「アプライアンス」――アップルがデジタル家電に強い理由:デジモノ家電を読み解くキーワード
iPod touchにiPhone、Apple TV。Macに加えデジタル家電の分野でもアップルが快進撃を続けている。今回はそれらに共通する「OS」を軸に、同社のアプライアンス戦略を分析してみよう。
アップルの資産「OS X」
かつては業績不振にあえいだアップルだが、いまやデジタル家電の分野において無視できない影響力を持つ。マルチタッチインタフェースと無線LANを搭載した「iPod touch」やテレビを見ながらオンラインストア経由で楽曲の購入を可能にした「Apple TV」など、その品ぞろえは他メーカーに見られないものだ。
一見すると異質なそれらデバイスらには、ひとつの統一基盤がある。Macにも搭載されているシステム「Mac OS X」がそれだ。iPod touchもApple TVも、Mac OS Xをスリム化した「OS X」が採用されている。
デジタル家電でPC用OSを使うことは、最近始まった話ではない。DVDレコーダーやカーナビ、携帯電話でLinux(Linuxベースの組み込みOS)が多く採用されていることは、その好例だろう。アップルが自社製品にOS Xという資産を活用することも、CPUが小型化/高性能化した現在では自然な流れといえる。
アプライアンスに使うOSは「+α」が重要
ここで注目したいのが「アプライアンス」(Appliance)という製品カテゴリ。ここでいうアプライアンスとは、特定用途向けに設計されたコンピュータのことで、かつてはSTBやルータなどを指して使うことが多かった。しかし、OS Xを採用しつつ音楽や動画の再生に特化したiPod touchやApple TVも、アプライアンスの一種だ。
アプライアンスにPC用のOSを使うときは、安定度や処理性能の高さなどOS本来の機能はもちろん、利用頻度の高い機能やインタフェースをセットにしたライブラリの充実度も大きく影響する。携帯電話メーカーが共同でLinuxをベースにしたプラットフォームを設けようというプロジェクト――「LiMo Foundation」や「ACCESS Linux Platform」など――は、プラットフォームの共通化を通じてライブラリの充実度を高めようという動きともいえる。つまり、機能的に洗練され他社にないライブラリを持つ「OS X」を擁するアップルは、他社との差別化という点でかなり有利と考えられる。
OS Xのコモディティ化が進む?
アップルはMacで培った成果をアプライアンスに還元するだけでなく、先にアプライアンスで実現したことをMacに持ち込む“逆輸入”も行っている。先日発売されたMacBook AirとMacBook Proに搭載された「マルチタッチトラックパッド」は、明らかにiPhone/iPod touchで好評を博した「マルチタッチインタフェース」のMac版だ。
もっとも、Macが先かアプライアンスが先か、という議論は意味がない。おそらくアップルは、費用対効果の観点から、その両方で活用できることを想定し技術開発を進めているはず。OS Xのコモディティ化は、今後のアップル製品を語るときのキーワードとなるのではないだろうか。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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