“顧客”や“ユーザー”との関係作りを見直そう:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(78)
顧客とのエンゲージメントを醸成する「ゲーミフィケーション」という新しいアプローチは、システム企画に対しても多大な可能性を秘めている。
ゲーミフィケーション
「グリーは今でこそソーシャルゲームのプラットフォームとして認知されているが、グリーはそもそもSNSとしてミクシィと競い合っていた。それがゲームを入れることでユーザーのアクティブ率を高めることに成功した。『ゲーム』そのものはソーシャルメディアがもたらしたような拡散力を持っていなかったかもしれない。しかしながら、『ゲーム』はユーザーのアクティブ率を高め、滞在時間を伸ばすことにおいて大きな効果を発揮したのだ」――。
本書「ゲーミフィケーション」は「ゲームの考え方やデザイン・メカニクスになどの要素をゲーム以外の社会的な活動やサービスに利用するものと定義される」ゲーミフィケーションの効用について、多数の事例を交えて具体的に解説した作品である。例えば、自社Webサイトなどにゲームを取り入れることで、「サービスに居続けて」もらうことができる。またゲームは「何度も何度も繰り返し遊ばれる」。こうしたゲームの特性が、「顧客に製品やサービスを繰り返し利用してもらい、関係性を維持する(アクティブ率を高める)ことに大きく貢献する可能性」があるとして、ビジネスへの活用を詳細に分析するのである。
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例えば2007年、既存店の売り上げが大幅に落ち込んでいたスターバックスは「ソーシャル」と「ゲーム」を使ったエンゲージメント回復戦略を実施した。具体的には「マイスターバックスアイデア・ドットコム」というWebサイトを立ち上げ、商品・サービスについて、単にアンケートを取るのではなく、社内から50人のスタッフを集めて1週間に8時間ずつ、“顧客との対話”に対応したのだという。
この結果、「もっと砂糖をたくさん入れやすくしてほしい」「店舗にもっと店員を増やせないか」など、約2カ月で4万1000件のアイデアが寄せられ、顧客との関係構築に成功。ツイッターやフェイスブックでも「利用者との対話」に時間を費やしたほか、「フェイスブックと協力してスターバックスの公式ページを作成」、「フェイスブック内での広告に広告費を投下」して、「ログインした人が最初に見る広告のいくつかのうちの一つが確実にスターバックスの広告になるようにした」。
この他、フェイスブック上でスターバックスカードを管理できる「スターバックスカード・アプリなどさまざまな“仕掛け”を実施したところ、「フェイスブック、ツイッター、ユーチューブの3つのメディアでの影響力」が最も大きい企業になったのだという。
これは本書に収められた多数の事例のほんの一部に過ぎない。だが、あらゆるケーススタディに共通しているのは、アプローチこそ違えど、「サービスにい続けてもらう」ことと「繰り返し」という2つのキーワードだ。特に注目すべきは、自社のサービスに対する「アクティブ率」を高める上では、報酬や罰を理由に動機付けられる「外発的同動機付け」と、自ら活動それ自体に楽しさなどを見出し動機付けられる「内発的動機付け」をどう扱うかが取り組みの効果を左右するといった考察だ。
この点について、著者は「ゲーミフィケーションとは、外発的動機付けとの境界線的な要素(報酬)を求めるうちに、内発的動機付けを駆動させるようなメカニズム」と解説する。これはまさしく、顧客との継続的な関係作りを通じてエンゲージメントを醸成し、顧客自らファンになってもらうための取り組みと言い換えることもできるのではないだろうか。
米ガートナーによると「2015年までに、イノベーションを司る組織の半数以上が、そのプロセスにゲーム的な要素を取り入れ、2014年までに、グローバル企業2000社のうち70%以上がマーケティングと顧客の維持のため、少なくとも一つ以上のゲーム化されたアプリケーションを持つことになる」という。これまで顧客との関係構築では“双方向性”などが重視されてきたが、ゲーミフィケーションという新しいアプローチを掘り下げてみると、貴社のビジネスやシステム企画にも、新たな可能性がもたらされるのではないだろうか。
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