ものすごく音が良くて、ありえないほど近くで観られる4Kテレビ――ソニー「KD-65X9200A」:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(2/2 ページ)
この春から夏にかけ、4K液晶テレビが次々と登場する。その先陣を切ってソニーが発表した注目の4Kテレビ「KD-65X9200A」をチェックした。試聴ソフトは映画BD「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」。
BD「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」を近接視聴
4Kシネカメラで撮影された映画Blu-ray Disc「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(スティーヴン・ダルトリー監督/2011年作品)を部屋を暗くし、本機KD-65X9200Aの映像モード『シネマ1』で観てみた。4Kディスプレイの推奨視距離とされる1.5H(画面高の1.5倍)の、本機から約120センチの場所に椅子を置いての近接視聴だ。
水平60度/垂直36度の視野角が実現できるこの位置で観る映画は、テレビを観ているという平和な日常感覚をかき乱す臨場感に満ちあふれていて、多くの人はその迫力にたじろいでしまうことだろう。こどもの頃から「テレビはもっと離れて見なさい、目が悪くなるよ」と母親から言われ続けてきたわれわれ日本人にとって、こんな近くまでにじり寄ってテレビを観ることに多少の勇気がいるが、この近接視聴を行なったときこそ、4Kテレビの魅力は十全に発揮されるのである。
4K解像度を持つテレビは、1.5Hまで近づいても画素構造やジャギー(斜め線のギザギザ)が気にならないことがその推奨理由だが、もう1つこの1.5H視聴には大きな意味がある。それが人間の目の分解能との関係において、だ。視力1.0の人間の目の分解能は垂直・水平1度あたり60画素といわれており、垂直解像度2160本の本機を垂直36度の視野角が実現できる1.5H視聴すれば、その限界値での観賞が可能になるのである(60×36=2160)。また、水平視野角60度は、映像心理学者の知見によると、人が映像から得る迫力(力量感)と快適感を両立するベスト・ポジションなのだという。
実際ここまで近づいて観た映画BD「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」の画質はすばらしいの一言。「4K X Reality PRO」による4K変換もほとんどクセを感じさせず、精密に働いている印象だ。主役の少年がニューヨークの地図を広げた場面では、画面に相対しているこちら側で一緒になってその地図の詳細を読み取っているような気持になれるほどの解像感の高さなのである。こと映画BDの4Kアップコンバート画質については、シャープから発売された超高価格な“ICC Purios”「LC-60HQ10」以上の完成度だと思う。
しかし、母親役のサンドラ・ブロックのアップでは、彼女の顔の開いた毛穴一つ一つがはっきり見えて、ちょっと興ざめだった。これが制作者の意図で、それが本機の4K変換画質で正確に再現されたと考えるべきなのだろうが、ここまで見えなくても、と正直思ったり……。
先述した色域をコントロールできる画質調整項目の「ライヴカラー」はオフ、弱、中、強の4段階から選べる。トリルミナスカラー基準でマスタリングされているわけではないBD「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」を「 強」 設定で観ると、さすがに肌色の赤みが強調され過ぎた印象となるが、「 弱」 から「 中」 くらいの設定で観ると、暖色がひじょうに鮮やかに浮かび上がり、この哀しい主人公を見つめる監督の温かな視線が実感でき、とてもよいと思った。
画質面で唯一惜しいと思うのは、コントラストの不足。平均輝度レベルの低いシーンでは、うっすらと画面上下にムラにでき、低輝度部でそれが気になるというエッジライト型の宿命から逃れることができていない。ぜひ発売までにこの瑕疵をできる限り解消してほしい。
というか、正直いうと、こんな高解像度で色の魅力にあふれた4Kテレビこそ、良質な直下型バックライトを採用してほしいと思う。ここ数年のテレビの急激な低価格化、コモディティ化の悪影響が、上質なパネル製造継続とその採用の意欲を削いでしまったのではないかと、ふと不安になるのだが……。
さて、いっぽう本格サイド・スピーカーで聴く音はほんとうにすばらしかった。1.5H視聴は、音の面でもステレオ再生の理想と言われている開き角60度リスニングが可能となるわけで、ファントム(虚像)のセンター音像が画面内にピタリと定位し、ダイアローグが画面の映し出された人物の口元から発せられている濃厚なイメージが得られるのである。それに加えて、音楽はすっとスピーカーの外側に広がっていく。この音質ならば、本機にCDプレーヤーなどをつないでリビングルーム・オーディオ用スピーカーとして機能させられるのではないかと思ったり。
ちなみに80ミリ・ウーファーにはテレビ用スピーカーとして初めて磁性流体が使われており、ボイスコイル(駆動エンジン)を支えるダンパーを排除し、その振動による音質面によるダメージを一掃している。実際、ソニーの実験室でダンパーありユニットと磁性流体ユニットを聴き比べてみたが、音の伸び、明晰さ、明快さなどで後者のユニットの優位点は明らかだった。
この1〜2年、テレビセット業界からはシケた話しか聞こえてこなかったが、名門企業ソニーからこんな力の入った4Kテレビが登場してきて、ほんとうに楽しくなってきた。雪解けした地面から冬眠から覚めたクマが起き上がってきた感じかな? なにはともあれ本機の発売日を首を長くして待ちたいと思う。
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