「Cell」――CPUがテレビを変える:デジモノ家電を読み解くキーワード
液晶テレビの新製品が登場すると、これまではパネル性能が注目されていたが、そこに変化が表れた。International CESで市販化が明言された東芝の「Cell TV」を例に、テレビにおけるプロセッサ(CPU)の重要性の変化を見てみよう。
Cellとは
今回のCESで発表された東芝の次世代液晶テレビ(次世代REGZA)、いわゆる「Cell TV」は、高速プロセッサ「Cell」を搭載したことが最大の目玉。Cellは本製品における中央演算装置であり、パソコンにおけるCPUと同等の役割を果たす。単純にいえば、Cellという強力なCPUを搭載することにより演算能力が改善され、画像処理などのパフォーマンスが飛躍的に向上するということだ。
Cellは、東芝とソニー(SCE)、およびIBMが共同で開発したプロセッサ。1基に9つもの中核回路(コア)を搭載したマルチコアCPUで、複数のプログラムを高速に並列処理することを得意とする。9つのコアのうち中心的な役割を担う「PowerPC Processor Element」(PPE)は、かつてAppleのMacintoshシリーズにも搭載されていたPowerPCをベースに設計されている。PLAYSTATION 3のほか、現時点で世界最速のスーパーコンピュータ「Roadrunner」にも採用されている、実績に裏打ちされた高性能CPUだ(スーパーコンピュータTop500、1位はRoadrunner。中国が10位に)。
Cellの採用でなにが変わる?
Cell搭載のいわゆる「Cell TV」は、その高い処理能力を生かした2つの特徴で注目を集めている。
1つは、超解像技術「レゾリューションプラス」の強化。Cell TVにおいても、基本的な方法論は現在のREGZA「ZH7000シリーズ」などと同じ再構成法だが、内部処理のサイクルを現在の1回から3回に増やして精度を上げるためにCellのパワーが使われる。2009年秋に登場するフルHDのCell TVでは超解像を行うLSIを複数搭載し、その制御をCellによって行うことが明らかにされており、ネットワークコンテンツや4K2Kへの超解像の適用についても、Cellの威力は発揮されることになるだろう。4K2Kとは、いわゆるフルHD(1920×1080 2K1K)の縦横2倍(3840×2160)以上の解像度を意味し(4096×2048ピクセルや、デジタルシネマ向け規格の4196×2160を「4K2K」と称する場合もある)、東芝はCell TVに4K2Kパネル搭載製品を用意することを明らかにしている。
もう1つが周辺機能の強化だ。具体的には、LEDバックライトの制御精度向上や、新しいユーザインタフェースの実装がCellの搭載で可能になるとみられている。International CESで同社が展示していた「Spatial Motion Interface」(空間モーションインタフェース)は、パネル上部に設置されたセンサーで前面にいる人間を認識、手の動きを検出することにより、コンテンツの選択や再生/停止、早送り/巻き戻しなどの操作を可能にする。これも、CPUパワーの向上がなせる技といえるだろう。
止まらない高速化の波
このように、テレビにCellが採用された背景には「フルHDの次」がある。単純に高精細化に伴う超解像の処理量増加だけを取りあげても、仮にソースがSD、表示装置が4K2Kならば、情報はSD→HDで6倍、HD→4K2Kで4倍にしなくてはならなくなり、より高い処理速度が要求される。また、LEDバックライトの制御精度向上や、ネットワークコンテンツの高解像度化など、近未来のテレビに求められる機能を実現するにはいずれも高い処理能力が欠かせない。
他社についても事情は同じ。東芝は開発に参加した経緯からCellを採用したが、4K2Kパネルの普及が本格化するまでには、他社も同等以上の演算能力を備えるチップを投入してくるはず。Cellテレビは1つの事例、と言えるだろう。
執筆者プロフィール:海上忍(うなかみ しのぶ)
ITコラムニスト。現役のNEXTSTEP 3.3Jユーザにして大のデジタルガジェット好き。近著には「デジタル家電のしくみとポイント 2」、「改訂版 Mac OS X ターミナルコマンド ポケットリファレンス」(いずれも技術評論社刊)など。
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