ハイパーソニックの伝道師が手がけた「AKIRA」の世界:麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」(3/3 ページ)
「AKIRA」のオリジナルサウンドトラック「Symphonic Suite AKIRA」が、DSD11.2MHzでお目見えした。芸能山城組を主催する大橋力氏が手掛けた本作には、ただのハイレゾとは一味も二味も違う。またオマケコーナーの「麻倉印・秀作UHD BD紹介」は「インデペンデンス・デイ」。
オマケコーナー:麻倉印・秀作UHD BD紹介「インデペンデンス・デイ」
麻倉氏:このコーナーでは、人類史上最も優れたパッケージメディアであるUltra HD Blu-ray(以下、UHD BD)の中で、私がオススメするタイトルを紹介します。今年からいよいよ次世代映像パッケージであるUHD BDのソフトが、ソニー、FOX、ワーナーからリリース開始となりました。今回は続編も話題を呼んだ「インデペンデンス・デイ」を紹介します。
インデペンデンス・デイは1998年の作品で、今回のパッケージは4K、2K、2K特典盤の3枚組となっています。これには3D版が付かないので、この点は注意しましょう。さてこの作品ですが、4K+HDRという観点からすると、クオリティー的には「マッドマックス」や「エクソダス」といった最近の作品のほうが画質・音質的にも良いといえます。が、手元に置いておくことができるパッケージメディアならではの楽しみ方として、今から20年近く前に作られた作品が最新技術でどう変わるかという観点で過去のパッケージと比較をするのも面白いですよ。
――上映期間しか楽しむことができない映画や、基本的に最新のバージョンしかリリースされない動画配信とは異なる、物理メディアならではの鑑賞法ですね
麻倉氏:映像だけを見ると確かに古さを感じるところですが、同時にフィルムの良さがよく出ています。最近の新作は基本的に2Kもしくは4Kのデジタル撮影となっているため、ガンマカーブのデジタル処理をかけることでフィルム的なフレーバーを入れることは可能ですが、基本的にはリアリティーの高いビデオの画調で仕上げられます。
そのような観点からすると、物語性とフィクション性という特長をフィルムは持っているのです。インデペンデンス・デイを見ると、ある一定時間、物語世界に入り込むことができる、映画というメディアが持つフィルム調の利点をもう一度思い出させてくれます。リアリティの高い映像がある中で、作品的なフィルムの良さが出ている絵ですね。例えばグレンノイズ、鮮鋭感と解像感においてある一定限度のアンクリアさとグレンノイズの掛け算で、フィルムらしいファンタジー感が出てきます。
――オーディオでもそうですが、現代のハイエンドメディアは基本的に解像度重視のカリカリ志向で、確かにリアル度は上がっていますが「フィクションが内包する独特の世界観やリアリティ」というものが軽んじられていることもあるのではないかと思います。本作のような“最新の旧作”を味わうと、そういう情緒的な感性をギュッとわしづかみされることがあります。
麻倉氏: 従来と今回の違いとしては何か。解像感の高さや明るさといった点では、2Kのものでも当時のフィルムとしてのバランスの良さがありますし、4Kになったからといって解像感の高さがキリキリ出るという訳でもなく、エクソダスの様に「もの凄く明るい」という訳でもありません。ではどこが違うかというと、それはズバリ階調感。紛れもなくHDRの利点で、これがもう目に見えて違います。爆発シーンや宇宙船のシーンなどではそれ程違うというわけではないですが、中間色を中心に色数が増えて、彩度が高くなっているのです。
例えばホワイトハウスの中のシーンでは、モスグリーンの壁の色合いが従来は彩度感が低かったのですが、今回は色合いがはっきりしており、色の個性を持っています。他にも肌色は従来コントラストがきつく、シャドウがストンと落ちていたところ、今回のものは粘りがあってしぶとく中間階調を保っており、肌色の特性を生かしています。シャドウがきつかった従来と比べると、炭っぽさが払拭されて階調を持った肌色が出てきました。これにより大統領や主人公のテレビマンなど、以前は十把一絡げだった各キャラクターの個性がよく分かるのです。
このような色の細やかさと階調の良さが、えもいわれぬHDRの良さです。ピキピキした金属的な輝きが強くなるというよりは、色や階調のナチュラルさがHDRを通すことでよりレンジが拡がり、濃密になります。物語の最後は敵の宇宙船が爆発を繰り返すシーンですが、従来は白飛びしていたこの爆発に花火の様な色が付いています。この色の彩度の高さや背景の空の碧さが今までとはまるで違い、碧色の空に花火のような高彩度の爆発が乗るという絵が表れます。これこそがHDRらしい絢爛さと、フィルムらしいしっとりとした質感が相まった、4K HDRならではの表現なのです。
――特にHDRはUHD BDになって初めて顧みられた「色の深度」という要素ですから、今までとの違いを注目して観たいです。新作・旧作ともに、より感性に訴えかける作品が増えるのが楽しみですね。
10月の「CEATEC JAPAN」、BDA(ブルーレイディスクアソシエーション)ブースで講演を行う麻倉氏。米国ではすでに200を超えるタイトルが、国内でも40タイトル以上のUHD BDがリリースされている。
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