ナイトライダーも示唆する人とシステムのあるべき関係:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(90)
“使ってもらえる”システム、“なくてはならないと認識してもらえる”システムを開発する上で、重要な視点とは何なのだろうか?
スマホは「声」で動かせ!
「『ナイトライダー』という近未来ドラマ。この物語の中で『ナイト2000』という人工知能を備えたクルマが活躍するが、あのクルマのように形は機械だが、本質的に人間を超えた存在として振る舞う」からこそ物語の中で重要なパートナーとなり得たのだ。「ただし、その人間を超えた能力を人間のために使うには、コミュニケーション部分において“人間性”がなければならない。それが『喋る』という行為であり、ソフトコミュニケーションの入り口になるものだと私たちは考える」―― 。
本書「スマホは『声』で動かせ!」は音声認識技術を使ったさまざまな製品を開発・提供しているITベンダ、アドバンスト・メディアの代表取締役会長兼社長の鈴木清幸氏が、音声認識技術を軸とした「ソフトコミュニケーション」の可能性を探った作品である。同氏は「テクノロジーを扱う上でまず必要なことは、その分野で世界最高のテクノロジーにすること。しかし、その素晴らしいテクノロジーが私たちに何をもたらしてくれるのか。それが、誰にでも実感できるようなものでなければビジネスとして成立しないし、マーケットも広がらない」と指摘。
また、「キーボードやマウスのように、人が機械に合わせないと意思が伝達できない『ハードコミュニケーション』の時代から、人が自然に意思を伝えられる『ソフトコミュニケーション』の時代に変革する必要がある」として音声認識技術に着目。なおかつ「人主体」にすることが必要だと考えたという。
氏の考えに基づく“ソフトコミュニケーション”を実現したシステムは、すでにさまざまな分野で使われている。例えば、電子カルテの導入が進んでいる医療分野だ。「電子カルテを使うには、新しいシステムの習熟に加え、キーボードを使う習熟も必要だ」。だが、多忙なゆえに「この『習熟』に時間を割けない医師からは敬遠されるという悪循環に陥ってしまっている」。
そこで同社では、「個人によって異なるアクセントやイントネーション、スピードなどの違いに対応した自然な発話が認識できる」音声認識エンジンを開発。「医療専門用語を標準搭載し、ハンドマイクなどに向かって話すだけで、さまざまな医療記録やデータ入力ができる」環境を実現したという。
コールセンターにも多くの可能性が開けている。例えば、サービスを改善するための貴重な資産であるVOC(Voice Of Customer)=顧客の生の声も、日々の顧客対応に追われ、ただ蓄積するだけで埋もれさせてしまうケースが多い。しかし、これを生かせるかどうかが「コールセンターがコストセンターで終わるのか、利益を生み出すプロフィットセンターになるのかの鍵を握っている」。
そこで同社は「『録音音声』をテキスト化した『ボイスデータ』に変換」する技術を基に、通話記録を喋って入力できる機能や、「『ダメです』や『えーっと』などのNGワードをリアルタイムで監視できる機能」などを開発。ボイスデータを活用しやすい環境を実現したほか、コールセンターに入電した会話を丸ごとテキストデータとして保存することで、「要約・分析・抽出などの通話データの高度な活用も可能に。コールセンター部門に限らず、商品企画・マーケティング・経営幹部の間で注目すべき通話内容を共有」できる環境も実現したという。
注目すべきは、昨今、企業導入が進んでいるモバイルへの活用だ。例えば「喋るだけでメールが入力できる」機能も開発した。もちろん「極端な早口でなければ、いつも自分が携帯電話で話すのと同じような速度で問題ない」。また、モバイルには「情報漏えいなどの心配も付きまとう」が、この問題には「1人1人が個別に持っていて、他人には開けることができない鍵『声紋認証機能』が対応する」という。さらに、さまざまな業務用Webアプリケーションを声でコントロール可能とし、使い勝手を高める「音声認識ブラウザ」など、実に多彩な活用法を提示している。
このように見てくると、「Macintoshによる画期的なGUIやマウス操作を人々に提示して、『Reinvent the computer(コンピュータを再発明する)』と」叫んだスティーブ・ジョブズ氏の例が想起される。著者自身も、ジョブズ氏が後年、iPhoneなどでUIを変革した例などを挙げ、「音声認識というテクノロジーを“再発明”し、人とコンピューターとのコミュニケーションを人間主動、人間本位に変革」するという「強い想い」が根底にあるのだと力説している。
近年、機能を豊富に搭載した製品・サービスは数多く登場しているが、「最初からマーケットが用意」されているわけではないし、自社開発の場合も最初からユーザーに受け入れ態勢が整っているわけではない。“使ってもらえる”システム、“なくてはならないと認識してもらえる”システムを開発する上で、重要な視点とは何なのか?――そのヒントを数多くつかめるのではないだろうか。
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