LINNの「DSMシリーズ」がホームシアターの音を変える?:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/3 ページ)
昨年、LINNが発表した新コンセプト「DSMシリーズ」。高級ネットワークオーディオプレーヤーとして注目されている同シリーズだが、麻倉氏によると、ほかにも見逃せないポイントがあるという。それはHDMI入力の品位だ。
DSMをマルチチャンネルシステムに組み込む方法
――DSMシリーズのHDMI入力には、それなりに秘密があることは分かりました。しかし、DSMは2chを前提とした製品です。マルチチャンネルのホームシアターにどのように利用するのでしょう?
麻倉氏:まず2chで使うのも1つの手です。入り口としては、とても良いと思います。例えばパワーアンプ搭載の「MAJIK DSM」なら、HDM入力と出力を持っているので、BDプレーヤーとテレビの間に接続するだけで簡単にシステム化できます。BDプレーヤーは、米OPPOの「BDP-93/95」あたりがオススメですね。
注意したいのは、プレーヤーの出力をストリーム伝送ではなくリニアPCM伝送に設定すること。DSMシリーズは現在、リニアPCM対応のDACしか積んでいないからです。これまでの常識では、サラウンド音声はストリーム伝送のほうが音が良いはずでした。しかし、実際に使ってみると、AVアンプにストリームを入れるより、BDプレーヤーでリニアPCM変換してDSMに入れたほうが良いケースが多かった。リニアPCMでもそれだけ良いのだから、元のストリーム信号ならさらに良くなる期待が持てます。今後はストリーム伝送を受けて、DSM側でドルビーTrue HDやDTS HD-MAなどをデコードするようになることを願いたいですね。
さて、ホームシアターの醍醐味(だいごみ)は、やはりマルチチャンネルでしょう。そこでLINNが推奨しているのは、DSMの後ろにAVアンプを置く方法です。つまり、MAJIK DSMがメインの2cを担当し、センターとリアは後段のAVアンプで音を出す方法です。DSMのHDMI出力からはマルチアウト(センターとリア)の情報がスルーで出ているので、AVアンプのセンターとリアを利用します。ボリュームはDSMから一括コントロールできます。
音は実に素晴らしい。DSMはメインの2chしか担当していないのに、全体の品位が圧倒的に上がるのです。5.1チャンネルのうちメインはDSM、その他はAVアンプと担当が違う音が混じっているのに不思議です。実はDSMから出力されるHDMI(センターとリア)のクロックもDSM内部で入れ替えていることが、AVアンプ側でもきれいな信号として受け取り、結果としてAVアンプに直接HDMIを入れるより、トータルで良くなるという理屈ではないでしょうか。またボリュームはDSM側でコントロールするのですが、AVアンプ側はボリューム位置最高(0dB)にしてますから、ボリューム自体はDSMのクオリティ下に置かれます。これも音を良くしている要因でしょう。驚くのは、AVアンプとDSM+2チャンネルアンプというハイブリッドな組み合わせなのに、一体感が非常に強いことです。違和感がまるでない。それらに音場が深く、ソノリティが活発に、さらに各チャンネル間のつながりも増したのには感心します。これは8月18日に行ったAVAC横浜アネックス店でのイベントでの感想です。この時は定評あるパイオニアの「SC-LX85」を使いました。
ただ、この構成の問題点として、フロント2chとほかのスピーカーの間にディレイ(遅延)が発生することが挙げられていました。DSM側の処理が先行して、AVアンプ側が遅れるため、マルチチャンネルを組むのは実際には難しいと言われていたのです。
しかし、LINNが最近になってファームウェアアップデートをリリースし、遅延時間を調節する機能を追加しました。500ミリ秒まで調整できます。実際の調整は耳で聞いて行うので少々難しいのですが、マルチチャンネルでパルス音を流し、DSMとAVアンプの音場内の音の線を一度そろえればいいので、ユーザーの方は試してほしいと思います。DSMの色の濃いサウンドが聴けるでしょう。
マルチチャンネル化に期待
――LINNにはマルチチャンネル対応機も出してほしいですね
麻倉氏:そうです。LINNはDVD時代にAVアンプに近い製品も熱心に開発していましたが、Blu-ray Discの時代になってからは2chに力を入れています。しかし、サラウンドやDSDの音楽配信も始まり、BDに高品位のオーディオデータを記録しようとする動きもあります。DVD時代以上にマルチチャンネルが求められている状況ですから、やはり次のステップには必要なのではないでしょうか。また、HDMI入力がリニアPCMに限られている点ももったいない。また、さきほども言いましたが、ぜひストリームに対応してほしいです。なぜなら、ドルビーTrueHD、DTS HD-MAには固有の音があるからです。それがリニアPCMにプレーヤー側で一括的に変換されてしまうので、その個性が薄れます。さらにいうと、BDプレーヤーまで包含するような製品もあるとうれしいですね。2chにフォーカスするのも良いのですが、新世代のディスクメディアに対しても気配りが欲しいと思います。
――最後に告知です
麻倉氏:2chだけDSMを使ってなぜ5.1ch全体の音が良くなるのか。実際に聴かないと信じられないでしょう。というわけで、AVACで「DSM+AVアンプ」のイベントを開催します。前述の8月18日の横浜ANEX店を皮切りに、25日に大阪梅田店、9月15日に秋葉原本店、9月22日に横浜店、9月29日にGRAND新宿店と5カ所をまわる予定です。詳細はAVACの告知を見てください。
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