手段ばかりを求めていると、結果は出せない:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(102)
変化や競争が激しい今、ビジネスでは「やり方だけ」を求めることなく、 常に現状に疑問を抱き、遊び心を忘れずに取り組むことが大切だ。
ベロシティ思考
「製品、アプリケーション、キャンペーン。毎日色んなものが世に出てきているけど、『それのどこがいいの?』っていうシンプルな質問にすんなり答えられないものってたくさんあるよね」。「例えば、ネットができるディスプレイ付き浴槽を見ても、『これはいい!』なんて思うことはおそらくないと思う」。「単に新しいとか、他とは違うというだけで、それが必ずしもより優れているとか、みんなに気に入られるというわけじゃない。『うちのテクノロジーを使えば、こんなことができる』ということに気を取られすぎて、何が本当に人の心をつかめるのかを見抜くことがかえって難しくなってしまっている」。「重要なのは、まず解決すべき問題点を特定し、あくまでも解決のための補助ツールとしてテクノロジーを使う、ということなんだ」――。
本書「ベロシティ思考」は、ナイキのデジタルスポーツ担当副社長のステファン・オーランダー氏と、世界規模で支持されているクリエイティブエージェンシー AKQA会長のアジャズ・アーメッド氏が、その豊富なビジネスの知見を対談形式でまとめた作品である。変化が速く不確実な環境――“ベロシティ”の時代を生き抜く上では、先を読んで素早く行動に移す「スピード」、向かう方向性を見極める「方向性」、掛け算的に貢献の場を広げていく「加速」、一貫した言動によって、強烈な価値を持つ文化を作り出す「規律」という4つの能力が不可欠だと指摘。「ベロシティを味方につけるための7つの原則」について議論を交わしている。
冒頭はそうした原則の1つ、「そこに人がいることを忘れずに」の一節だ。「デジタルは方法であって、目的ではない。テクノロジーは時に、この真実を分かりにくくしてしまう。だから、アプリケーションやツイートの向こうに『人』がいることをつい忘れがちである」として、テクノロジを人を幸せにするための手段と考えることの重要性を強調。「価格よりも優れたユーザー体験の方が、購買意思決定により大きな影響をもたらす」「人は、本来の役割・価値をきちんと果たしているものに惹かれる」など、数々の教訓を紹介している。
「大事なのはコンテンツじゃなくて、『ヴァイブ』なんだ」という指摘も興味深い。このヴァイブとは、言葉では表現できない「シグナルやフィーリング」のことだという。そして、人もブランドも、このヴァイブを重視しなければ、成功している製品やブランドに共通して存在する「欲しい」「参加したい」「共感する」「つながりたい」と思わせる要素を担保できないと指摘している。さらに、「今日ITというのは、自分たちの世界にスムーズに顧客を招き入れ、製品やサービスを試し、体験してもらえるようにする技術のことを言う」として、「ITという言葉はむしろ『Intuitive Technology』(直観的なテクノロジー)という意味で使うべきだ」と提言している。
一方、7つの原則の1つ、「最高のジョークも、会議にかけるとダメになる」では、ベロシティに対応できる意思決定プロセスを構築するための数々のポイントを紹介。「チームで意見を一致させることと、正しい決断を下すことは全く別もの。集団志向はいったん脇へ」「直観力は『優れた分析』を補完するものだ。クイズに回答するだけならマシンの方が優れている」「もし企業が魂を持つことができるなら、社員の価値観がまさに企業の魂になる」など、数々の教訓を散りばめている。
さて、いかがだろう。一般に、マネジメントを説いた書籍は教科書的な色彩の作品が多いものだが、本書の場合、それらと同じことを語っていながら、実にエモーショナルな印象が強い。これは対談形式でまとめられていることもあろうが、ノウハウや手段、利益やコストといったものではなく、あくまで「人」や「人の心」を中心に、ビジネスの在り方を考えているためではないだろうか。「収益をあげるためにサービスを作り出しているのではありません。より良いサービスを作り出すために収益をあげているのです」というフェイスブックの創業者、マーク・ザッカーバーグ氏の言葉を紹介している点も印象深い。
変化が激しく、あらゆるリスクも渦巻いている近年、企業も個人も「何をどうすればいいのか」というノウハウばかりを求めてしまいがちなものだ。しかし当然ながら、「常に革新的で、一歩先を行くための方程式はない」。特別寄稿をしているAKQA チーフクリエイティブオフィサーのレイ・イナモト氏も指摘しているように、革新的であり続けるためには、「やり方だけ」を求めることなく、「現状に対して疑問を抱き、そして遊び心を」忘れずに、想像力を働かせることが大切ということなのだろう。300ページを超える書籍だが、ほぼ全ページで“響く一言”に出会えるはずだ。仕事の合間に眺めるだけでも、想像力ややる気が刺激されるのではないだろうか。
- 人はなぜ不正を働くのか?
- なぜIKEAは世界中で支持されるのか
- 今こそ「メディア」を考える
- 部下を信じ、尊敬する
- ご機嫌取りになれ
- “暗い未来”に漫然と向かわないために
- 1つの行動が社会を変革する
- あなたには確固たる「ミッション」があるか?
- 「会社に行きたくない」人ほど会社に依存している
- 失敗の2大パターンは“精神論とお役所仕事”
- コミュニケーションは、ツールではなく人が行うもの
- 社員が疲弊している会社は、経営層とITに問題あり
- ロジカルシンキングで成果が出ない訳
- 手段ばかりを求めていると、結果は出せない
- 「技術へのこだわり」という日本企業の根深い病
- 日本軍とまったく同じ、日本企業の“敗戦理由”
- “技術だけ”では、開発プロジェクトは失敗する
- 断捨離で、業務とシステムはもっと快適になる
- 仕事でモメたくない人のための教科書
- その油断と慢心が“炎上”を招く
- 本当は怖いフェイスブック
- 組織も自分もダメにする「自分大好き」という病
- 災害対策、コスト削減、システム改善は全て同じ問題
- あなたなら、自社システムをどう攻撃する?
- “想定外”から1年、見て見ぬふりはしていませんか?
- ナイトライダーも示唆する人とシステムのあるべき関係
- アップルが成功し、ソニーが失敗した理由
- 貴社のビジネス、ITシステムに“マインド”はあるか?
- 何のために働くのか? その回答はシンプルそのものだ
- 事故を起こす企業の特徴は、「責任者が不明」
- スマホ導入は、セキュリティポリシー設定がキモ
- 失敗は、「簡単なこと」「当たり前のこと」で起こる
- ITがどれほど進展しても、経営の基本は変わらない
- コピペやお絵かきが得意な人は“中毒”の疑いあり
- 情報は、人間関係があって初めて有効に活用できる
- “顧客”や“ユーザー”との関係作りを見直そう
- システム導入・浸透のポイントは“楽しさ”にあり
- “当たり前”を覆すチャンスはまだまだ埋まっている
- ソーシャルメディア・リテラシが収益を左右する
- 技術者はアーティストであり、製造業者ではない
- 分析するのは「ツール」ではなく「人」である
- ブランドは、消耗品である
- 当然のことを当然にこなすための指南書
- リスクを知っていてこそ、スマホは使いこなせる
- 個人でも企業でも、“ナンパ野郎”はウザいだけ
- 「見える化」だけでは、ビジネスは進まない
- 2ちゃん、ニコ動、外務省。次の標的は貴社のサイト!?
- あなたの会社は「突然死」の危機にさらされている
- BCPは、業務部門と情シスが連携して初めて成功する
- 仕事や人生、そして復興にも、秘策はない
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