こだわりのカメラブランド――リコー「GR DIGITAL III」開発者に聞く:永山昌克インタビュー連載(3/3 ページ)
マニアに人気の高級コンパクトデジカメ「GR DIGITAL」シリーズには、ズーム機構も、手ブレ補正も顔認識もシーン認識もHD動画もない。そんなシンプルでストイックなデジカメの魅力を探ってみよう。
高画素化は進めず。高感度性能を重視
GR DIGITAL IIIでは、画質とスピードも従来機より高めている。画質全般の設計を担当した、同社 PMMC ICS設計室 設計2G シニアスペシャリスト中平寿昭氏は、「CCDの画素数を多くせず従来とほぼ同じ画素数ながら、やや大きなCCDを新採用することで高感度の画質を重視し、さらにレンズと処理エンジンの改良によってトータルの画質では、ワンランクかツーランク高めることを目標にしました。レンズは明るくなっただけでなく、ゴーストやフレアを低減し、処理エンジンはノイズリダクション性能を上げています」という。
2/3型や4/3型、またはAPS-Cサイズなど、より大きな撮像素子の採用については「初代機を開発する際には、そんな検討も少しありましたが、全体に与える影響を考慮し不採用としました。ボディが大きく携帯性が損なわれるとGRではなくなってしまいます。GR DIGITAL IIIでは、大型センサーを使う議論や検討は最初から特にありませんでした」とのことだ。
カメラのソフト関係のリーダーを担当した、同社 PMMC ICS設計室 設計3G シニアスペシャリスト橋本徹也氏によると、「レンズの高性能化によってAFスピードが遅くなりがちなところを、内部処理の改良によってGR DIGITAL IIと同等の速度を維持し、暗所でのAFスピードについては約2倍にアップしています。また、動作音を軽減したことや、マイセッティング機能を充実させたことなど、操作面も確実に進化しています」という。
今回の取材はGR DIGITAL IIIで開発陣を撮影し、画像ソフトでリサイズしたものを掲載している(ストロボのみ外部ストロボ使用)。撮られることを意識させず、自然な表情を引き出しやすいカメラといえる
筆者が個人的に気に入ったのは、シャッターボタンを一気押しすることで、ピント位置を固定して撮れる新機能「フルプレス スナップ」だ。「外部センサーを併用していた初代GR DIGITALでは、一気押しした場合には、外部AFセンサーだけの距離で撮影できました。しかし、外部センサーを省いたGR DIGITAL IIでは、速写性がやや落ちたという意見もありましたので、GR DIGITAL IIIでは距離を固定するフルプレス スナップによって、速写を実現しました」と樋口氏は述べる。小さい撮像素子=短い焦点距離を持つGR DIGITALは、そもそも被写界深度が深く、パンフォーカスでの撮影に向いている。その特性を生かした機能だといえる。
愚問かもしれないが、顔認識AFやシーン自動認識など、一般的なコンパクトデジカメでのトレンド機能の検討はあったのかを伺うと「一切ありません」とのこと。「GR DIGITALに顔認識を入れたら、ユーザーに怒られるかもしれません。カメラに撮らされるような感覚を嫌い、自分自身の意思でカメラを操作したいと考えるユーザーが多いようです。動画モードですら、反対意見はあるんです。ただ、一眼レフ機のサブ用途などでは、動画機能もあったほうがいいと思い、動画はシーンモードの中に入れています」(樋口氏)。
GR DIGITALシリーズはひんぱんにファームウェアアップデートを行い、成長し続けていくことも魅力だ。「製品ごとに満足度調査を行い、その結果をファームウェアアップデートや次の製品に反映させています。今回のGR DIGITAL IIIは、暗い場所での画質の満足度が低いという意見を踏まえ、F2を切る明るいレンズを実現しました」。そして「まだまだやりたいことがある」と樋口氏はいう。顔認識やシーン認識といった自動化だけが、コンパクトデジカメの進化ではない。
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