癒しを倍増させるハイレゾ音源の作り方、そして容量半分で“生の音”に迫る新技術とは?:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)
10月に開催された日本オーディオ協会主催の「オーディオ&ホームシアター展2014」。期間中は多くの講演が行われたが、その中でAV評論家の麻倉怜士氏がひかれた2つのセッションを紹介していこう。
容量半分で圧倒的に自然な音――英Meridianの新技術
麻倉氏: もう1つ、今回のオトテンでは画期的な発表がありました。山之内正先生の基調講演の中で、英Meridian Audioのボブ・スチュアート社長がゲストスピーカーとして登壇し、ハイレゾ音源に関する新しい技術コンセプトを紹介したのです。新しい正式な発表は後日行われるようで、そのときはベーシックな部分だけでしたが、同社が長年研究開発してきた人間の聴覚に関する研究成果に基づく新しい信号処理技術と、その処理を施したハイレゾ音源を聞くことができました。
「人はどのように音を感じるか?」という聴覚心理の分析は、近年飛躍的に進んでいます。しかし、現在の音響技術は、相変わらず1960年代から1970年代の研究をベースにしています。高速フーリエ変換やシャノンの定理といった古典的な定義により、現在のデジタル信号処理は成り立っているのです。ですから、最新の研究をもとにすれば圧倒的に高音質というか、自然な音が実現できるというのがボブさんの主張です。
――どう変わるのでしょう
麻倉氏: かいつまんでいうと、人の聴覚がリアリティーを感じるのに一番重要なのは、“時間軸解像度”ということです。人間は9マイクロ秒――1000分の1秒単位で波形のゆらぎを感知できるそうですが、それにあった音の波形は、これれまでの常識の定理を利用している限り、現在の音響技術では出せません。いくら良い音でも、録音した音と“生の音”は判別できますよね。それは現在の録音/再生技術が人の聴覚心理に合っていない証拠です。
ところが、宇宙工学の分野から出てきた特別なフィルターというものあります。宇宙と交信するときに使うものですが、このフィルターの特性をデジタル処理に適用すると、音の時間軸解像度が飛躍的に向上するというのです。従来よりも低いサンプリング周波数でも高音質になります。Meridian Audioは、それを応用した信号処理システムを開発したのです。
実際に、その音を聴きました。1962年にモノラルで収録されたボブ・ディランの「くよくよするな」をボブさんが処理したものです。音と音の密度が高いというか、まるで目の前にボブ・ディランがいるようで、ライブな雰囲気も感じられました。
デーブブルーベック・カルテットの「テイク5」(1965年録音)もサックスが生き生きと音場内を浮遊してピアノも軽々となっていました。最近の録音では、ピアニスト・田部京子さんのベートーベンピアノ協奏曲第4番&第5番「皇帝」も聴きました。スピーカーの存在を感じさせず、そこに音源が現実に存在し、自発的に音が出ているような印象です。弦パートの“音の漂い感”も並みではありません。ピアノはまるで、ピアノ線を叩く様子まで見えるよう。その後で聴いたカーペンターズのフツーのハイレゾ音源(96kHz/24bit)が“粗く”聞こえたほどです。
――すごいですね。新しいフォーマットとして登場するのでしょうか
麻倉氏: そうでしょうね。さらにMeridianの技術が優れているのは、ファイルサイズが現在のハイレゾ音源の半分程度になること。ハイレゾ音源の配信サイトにも歓迎されるかもしれませんね。人が自然に感じる音の研究は、今後も重要になると思います。
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