この価格帯では異色の出来――パイオニア「N-70A」使いこなし:潮晴男の「旬感オーディオ」(2/2 ページ)
ハイレゾもCD同様、単に再生できるということと、いい音で聴けるということには違いがある。パイオニアのネットワークプレイヤー「N-70A」で、より良い音を聴くための設定や使い方を探ってみよう。
ロックレンジアジャストとデジタルフィルターの特性
USBメモリーに取り込んだトニー・ベネットとレディ・ガ・ガのデュエット・アルバム「チーク・トゥ・チーク」の96kHz/24bitの音源から「エニシング・ゴーズ」をフロントのUSB端子に接続して聴いてみた。以前にこの連載で使ったCDのハイレゾ版である。60歳もの年齢差でも話題となった作品だが、フルバンドを擁した音の作りが豪華なこともこのアルバムを彩る。いずれの曲も温かみを感じさせながらもノリの良さを伝える一方、レディ・ガ・ガの伸びやかなボーカルとトニー・ベネットのいぶし銀のような安定感のある歌声を良く描き出す。CDに比べると音のきめが細やかな点でさらにその世界に深く入り込むことができるが、「N-70A」はそうしたニュアンスを無理なく丁寧に引き出してみせる。
ハイレゾというと周波数レンジや音のダイナミクスに耳を奪われがちだが、ローレベルの音の豊かさがあってこそ、躍動する音楽のリアリズムが生まれることを改めて感じた。「N-70A」の持つS/N感の高さは、そうした部分にも良く反映されている感じで、静けさを伴うフレーズの奥に潜むわずかな変化も見逃さない。
次にこのモデルに用意されている「ロックレンジアジャスト」機能を試してみた。ロック幅は1〜7まで8段階用意されている。1ではロックしたりしなかったりするものの、2はレンジ感が広く、4は安定感があり音が厚くなる。そして7では2人のボーカルはいくぶん太くなるが緩めに感じられた。デフォルトは安全率を見込んで7に設定されているそうだが、設計陣からはロックが外れる1つ上のポジションがいい音で聴けるポイントということなので、この辺りは実際に試してみたい。このソースでは4がぼくのおすすめである。
デジタルフィルターについては、「Slow」「Sharp」「Short」が用意されている。比較すると「Slow」平均的、「Sharp」は明快なサウンド、「Short」は音場再現が豊かになる印象だ。またダイレクト再生をオフにすると32bitにアップサンプリングした再生を行う。オリジナルデータに比べるとスムースさが増し上品な音になるが、オリジナルデータのほうがリアルさは高いように思う。
この音源が入ったUSBメモリーをリアパネルのUSB端子に接続してみたところ、音圧感がアップし音場が深くなる。おそらく端子から基板までのわずかな距離の違いがこうした変化を生むのだろう。USBメモリーを再生するのにいちいちリアパネルの端子につなぐのは面倒くさいが、ハイレゾもいい音で聴きたければ手間を惜しむなということだ。
USB音源をPCに取り込み、USB-DACとして使うと、音は太くなるがやや甘くなり48kHz/24bitで聴いた感じになる。このあたりは一概に断定できないが、PCの状態や再生ソフトの違いが出る。NASを経由すると安定感が増し、USBメモリーをダイレクトに再生した時のイメージに近くなった。
またメーカーでの保証はないが、試しに11.2MHzで信号を入力すると、ディスプレイ表示には「--」しか出ないものの、何のトラブルもなく再生した。将来性が気になる人にはこれもうれしいフィーチャーといえるだろう。私の知人にもハイレゾ対応を行って、CDと大差ないと嘆いていたオーディオファンがいたが、ハードウェアによっては残念な結果になってしまう製品も少なくない。CDプレイヤー同様、再生できるということと、いい音で聴けるということには、使いこなしも含めて大きな違いがあることを改めてお伝えしておきたい。
それにしても、この価格でこの内容には驚きだ。それだけにこのモデルはハイレゾ音源の持つ可能性を引き出してくれる製品としてオーディオファンに安心しておすすめしたいと思う。
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