VAIOに何が起こったか?――type A篇(3/3 ページ)
夏モデルを境に、ソニーのVAIOは第2章に入るという。ではその第2章とは何なのか? 先週行われた発表会「VAIO DAY 1」では、多くのプレス関係者が、その真の意味を理解すべく頭をひねらせていた。そこで筆者も筆者なりに「VAIOに何が起こっているのか」を解き明かしてみよう。
ハイエンドのほうでは、さらにその上の「S-Master PRO」というのがあるため、type Aに搭載されたのは同じデジタルアンプでも普及価格帯クラスのものということになるが、それでもいっぱしのオーディオ機器と同じアンプがPCに搭載された意義は大きい。
この流れは、以前からSonicStage Mastering Studio(以下SSMS)をプロデュースし、PCによるオーディオの復権を訴えていた、ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニーの宮崎琢磨氏(関連記事)らの活動が、ソフトウェアだけではなく、ついにハードウェアをも動かす大きな動きになってきたことを示している。
本体とデザインを合わせたスピーカーも、ユニークな製品だ。横から見ると三角形をしており、体積もさほど大きくない。スピーカーのエンクロージャとしては、かなり難しい形状である。だがドライブユニット自体からすべて新設計し、その素材に至るまで徹底的にチューニングしたという音は、量販店でPC用として売られているスピーカーのようなつもりで聞いて欲しくない出来になっている。
ただし聞くときには、左右のスピーカーの距離に気をつけてほしい。量販店などではtype A本体横にピッタリくっつけて設置されると思うが、その程度の距離だとステレオイメージが小さくまとまってしまい、このスピーカー本来の魅力が出ない。左右の間隔を80センチ〜1メートルほど離した状態で聞くべきだ。
もちろんこれだけ小型の特殊形状スピーカーで、まったくクセがないかと言えばウソになる。だがそれを乗り越えられるのが、デジタルの魔法であり、PCのメリットなのである。
今回のVAIOからは、従来SSMSの中でマスタリング用途でしか使えなかったプロ用サウンドフィルターが、システムに常駐するようになっている。もちろんSSMS搭載モデルに限るわけだが……。
そしてこの常駐フィルタを使った、スピーカー特有の癖を矯正したプリセットが存在する。「SONY Oxford Pro Audio Labs Setting 2: Reference Setting」がそれだ。そしてこれこそが専用スピーカーまで同梱するtype Aのミソなのである。
プロの耳で敢えてスピーカー固有のクセを極限まで殺し、補正したサウンドは、コンシューマのリスニング用というよりも、スタジオモニタに近い。今まで派手でカタくて前にバリバリ張り出していくのがいい音だと思っていた人にとっては、拍子抜けすることだろう。良いソースなら良く聞こえるが、ダメなソースはダメなまま聞こえてしまうという、非常にシビアなサウンドシステムとなる。
だがそれも、常駐フィルターの威力であることを忘れてはいけない。そういう音がイヤなら、自分でフィルタリングしてみればいい。渋いオトナのスタジオモニタから、何でもド派手に聞かせるお子ちゃまラジカセサウンドにまで変身できてしまうキャパシティこそが、「PCにオーディオを組み込む」というコンセプトの面白さなのである。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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