7つの疑問――権利者団体、JEITAへ公開質問状
音楽や映像、実演などに関する87の権利者団体が、録音録画補償金の見直しを主張するJEITAへ公開質問状を送付した。7項目を質問し、回答を求める。
音楽や映像、実演に関する権利者団体で組織される「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」ならびに日本芸能実演家団体協議会加盟の87団体は11月9日、デジタル放送のコピーワンスの緩和に際し、私的録音録画制度の廃止を主張するJEITA(電子技術産業協会)へ公開質問状を送付すると発表。改めて、コピーワンスの緩和には私的録音録画制度の維持が不可欠だと主張した。
JEITAは10月16日付けの「私的録音録画問題に関する当協会の見解」と題したニュースリリースにて、「補償の必要性に関する疑問が尽くされていない」「制度維持、対象機器拡大を前提としたような議論は問題」「技術的にコピー制御されているデジタルコンテンツの複製は著作権者などに重大な経済的損失を与えるとは言えず、補償の対象とする必要はない」とし、デジタル録画機器を補償金制度の対象とすることに合理性はないと主張している(→「録音録画補償金、抜本的な見直しを」とJEITA」)。
そうしたJEITA側の主張に対して、権利者団体は7項目に及ぶ質問状を送付する。
(1)第4次中間答申を見る限り、コピーワンス緩和の前提条件として「クリエーターへの対価の還元が措置される」ことについてはJEITAも合意しているはずだが、私的領域で行われる録画について、クリエーターへ対価を還元する制度は私的録音録画制度以外に存在しない。私的録音録画制度の否定はコピーワンス緩和に関する合意を破棄するものではないのか。
(2)合意が破棄されるのであれば、緩和を待ち望む消費者へどのように説明するのか。
(3)なぜ、中間答申案策定の時点で私的録音録画制度の廃止を主張しなかったのか。また、なぜこのタイミングで主張するのはなぜか。
(4)「コピー制御下で提供されたコンテンツがどのように複製されてしまうか、権利者は予見可能であるので権利者の経済的不利益は存在せず、よって補償は不要」と主張するが、「予見可能であること」と「経済的不利益が発生しない」ことがなぜ結びつくのか。
(5)音楽CDはSCMS(Serial Copy Management System)による保護が施されつつ、私的録音録画制度による補償が行われている。SCMSとダビング10は複製回数の違いこそあるが、同じ1世代コピーである。なぜ、録画だけが「コピー可能回数の大小に拘らず補償の必要がない」と主張する理由はどこにあるのか。
(6)私的録音録画補償金制度は、私的な領域・規模の範囲内で行われる複製に対して補償を行う制度であり、10回という回数は一般消費者によって十分な回数と理解している。10回という範囲内で発生する経済的な不利益について補償が必要ないというならば、どういった複製で発生する不利益が補償対象になるのか?
(7)コンテンツとハードは互恵関係にあるべきだが、録音録画補償金制度についてJEITAは一環にして頑なであり、敵対的である。状況打開のために手を携えることはできないのか?
「映画ビジネスは原盤権のコントロールで成り立っており、そうした意味ではあらゆるコピーを禁じている。例外は地上波放送のコピーで、これはタイムシフト視聴という意義があるためであり、それでも補償金制度は必要。これが究極のバランスだと考えている」(日本映画製作者連盟 華頂氏)
「作曲家であるため、一般のユーザーよりコピーの重要度を理解していると思う。“コピー禁止”には反対するが、コピーだらけでは生活できなくなってしまう。補償金制度は、一番適切な制度だと思っている」(日本音楽作家団体協議会 小六氏)
会見に出席した権利者団体の代表者も、それぞれの立場から補償金制度の必要性を訴える。しかし、施行から10年以上が経過した現制度も見直すべきとの意見も同時に述べられている。「徴収と分配、双方に見直さなければならない点はある。徴収対象は現行制度では少ないし、分配についてもどのように分配対象を特定していくのか考えなおさなければならないだろう」(小六氏)
質問状は12月7日を返答期限とし、本日投かんされる。質問状の全文はJASRACなど一部権利者団体のWebサイトに掲載されるほか、JEITA側からの回答があれば、掲載される見込みだ。
「補償金問題について、JEITAは本当にメーカーの利益を代表しているのだろうか? 言葉は厳しいかも知れないが、意地になっているように思える。(JEITAを構成する)メーカーの経営者がどのように考えているのか、真意を知る動きもしていきたい」(実演家著作隣接権センター 椎名和夫氏)
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