“画づくり”の概念を覆したICC、「ICC PURIOS」でいつもの映像はどう変わる?本田雅一の視点(2/2 ページ)

» 2013年03月15日 10時00分 公開
[本田雅一,PR/ITmedia]
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 画面全体が均一な質感で、明暗のリニアリティもきちんと正しく取れている……というのは、スペック上の話でいえば当たり前のことなのだが、実際には製品にはばらつきが付きもので、ターゲットとする性能はあっても、それを100%発揮させることは難しい。


 今回、とくに感心したのが暗部の表現力だ。公式なパネルコントラストは公開されていないが、“黒浮き”が問題で表現力を損ねることはまずない。では、単に黒を沈めるためにバックライトを制御しているのか? というと、これも正解ではない。白側、すなわち高輝度領域の明るさも充分以上で、要はパネルそのものの実力が高いのだろう。

 シャープの液晶技術は、基本的にはVA(垂直配向)方式で、毎年改良は加えられてきたものの、黒に落ちる直前のリニアリティを少し苦手としている。シャープ製のテレビは、真っ黒こそ真っ黒で描写するものの、少し情報がある部分は少し明るさを持ち上げて表示していた。その方が結果的に良い画質が得られるためだ。

 しかし、ICC PURIOSに関しては映像入力部の信号処理から、正しい階調にするための事前処理を行いパネルに書き込むまでの間、階調情報にかかわる回路ブロックでビット落ちがしないよう配慮し、さらにリニアに階調が立ち上がるようにファインチューンが施されているとのことだ。加えて200を超える背面LEDバックライトは、ローカルディミングこそ行っていないが、明るさを1個ずつ個別に、徹底的にチューニングしており、ホワイトバランスも従来機の10倍以上の緻密(ちみつ)な調整を実施しているという。明暗のリニアリティに加え、面全体で均質な表現力を持つ高コントラストの液晶パネルの実力が、あまりに高いことに驚かされた。

 ユニフォミティーも大変に素晴らしい。第一印象で、これほど”違和感”を抱かないクオリティーを持っている製品は、液晶テレビとしてはICC PURIOSが初かもしれない。まるでマスターモニターを見ているような”安心感”だ。

 これまでICCという技術の優秀性ばかりに目が向いていたが、それと組み合わせるパネル性能と、組み上げた際にベストな状態が得られるように品質管理を行う。これらを徹底することで、キャンバスたる液晶パネルそのものの質を高めることに成功した。このキャンバス……すなわち、生産管理、品質管理が“組み上がり”の状態で行き届いていること、そしてバックライト制御を使わず、素のコントラストを生かした画作りを行っていることが、ICC PURIOSの画質を支える基盤になっているのだ。

ICCの“使いこなし”で映画の品質も追求

 ICCという技術の大元を辿ると、その基準となる映像ソースはハイビジョンカメラにあることが分かる。ハイビジョンカメラが捉えた映像に”クリエイション”を行い、網膜が感じる最大限の情報を表現できる60インチの4K液晶パネルをキャンバスとして描く。そこで求められてきたのは、ひたすらに見えないところ、表現できない質感までを徹底して再現してみせることだった。

 しかし、映画(もちろん内容や撮影方法にもよる)の場合、どこまでもよく”見えてしまう”ICCの特長に違和感を感じる方もいるかもしれない。映画の中には、被写界深度と動きボケを演出として利用し、雑踏の中で主人公を目立たせる……といった表現を行う場合もあるからだ。

 そこでシャープはICCの使いこなし例として、「映画」モード、「映画 THX」モードの2つを用意している。いずれもICCを通した映像だが、アイキューブド研究所の意図した画質設定の「ICC」モードとは異なる。映画向きとシャープが考える設定、映画制作スタジオでもあるTHXが認めた「映像クリエイターが保証する正しい表示」とする設定だ。前者はシャープのエンジニアが、後者はTHX自身が決めた基準で作り込み、追い込みが行われたという。

 ポイントは“ICCをどこまで使うか”。4Kテレビでは、パネル解像度を生かすため、フルHD映像の精細感をいかに上げるかが課題だ。しかしICC PURIOSでは、ICCをいわば“デチューン”して映像モードを作っている。ある意味で象徴的な出来事といえるかもしれない。

映像モードは7種類。映画用のモードは「映画」と「映画 THX」がある。ICCの効き方は、”解像感”と”コアリング”という2つのパラメータで調節できる

 モード標準の設定も総じて出来は良いが、ユーザーは”解像感”と”コアリング”という2つのパラメータを操作することで、より好みの画質に調整できる。具体的には、「解像感」の設定を変えていくと、ICCを通すことによるディテール(質感)が変化する。より高い解像感設定にすることで、輪郭補正とは異なる各素材の”彫りの深さ”が変化するのである。

 もう1つのコアリングは、なかなか表現が難しい。これはフォーカス感(どこにピントが合っているか、どこまでの範囲でピントが合って見えるか)を調整するもので、コアリング値を大きくするほど、その効果は薄れていく。

AVポジションはリモコンで簡単に切り替わる

 「映画 THX」モード(THX 4K Display Certificationの認証を取得)は、THXで指定された特性を出せれば充分のため、コアリングは緩くなるよう設定されている。しかし映画モードは、もっとアグレッシブにICCを用いていた。精細感は高めに、コアリング設定は低め(効果は高め)に設定されており、色温度の若干の違いもあって、まるで別のテレビで見ているようだったが、いずれもよく調教されている。「ICCは映画が不得手ではないか?」という噂を一笑に付して、さらにどこかに吹き飛ばしてしまうぐらいの良さだ。

 筆者の好みでいうと、色温度は「D65」、コアリング、解像感ともに映画と映画THXの間にパラメータを動かした時の質感表現が良いと思ったが、見る環境や見る映像によっても違うと思うので、使う機会があればいろいろと設定を変更してみるといいだろう。

 4Kカメラで撮影された欧州映画「Eclipse」(日本未発売)は、高画質でディテール表現を確かめるにはピッタリの作品だが、欧州の石造りの町並み、その質感や石にこびりつくコケや汚れまでが見事に、その質感を表現していた。「オペラ座の怪人」では、平板だったクリスティーヌの顔に丸みが感じられ、「まるで3Dじゃないか」と思うほどの臨場感がある。俳優が着る衣裳の質感もまた、ほかでは見たことのない手の込んだものだった。

 きちんと画質を追い込み、正しい表示を行えるテレビは少数派だが、決してゼロというわけではない。しかし、ICC PURIOSの凄さは、そこにICCが加わることで、単に”測定機上の正しい表示”という領域を越えた高画質を引き出せることだ。ICCモード以外の画質設定はシャープ自身が開発しており、非常に具合良く良さを引き出すことに成功していた。

映像モード ICC効果 概要とおすすめの使い方
ICC I3研究所、近藤哲二郎社長のこだわりが詰まったモード。自然がテーマの映像などを見ると驚くこと請け合い
標準 地上デジタル放送などの視聴に適したモード。ICC効果は映画より強め。人肌の質感など、なにげない部分でリアリティーが向上する
映画 ICCの効果は「標準」より控えめながら、「映画 THX」より強め。映像の各所にリアルな質感を与えている
映画 THX 映像品質の高さを保証するプログラム「THX 4K Display Certification」で400を超える厳格なテスト項目をクリア。映画監督の意図する映像を自宅で忠実に再現できるモード。ICCの効果はかなり控えめ
ゲーム 遅延を抑えたゲーム専用の映像モード、ICC回路はパス
PC PC接続用。HDMIケーブル1本(30pまで)、あるいは4本(60p対応)を使って4K解像度の画面を分割伝送する際にも利用する
フォト デジタル一眼レフカメラなどの高精細画像を4Kパネルで楽しめるモード。業務用マスターモニターを上回る輝度均一性を生かし、写真の実力を確認できる

 ICCによる映像は、確かに素晴らしいものだ。ここで百凡の賛辞を並べても、ICCが出す実際の映像の説得力には到底及ばない。しかし、残念なことに、この超高画質体験ができる場所はまだ少ない。大型家電店なら並べられている場合もあるが、一般的なリビングに近い照明環境で試すことはできないからだ。ただ、もし売り場の照明をコントロールして、正しい環境で「ICC PURIOS」を見る機会に恵まれたら、ジックリと体感してほしい。今、この製品を手に入れることができなくとも“未来”を感じることはできる。

 放送もBlu-ray DiscもフルHDどまり。スカパー!が4K放送の開始を予告し、海外では4Kのインターネット映像配信がスタートするものの、本格的な4K時代にはまだ時間がある。そんな中で、「4K液晶パネルを使えば、どこまでの表現力を持てるのか」を、ICC PURIOSは体感させてくれる。262万5000円(受注生産のみ)という価格設定に驚いた読者も少なくないだろうが、この製品で得られたノウハウは、必ずしも本機で閉じているわけではない。

 なによりも、”これまでより良い製品が生まれる仕組み”が確立されようとしていることに拍手を送りたい。「どうせ普通の液晶テレビにICCを組み込んで、映像処理で高画質に見せているだけ」と思っている方もいるかもしれないが、その認識は正しくない。より良いキャンバスがあるからこそ、画家は腕を振るうことができる。

 シャープによると、ICCが組み込まれない製品に「PURIOS」というブランド名は付けないという。しかし、ピュアなキャンバスの質を高めた上で、さらに映像処理の追い込みをすることで高画質を追求していくプロセスを経験し、これだけの画質を実現したことは、シャープにとって大きなプラスになったはず。次の世代、また次の世代とベースになる液晶パネルの性能が上がっていくことで、ICCを生かせる製品が増えていくことだろう。ICC PURIOSは、液晶テレビを評価する上での、1つの大きな基準となり始めた。

4Kモニターとしての利用価値も高い「ICC PURIOS」

 4K対応機器は増えたが、4Kネイティブの外部入力端子を備えている表示機器はまだ多くない。そもそも現在のHDMI 1.4では、4Kは30p(30フレーム/秒)までしか規定されておらず、静止画の表示や24pの映画はともかく、スポーツなどの4Kコンテンツが登場した場合には不足してしまう。

 ICC PURIOSは、通常のHDMI入力4系統(フルHD)に加え、4K/30p対応のHDMI入力を1系統1端子、そして4K(3840×2160ピクセル)/60p入力対応の1系統4端子を用意した。1系統4端子とはつまり、4本のHDMIケーブルを使って1つの4K映像を分割伝送するもの。4K/60p出力を持つ民生機器はまだないが、PCではグラフィックボード次第で対応できるため、フルHDの4倍という情報量で美麗なグラフィックを表示できるゲームも存在するのだ。

 デジタル一眼レフカメラの写真をチェックしたり、PCゲームをぜいたくに楽しみたいケースにもICC PURIOSは対応できる。もちろん、衛星放送やネット配信で4Kコンテンツが登場しても4K入力を持っていれば問題はない。まさに4K時代を先取りしたテレビといえるだろう。


製品名 ICC PURIOS(アイシーシー ピュリオス)
型番 LC-60HQ10
画面サイズ 60V型ワイド
画素数 3840×2160ピクセル
チューナー 地上デジタル×3、BS/110度CSデジタル×2
録画機能 ○(USB外付けHDDへの2番組同時録画に対応)
ネットワーク機能 ○(IEEE 802.11a/b/g/n対応無線LAN内蔵、AQUOS City対応、DLNAプレーヤーなど)
HDMI入力 4系統4端子(フルHD入力)、1系統1端子(3840×2160/30p)、1系統4端子(3840×2160/60p入力)
そのほか入出力端子 アナログRCA(映像、音声)、光デジタル音声出力、ヘッドフォン端子、USB端子(写真/音楽/動画)2系統、USB端子(録画用)1系統
年間消費電力 395kWh/年
外形寸法 1378(幅)×885(高さ)×336(奥行き)ミリ(付属スタンド込み)
重量 43.5キログラム
価格 262万5000円(受注生産)

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提供:シャープ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia LifeStyle 編集部/掲載内容有効期限:2013年3月31日