「CEATEC JAPAN 2010」総括(1)、展示会場で見つけたトレンド:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
18万人以上の入場者を集め、盛況のうちに閉幕した「CEATEC JAPAN 2010」。展示会場では、裸眼立体視対応の3Dテレビやスマートフォンが注目を集めたが、AV評論家・麻倉怜士氏はどこに着目したのだろうか。
パッケージメディアの夢を見せてくれたTDK
麻倉氏: BDAの講演でも触れましたが、TDKブースで技術展示されていた16層の光ディスクは素晴らしいです。BDXLが出て、今後Blu-ray Discにどのような発展があるのかと思っていたのですが、16層で1Tバイトはすごい。ちょっと前のHDDの容量です。
しかもTDKの展示は、今の技術の延長線上にあります。これまでも展示会などで大容量ディスクを見ることはありましたが、ホログラムなど従来とは別方式が中心でした。TDKの技術は、Blu-ray Discと同じ青色レーザーを使い、記録密度はBDXLと同じ。透過率と反射率を上げた独自開発の記録材料によるものです。
少し気になったのは、用途の説明を受けたとき、放送業務やデータアーカイブなどが中心で、あまり民生用のことを言っていなかったことです(編注:一応、AV/IT用とも書いてありました)。将来的に4K2Kが普及したら、単純計算で録画容量は4倍になりますが、1Tバイトの光メディアがあれば十分に実用的です。日本の技術力は健在だと感じさせてくれた展示でした。
現実音源のシミュレーター? NICTの62ch立体音響システム
麻倉氏: NICT(独立行政法人 情報通信研究機構)が立体映像用に開発した立体音響システムもすばらしいものでした。昨年の28chシステムからも大きく進歩しました。
例えば、NHKがスーパーハイビジョン用に開発した22.1chシステムは、部屋の中にスピーカーを点在させて音像を作ります。NICTの場合は逆で、1つの玉の中に62chのスピーカーを設け、そこから音が出ます。異なる方向に音響信号を放出し、音源を空間中で合成することで、演奏家の動きや向きまで分かるような立体表現を可能にしました。実際に聴いてみると、広がり感はあまりないのですが、音像はすごい。例えば音楽演奏のコンテンツなら、そこに奏者がやってきて、演奏しているようなリアリティーを持っていました。現実音源のシミュレーターといえば分かりやすいかもしれません。
問題は、これをどのように実用化するか。単なる実験機なのか、特定用途向けなのか、それとも最終的に家庭(民生機)を目指すのか。私は、ぜひ自宅に1台置きたいと思っています。次回は、さらにCEATECの展示を掘り下げましょう。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーとパナソニックのBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNの CD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「ホームシアターの作法」(ソフトバンク新書、2009年)――初心者以上マニア未満のAVファンへ贈る、実用的なホームシアター指南書。
「究極のテレビを創れ!」(技術評論社、2009年)――高画質への闘いを挑んだ技術者を追った「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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