1つの行動が社会を変革する:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(109)
世の中を変えるための1つの行動の表れが「社会運動」である。社会構造の変化を踏まえ、戦後日本の運動の変遷をひもとく。
社会を変えるには
エジプト革命をはじめ、アラブ世界で発生した大規模な反政府デモや抗議活動(通称:アラブの春)、米国・ニューヨークのウォール街で起きた経済界や政界に対する一連の抗議運動など、今や先進国、後進国を問わず、世界各地で社会運動が頻発している。
日本においても、東日本大震災による福島第1原発事故以降、原発反対に対する機運が高まり、2012年6月末には脱原発を求める市民らが首相官邸に詰め掛けた。デモ参加者は警視庁調べで約1万7000人、主催者は約20万人と発表している。
本書はこのような社会運動をテーマにした1冊で、戦後日本における社会運動の歴史的変遷や、民主主義の概念などを平易な言葉で書きつづられている。著者はナショナリズム研究や近代史研究を中心に活動する社会学者。著書「<民主>と<愛国>」では大佛次郎論壇賞を受賞するなど、同学術分野を代表する気鋭の研究者の一人といえよう。著者も実際に社会運動の経験があり、1980年代の反核・反原発、2003年のイラク反戦、2007年のプレカリアート運動などのデモに参加している。そうした中で、東日本大震災の直後、2011年4月に東京・高円寺で行われたデモは状況が状況だけにこれまでのデモと比べて深く印象に残り、「大きな開放感と活力があった」と述べている。
著者によると、戦後日本の社会運動には3つの特徴があったという。1つは、強烈な「絶対平和志向」である。すべての戦争を否定する絶対平和主義が戦後日本ほど勢力を持った国はなく、それは第二次世界大戦の悲惨な経験からきている。2つ目は、「マルクス主義」の影響が強かったことである。同じマルクス主義でも労働政党が議席を獲得して福祉社会を目指すという社会民主主義ではなく、少数精鋭の前衛党を組織して革命で政権をとるというレーニン主義の影響が強いものがあった。これは1950年代くらいまでの日本が開発独裁型の発展途上国に近かったことの影響だとしている。最後の1つは、「倫理主義」の強さである。
過去の社会運動をひもとくと、1960年代ごろには参加者の倫理観が強まっていることが分かる。特に学生運動は倫理主義の傾向が強い。安保闘争や全共闘において、自分は知識人だ、学生だ、特権階級だ、だから特権や私生活を捨てて労働者に奉仕しなければならないという考え方が浸透していたという。ただし現在は、発展途上国の社会構造が変わり、ポスト工業化社会への移行が進み、誰もが被害者になり得る「リスク社会」になったため、倫理主義を前面に見ることは少ないという。例えば、放射能の被害は階級や国籍を問わず、自分は特権層だからかわいそうな誰かのために運動をするという感覚は成立しなくなっているのである。
社会を変えることというのは、所属している「われわれ」によって違う。逆に、現代では「われわれ」がバラバラになって乱立しているので、これを変えれば社会が変わるというのが見つからないのが現状である。
しかし一方で、現代の誰しもが共有する問題意識がある。それは「誰もが自由になってきた」「自分はないがしろにされている」という感覚で、首相だろうと高級官僚だろうと非正規雇用労働者だろうと恐らく共有されるものだという。自分はないがしろにされているという感覚を足場に、行動を起こし、対話と参加をうながし、社会構造を変えることが重要だと著者は述べる。その意味では、現代日本における原発はかっこうのテーマだといえよう。
そもそも社会運動とは何か。実は日本で社会運動という言葉が定着したのは、高度経済成長期のころからだという。言葉そのものは明治時代から存在したが、「学生運動」「労働運動」「政治運動」などが一般的だった。その理由として、1つは1960年代以前の運動は、共産党や社会党の影響力が強いものが多かったこと、もう1つは、以前の運動は担い手の社会層が決まっていたため、その層の名前を付して学生運動や農民運動などと呼んでいた。ところが、1960年代半ばから社会層に特定されない自由な人々が増え、政党の指導力が落ち、地域に限定されない広がりを持つ運動が登場してきた。都心に限られる場合は市民運動と呼んでいたが、より包括性の高い社会運動の方が総称するには便利なので、次第に定着していったという。
さて、世の中を変えるには社会運動に参加するしかないのか。著者によると、行動とはデモだけに限らず、例えば、政府の発表以外の情報を集めたり、放射線量を計測したり、自治体や学校に苦情を言ったり、ネットに書き込みをしたりとさまざまだ。そういう行動を経験した人は、ほかの問題についても自律的な行動ができるという自信を持ち、それが積み重なって社会を変えていくことにつながっていくのだという。
本書は社会運動を推奨するものではなく、社会を変えるための「教科書」でもない。思考や討論のたたき台となる「テキストブック」だと著者は表現する。本書を読むことで、さまざまな視点から現代社会のうねりを分析するための一助となるであろう。
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