ご機嫌取りになれ:情報マネージャとSEのための「今週の1冊」(111)
アーティストをはじめ専門職の中には、社会との関係性などは考える必要もなく、自分の主張を押し通していけると考えがちな人がいるが、それはまったくの誤解だという。
創造力なき日本 ―アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」―
本書は、現代美術家・村上隆が日本のクリエイティブシーンの行く末を憂い、自らが代表を務めるアートの複合企業「カイカイキキ」での取り組みなどを交えて、日本社会の問題点と、今後どうしていくべきかを示したものである。実はクリエイティブ業界に限らず、さまざまな産業に通ずる指摘を見ることができるのが特徴である。
カイカイキキでは、師弟制度を重んじるとともに、新しく入ってきた人に対し「アーティストは、社会のヒエラルキーの中では最下層に位置する存在である。その自覚がなければ、この世界ではやっていけない」と語る。すると、やって来るアーティスト志向の人間の多くは「自分は将来、世界に認められるような人間だ。それなのにこんなところで雑用みたいなことをさせられていて、怒られているのは馬鹿らしい」と考えるそうだ。
そうした振る舞いについて、著者は一刀両断する。
「例えば、顧客との関係性において、アーティストは常に“下からお伺いを立てる立場”にある。いつか自分の作品が分かってもらえる日が来ればいいと夢想しても、その日が来ることはほぼないだろう」
アート業界では、社会との関係性などは考える必要もない、自分の主張をどこまでも押し通していけると考えがちだが、それはまったくの誤解だ。相手に理解してもらうには、ただただ歩み寄ることが大切で、いつか世間に見直してもらえるといった考えを捨てることこそが成功するための仕事術の第一歩だと説く。そのために必要なことが「ご機嫌取り」だという。
「ご機嫌を取る」とは言葉のイメージが悪いかもしれないが、作品を制作する上で相手の反応を考えるのは当然であり、それがすなわち「ご機嫌を取ること」だとも言える。その行為の一歩手前に、人と会えば挨拶をするといった社会のルールがあるはずなので、人のご機嫌を取らないということは社会で生きていくための最低限の適性もないことにほかならない。
昨今、一般のビジネスパーソンでも、クライアントや上司のご機嫌を取ることをしない人たちが増えており、芸術の世界においてはなおさら人のご機嫌を取る必要などないと認識されていることを著者は批判する。
「それでは“生きていく場”が得られるはずはない。相手の感情を顧みず、自分の欲望に忠実すぎる人たちが増えている。そんな姿勢で仕事に臨んでいる限り、目の前の仕事に真剣に向かい合っているとは言えない」
芸術家やアーティストに限らず、専門性の高い仕事であるが故に、得てして「自分は偉いんだ」と錯覚し、独りよがりになってしまう人も決して少なくない。そうした“特殊環境”で育った人たちこそ、社会のルールに順応することが肝要なのだとする。
なお、本書巻末にはドワンゴの川上量生会長との対談も収録。インターネットコンテンツと現代芸術に共通する“クリエイティビティ”などについて意見を交わしている。
- 人はなぜ不正を働くのか?
- なぜIKEAは世界中で支持されるのか
- 今こそ「メディア」を考える
- 部下を信じ、尊敬する
- ご機嫌取りになれ
- “暗い未来”に漫然と向かわないために
- 1つの行動が社会を変革する
- あなたには確固たる「ミッション」があるか?
- 「会社に行きたくない」人ほど会社に依存している
- 失敗の2大パターンは“精神論とお役所仕事”
- コミュニケーションは、ツールではなく人が行うもの
- 社員が疲弊している会社は、経営層とITに問題あり
- ロジカルシンキングで成果が出ない訳
- 手段ばかりを求めていると、結果は出せない
- 「技術へのこだわり」という日本企業の根深い病
- 日本軍とまったく同じ、日本企業の“敗戦理由”
- “技術だけ”では、開発プロジェクトは失敗する
- 断捨離で、業務とシステムはもっと快適になる
- 仕事でモメたくない人のための教科書
- その油断と慢心が“炎上”を招く
- 本当は怖いフェイスブック
- 組織も自分もダメにする「自分大好き」という病
- 災害対策、コスト削減、システム改善は全て同じ問題
- あなたなら、自社システムをどう攻撃する?
- “想定外”から1年、見て見ぬふりはしていませんか?
- ナイトライダーも示唆する人とシステムのあるべき関係
- アップルが成功し、ソニーが失敗した理由
- 貴社のビジネス、ITシステムに“マインド”はあるか?
- 何のために働くのか? その回答はシンプルそのものだ
- 事故を起こす企業の特徴は、「責任者が不明」
- スマホ導入は、セキュリティポリシー設定がキモ
- 失敗は、「簡単なこと」「当たり前のこと」で起こる
- ITがどれほど進展しても、経営の基本は変わらない
- コピペやお絵かきが得意な人は“中毒”の疑いあり
- 情報は、人間関係があって初めて有効に活用できる
- “顧客”や“ユーザー”との関係作りを見直そう
- システム導入・浸透のポイントは“楽しさ”にあり
- “当たり前”を覆すチャンスはまだまだ埋まっている
- ソーシャルメディア・リテラシが収益を左右する
- 技術者はアーティストであり、製造業者ではない
- 分析するのは「ツール」ではなく「人」である
- ブランドは、消耗品である
- 当然のことを当然にこなすための指南書
- リスクを知っていてこそ、スマホは使いこなせる
- 個人でも企業でも、“ナンパ野郎”はウザいだけ
- 「見える化」だけでは、ビジネスは進まない
- 2ちゃん、ニコ動、外務省。次の標的は貴社のサイト!?
- あなたの会社は「突然死」の危機にさらされている
- BCPは、業務部門と情シスが連携して初めて成功する
- 仕事や人生、そして復興にも、秘策はない
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