慣れてもらい、「自分の愛する手帳のように、使いこなしてほしい」と考えた点もポイントなのかもしれない。ちなみに、社員側からアイデアが寄せられるという事象は同社に限らず、他のケーススタディでも散見された。
著者はこうした導入事例を振り返って、冒頭で紹介したように「iPadが存在しなければ、決して実現できなかった業務スタイルがここにある」とまとめる。ただし、手放しにiPadを礼賛するのではなく、「ボディのサイズやユーザーインターフェースなど、それぞれの要素だけに着目してみれば、従来のデジタル機器に『ちょっとした違い』を作ったに過ぎない」と指摘。その上で、「それらの『ちょっとした違い』を、『ユーザーにより良いデジタル体験をさせる』という意図に沿って統合させ、高いレベルで形として仕上げている」点に価値があると解説している。
むろん、その着想は「アップルおよび故スティーブ・ジョブズ氏の卓越した能力」によるものではある。だが、「ユーザーにとってのより良い体験」を求めて、“ちょっとした違い”や“楽しさ”を追求する姿勢は、iPadの活用に限らず、一般のシステム開発・導入においても、またシステム活用に対するユーザーの積極的な参画を促す上でも、非常に重要なアプローチと言えるのではないだろうか。
もちろん、本書はあくまでiPadの企業導入にフォーカスした作品である。だが、少し視野を広げて読んでみると、一般のシステム開発、導入、そして浸透にも生かせるさまざまなヒントも得られるはずである。「システムを導入したが使ってもらえなかった」経験を持つ人こそ、本書を読んでシステム開発・導入に対する自身の視点をもう一度チェックしてみてはいかがだろう。
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