「四方一両損」を目指した議論は何故、ねじれたのか:対談:小寺信良×椎名和夫(2)(4/4 ページ)
津田大介氏を司会に、小寺信良氏と椎名和夫氏がデジタル放送著作権管理のもつれた糸を解きほぐす対談も第2回。権利者・放送事業者・機器メーカー・消費者がともに利益と痛みを背負う「四方一両損」を目指したはずの議論はなぜ、ねじれたのか。
――うわ、確かにそれは身も蓋もない(笑)
小寺氏: 僕は「アナログ停波反対」って言ってますけどね(笑)
椎名氏: まぁ、表立っては言わないですけど、こんな面倒な議論重ねるくらいなら、アナログ放送残した方がいいんじゃないか? って考えてる権利者の人も少なからずいますよ。ただ、それと委員会の議論はやっぱり別ですからね。
――椎名さんのお話を伺ってると、「そういう委員会って大変なんだなぁ」と、他人事っぽく言ってしまいますが(笑)、真面目な話として、それでもまだ僕はEPNじゃなくてCOGじゃないとダメだったのかなぁ、という部分がぬぐえないんですよね。
椎名氏: いやあ、EPNは無理ですよ。だいたいJEITAの説明の仕方がずるかったですしね。「CPRMの鍵がかかっているのでコピーフリーではありません」という説明をずっと彼らはしていたんだけど、世の中にはCPRMに対応した機械しかないわけじゃないですか。話をつめていくと「結局コピーフリーじゃん! また騙したのか!」みたいな話になっちゃう。
――うーん、JEITAは嘘はついてない……(苦笑)。レトリックといえばレトリックなんでしょうけど。
椎名氏: JEITAってそういう癖があるんですよ。ある意味すごく官僚的な物言いで煙に巻こうとするところがある。そこはまったく共感の余地がない、すごいんだからホント。
小寺氏: (笑)
――小寺さん、ちょっとJEITAを擁護してくださいよ(笑)
小寺氏: いや、僕もメーカーを擁護するわけじゃないんだけど、「反JEITA」ありきで議論が進むのは、それはそれでやっぱり良くないと思います。
ユーザーがいろいろな目的でコンテンツを利用したいというニーズは今後もなくならないし、これからの利用形態って今の段階では想像できないことも多いと思うんですよ。アメリカとかは事実上EPNになっている状況にあるわけです。その状況下で、今とはまた違う新しいコンテンツの利用形態がアメリカでは出てくると思いますね。
で、そうなったときに日本はそれについて行けなくなりますよね。そうすると日米で大きな「コンテンツ格差」みたいなものが生じるんじゃないかと。それってどうなの? っていう。
どうして、コンテンツの「利用形態」に意識が払われない?
――知財立国とかコンテンツ輸出を増やすとか、そういうお題目は最近盛んに言われてますけど、実は「コンテンツの利用形態が揃ってない」ってことは、著作権の保護期間が欧米と揃ってるとか揃ってないとか以上に問題なんじゃないの? って話はありますよね。
小寺氏: うん。そうそう。
椎名氏: その点について言うとね。日米ってかなりテレビのモデルが違うということは踏まえておいた方がいいんです。端的なのは地上波のシェア。アメリカにおける地上波のシェアは11%しかないんです。大半の人たちはケーブルテレビで有料放送を見ている。米国の地上波って、言葉は悪いですけど要するに貧困層のためのメディアなんですよ。
一方日本では、地上波の依存率は68%と非常に高い。放送事業者さんに言わせると、それはそれなりのキラーコンテンツを地上波が産み出しているからであり、そもそも日米の地上波はコンテンツ自体が違うんだということもあるみたいですね。そのへんの話は、日本の放送事業者の番組調達率をどうするかというところなんかにも関わってくるんだけど、いずれにせよ日米のテレビを単純比較することはできないだろうと。
小寺氏: うん。だから僕も日米で無料放送の影響範囲というかレベルが違うんだという話は分かりますが、じゃあ「映像コンテンツの利用形態」がそういう地上波依存率によって変わってくるのかというと、僕はそれは変わらないと思ってるんです。映像コンテンツ、テレビを見てる側にとっては、それが4大ネットワークであろうが地元ローカル局であろうが関係ないし、もっと言えばそれがネットを通じて来ようが今は関係なくなりつつある状況があるわけで。
椎名氏: そういう話をするときにアメリカもそうなんだけど、韓国もよく引き合いに出されるじゃないですか。ただ、韓国はIP網へ放送番組を流すことについては国策として公的資金が入ってるんですね。例えば番組製作会社を援助したりだとか、外部調達率を上げようとか。インターネットってデフォルトがタダって意識が強いから、そういう世界にはなかなかビジネスモデルが育たない。
でも、そこのはずみをつけるようなことを国がやれば進むという話なんですが、現状の日本は放送局が自分のコンテンツをどう流すかというところで、なかなかニーズを感じ取れないから、ある種、慎重にならざるを得ない。放送局にとっては、ネットに流したりパッケージを発売するよりは、再放送していた方が利益率は高いわけで、そうなるとあまり状況の改善が見られないんですよね。
あともうひとつ重要なことは、例えばNTTであるとか、KDDIであるとか、IP事業者と言われる人たちは、「放送番組が死蔵されてる」とか、「コンテンツの流通を促進すべきだ」とかいってるわりに、自分からリスクを背負う気があまりないように見えるんですよね。
「放送事業者がコンテンツを丸抱えして死蔵している」って非難したり、「実演家の許諾権があってそれが番組を流さなくしてるから、許諾権を奪ってください」とか、そういうおねだりっぽい話を彼らは盛んにするんだけど、だったら彼らが金出してコンテンツを作ればいいわけじゃないですか。あるいは、きちんと予算を持って許諾を得るために商談すればいい。そういうことをしていく中で、正確なネット上のニーズが読めて利益も上がるわけですよ。
放送事業者側も何年か前に放送番組をネットに流す「トレソーラ」という実験をやりましたけど、回線代が高いから、いろいろなバックボーンの費用を定価ベースで放送事業者が負担するとまったく採算が合わないんですよ。だからそこはもう公的資金を入れるなり、キャリアというアドバンテージを持ったIP事業者が、回線代を出血大サービスするとか、そういうリスク負担を彼らが積極的に行うようになればコンテンツはたくさん流れるようになると思うんですけどね。現状は放送事業者も実はかわいそうなんです。まともにネット動画配信ビジネスで利益を上げられない。
小寺氏: でも今はそのかわりにYouTubeがありますよね。
椎名氏: ああ、まぁそれはそうですね。まあ、クオリティの違いはあるけど。
小寺氏: だから、トレソーラ時代の貴重な経験が、動きの遅さ故に、外資のサービスによって吹っ飛んでしまった現状があると。一体ここ数年の苦労は何だったんだという(笑)
(次回に続く)
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