ネットに集った戦争への思いが本に
時の指導者の発言と呼応したドキュメント詩集
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繰り返される戦争報道に胸を痛めた日々があった。だれだって戦争は嫌だ。だからといって、デモや反戦集会に参加するのは何か違う気がするし、第一そんな時間はない。でも、何か言わずにはいられない……。
そんな大勢の人の平和への祈りを一行詩という形で集めたサイトが「千人祈」だ。発起人の1人、みやもと春九堂氏が「主宰者の色さえ付けたくなかった」と言う白背景のシンプルなページに掲示板が1つ。イラク戦争終結宣言までの40日間に集まった「言葉」は5000を超えた。
サイトの知名度が高まるにつれ、言葉だけでなく批判、誹謗中傷も増えたという。
「反戦運動と言われると、僕らは違和感があります。言葉を寄せてくれたのは、特定の色に染まった反戦運動はしたくない、でも思うところはある人、と僕は感じています。あの当時、ネットの中には戦争に対する発言や議論がたくさんあったけど、議論の前に人が死んでいく現実がある。戦争が嫌だと思うなら、あなたの言葉をください、ということなんです」(みやもと氏)
詩というより個人的な独白に近いものも少なくない。が、特定の色に染まらないからこそ、また、あえて詩という形式にこだわらなかったからこそ、多くの言葉が集まったのだと、3人の発起人は口を揃える。
テレビでブッシュ大統領の発言が放映されると、即座に関連した言葉が書き込まれる。投稿日時が必ず付随するネットの言葉は、それ自体が記録であると気づいた彼らは、書籍化にあたって「ドキュメント詩集」という方針を立てた。単に言葉を集めるのではなく、時の指導者たちの発言と、寄せられた言葉を時系列で対比させたのだ。書籍化は「預かった言葉で何かしたい、という思いの1つの結果」(みやもと氏)だが、歴史は作り替えられる、だからこそ紙媒体で残すことに意味がある、と彼らは言う。
「投稿を見ていると、この2か月の日本はある意味アメリカよりも自由な発言が可能だったんじゃないかと思うんです。ネットの世界ではこんなに批判する自由があるんだということを、ネットをやっていない人たちにもぜひ伝えたいですね」と大嶋氏。
書籍化という、集まった言葉たちにとっておそらく最も幸福な結末を選んで「千人祈」プロジェクトは解散する。戦争が遠い昔の記憶になっても、確かに存在した人々の平和への祈りは、永久に残るはずだ。
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