ダビング10の向こうに光は見えるのか:対談:小寺信良×椎名和夫(最終回)(6/6 ページ)
小寺信良氏と椎名和夫氏が津田大介氏を司会に激論を交わす対談も最終回。話題は議論の表舞台に姿を見せない放送局やB-CASまで広がっていく。果たして、ダビング10の向こうに光は見えるのか。
――でもそれは事実じゃないですか。確実に前進はしたわけですから。
小寺氏: これまでの流れの中では、消費者とJEITAの利害関係は一致していて、それらと対権利者という図式があったと思うんですよ。ところが今回の決定によってそれが崩れた。結果的に権利者と消費者の利害が一応丸く一致したという形にはなってるんだけど、本来は、メーカー、消費者、権利者が三権分立的にお互いを牽制し合うような状況が望ましいんじゃないかな。
権力が奇数だからこそ、どちらかに物事が決まるという部分があるわけじゃないですか。そういう意味で今回はその本来的な三権分立が正しく機能した初めての事例かなとは思います。出た結論はともかく、形としては僕は今回の議論は評価すべきだと思います。
椎名氏: そう言っていただけると、もう本当に本望。
小寺氏: ただ、それを担保にして「補償金がありき」というロジックを椎名さんが主張するのは良くないと思います。見え方として、消費者に対して「今回消費者の味方したから、今度は俺の言い分も聞け」みたいに映っちゃう。
椎名氏: ほめられて落とされた(笑)。コピーワンスは本当に緩和する必要があると思ったからそう動いただけですよ。ただその落としどころに色々な権利者が合意するためには、補償金制度の存在が役に立ったってこと。もしそれがなくなるなら、合意もなくなってしまうのは仕方ないことですよ。
小寺氏: コピーナインと補償金はそれぞれ別のフェイズにあって、そこを混同して議論しちゃいけないと思いますね。委員会の議論を見ていて、椎名さんがあそこの場に出ていく気持ちは理解できますけど、観察的事実からすると、あの発表のタイミングであの主張をするには、もう明らかにその人質に取ったと見られても仕方がないでしょう。
椎名氏: うーん、決して別なフェイズじゃないと思いますよ。たしかにJEITAのオフィサーたちからみれば人質にとられたってことになるのかもしれないけど、使い勝手と権利保護との間合いの話で言えば、たしかに補償金があるから緩和ができたってこと。これは中間答申にも書かれている事実なんです。
「メーカーの経営レベルの人やユーザーの人たちによく考えてもらいたい」
椎名氏: 補償金がロジカルじゃないって話が出ましたけど、僕は、ユーザー、メーカー、権利者どの立場にとっても、これほどリーズナブルでロジカルな制度はないと思ってます。あくどい権利者団体があいまいなことやってるっていう、ありがちな先入観だけでこの問題をジャッジしちゃうと、みんなにとってかけがえのない物を失っちゃうような気がする。なんでいま、メーカーと権利者がなんでここまで噛み合いをしなければならないのか?これってこの国の将来にとっていいことなのか?そこいらをね、申し訳ないけどJEITAさんには通じそうもないからさ、むしろメーカーの経営レベルの人とか、ユーザーの人たちに、ホントによく考えてもらいたいんですよ。
小寺氏: でも補償金とDRMのバランス関係ってまだ明確な結論が出ていないですよね。
――あぁ、なんか議論がまたループに……。その話を始めるといつまで経ってもこの議論が終わらないような気がします(笑)。そういう部分も含めて今回デジコン委員会で出た結論が、既成事実として固定させちゃうのは良くないですよね。せっかく良い形になってきた三権分立的構造をうまく機能させるためにも、三者間の協議をこれからも継続的に進めていって全部がお互いにきちんとある程度納得するような良い方向に持って行かなきゃいけないということですよね。椎名さん、小寺さん、今日は長時間お疲れさまでした。
椎名氏・小寺氏: ありがとうございました。
椎名氏: めし、めしいこうよ。
小寺氏: そうですね。
――対談自体もヘビーでしたけれど、これをこれから記事にまとめることを考えると地獄ですね。やれやれ……。
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