IBMは部門主導の体系化された社内情報だけに依存せず、現場や個人による情報も積極的に活用することを意図してソーシャル機能を軸とした社内コミュニケーションの仕組みを導入。これによって、情報共有の課題が解決しただけでなく、副次的な効果も表れ始めている。
まっとうなビジネスマンであれば、社内コミュニケーションの大切さを、身をもって痛感させられているはずだ。「急ぎの問い合わせを受けたが、誰に相談すればいいか分からない」、「商品の改善を頼んだけれど、なかなか対応してもらえない」、「必要な社内資料を探すだけで、思わぬ時間を取られてしまった」――。こうした苦い経験のほとんどは、社内コミュニケーションの不備に起因する。
社内のどこに、どんな情報が存在し、誰がそれらに精通しているのか。社員が効率良く快適に行動する上で、それらの情報を企業として共有するための仕組みが欠かせない。「報・連・相」の重要性が説かれ、メールや携帯電話、グループウェアなどのツールが仕事で使われてきたのもまさにそのためだ。
ただし、近年になり社内コミュニケーションはいっそう難しくなっている。背景にあるのは、企業競争の激化によって意思決定に速さがより求められたり、グローバル展開や事業の多角化によって面識のない社員とコラボレーションしてプロジェクトを進めたりする日本企業が多くなってきたからだ。
では、こうした中、どのような社内コミュニケーションが効果を生むのか。その成功企業事例として、世界各国に点在する社員同士で “知”の共有を行い、各自が日常業務に生かしている日本IBMの取り組みを紹介したい。
「このままでは近い将来、現場の仕事が立ち行かないだろうと思いました」
こう語るのは、日本IBMのソフトウェア事業でテクニカルセールスにて、製品技術の専門家であるサブジェクト・マター・エキスパートの臼井修氏。以前から日本IBMでは営業活動の強化によって、営業社員が1週間で約10社の顧客を訪問している。その場で営業社員が製品に対する質問や改善要望を数多く受けるものの、社外での活動や出張が多いという仕事柄、顧客対応のための社内情報の収集や関連部署との調整に、十分な時間を割くことが難しくなっていたという。加えて、例えば、営業資料を社外からアップデートしたとしても、それを他のメンバーと共有するにはメールを使うなど、非常に手間がかかっていた。
社内コミュニケーションの仕組みとして、インスタントメッセージやWeb会議などができる自社製品「IBM Sametime」を利用していたものの、基本的には面識のある社員とのコミュニケーションだった。例えば、顧客からの問い合わせで疑問が生じた際に、誰かに尋ねる必要があったものの、最も精通する社員を瞬時に探し出すのは非常に困難だった。
社内における、製品改善要望の方法が統一していないのも課題だった。日本IBMでは製品ごとに営業および開発向けの改善要望窓口を設置していた。だが、入力方法が専用フォームを持ったワークフローになっており、申請者からはほかの社員が入力した内容や進ちょくが見えなかった。例えば、ある営業担当者が製品の機能改善を依頼したところ、既に同様の要望をしていたなど問い合わせが重複して無駄が起きていたり、顧客への迅速な回答が困難だったりした場合もあった。
同社でソフトウェア製品の顧客サポートを担当する池部敦巳氏は、「製品改善要望の方法について選択を誤ると、当然、回答を得るまでの時間が長引き、それだけ顧客対応に遅れが生じます。一方で、サポート部門と開発部門ではスタッフの意識に温度差もあるため、我々が改善要望を上げたとしても、彼らの優先順位が低いと対応に予想以上の時間を要すことも珍しくなかったのです」と打ち明ける。
このように、社内の情報共有、さらには社員同士のノウハウや知の共有に課題を抱えていた日本IBMが、社内コミュニケーションの新たな仕組みを作るために導入したのが、ソーシャルメディア機能を基盤としたコラボレーションツール「IBM Connections」である。
導入の成果としてまず挙げられるのが、多様な情報の可視化が進んだことで、コミュニケーション効率を飛躍的に高められたことである。IBM Connectionsは、社内のソーシャルネットワーキング(SNS)に文書およびコンテンツ管理といった機能を持ち、同じ製品ファミリーのメールおよびアプリケーション基盤の「IBM Notes/Domino」や、IBM Sametimeと結合して利用でき、参加ユーザーのあらゆる行動履歴がほかのユーザーにも共有される。当然、過去のやり取りやコミュニケーション、資料も保管されるため、例えば、プロジェクトへの参加時期にかかわらず、ユーザーは過去の経緯を容易にたどり、「疑問が生じても多くの場合、他のメンバーに直接問い合わせることなく自己解決できる」(臼井氏)ようになった。
また、行動履歴には、どのバージョンのファイルをいつダウンロードしたかといった細かな情報まで記録されているほか、全社員の基本情報を参照できるプロファイル機能もIBM Connectionsで用意している。それらを基に、これまで会う機会のなかった社員の専門分野やスキルを推し測れるようになり、専門外の問題に直面した際の相談相手も瞬時に見つけられるようになった。「以前であれば顔見知りの社員の“つて”をたどって相談相手を探し回っていました。それと比べて格段に課題解決までの時間が短縮されました」と臼井氏は力を込める。
さらには、IBM Connectionsではユーザーの行動がタイムラインに表示されるため、従来メールでやりとりした資料をアップロードするだけで、内容の更新をメンバーに通知できる。その結果、情報共有のスピードが大幅に早まるほか、メールのやり取りが飛躍的に減少し、浮いた時間を別の仕事に充てられるようになった。
IBM Connectionsの利用をきっかけに、IBMでは製品の問い合わせ窓口を一本化した。これによって、上述したような無駄が解消されただけでなく、ソーシャル機能ならではの「いいね」によって、改善提案に対する社内の反応も可視化されることとなった。
「企業では組織の数が増すほど、現場の要望を俯瞰してとらえにくくなりがちです。しかし、“いいね”のクリック数を参考にすれば、各提案がどれだけ支持を集めているのかは一目瞭然です。おかげで現場の草の根の意見を製品開発や改善に反映されやすくなったことは大きな意義があります」(池部氏)
「いいね」の活用法は実はこれだけにとどまらない。臼井氏の後輩であるテクニカルセールスの吉原洋樹氏はその使い道を次のように説明する。
「入社3年目である私の仕事の1つが、営業現場で使いやすい資料を作成することです。しかし、経験不足から資料のまとめ方に悩むこともしばしばです。そんな私にとって、“いいね”の数やコメントは資料作成の指針になり得ることが分かりました。この資料はなぜ高く評価されているのか、どうして評価されないのかを考えながら作り込むことで、資料の質を高めています」
副次的な効果も出ている。資料が「いいね」とクリックされるたびに、そのユーザーとつながりのある別ユーザーのタイムラインにその行動が表示され、情報共有が自ずとされていることだ。その結果、資料に目を通したまったく知らない社員からも「ここはこう変えたほうがいい」「この文言は不要だ」などと内容の改善提案が寄せられるという状況が生まれている。
昨今、多くの日本企業では新入社員の採用が抑制傾向にある。そのために今、企業では新入社員の教師役となる若手社員が不足気味だ。これは日本IBMも同じ。そうした中、IBM Connectionsは先輩社員の教育を補完する、部門を超えた若手育成の仕組みとしても機能し始めているのである。
ここまでで紹介してきたことは、日本IBMの取り組みのほんの一部に過ぎない。だが、これだけでも社内コミュニケーションに対する変革の成果を感じることができるだろう。従来の手段であるメールやチャットに加えて、新しい機能であるSNSを業務に取り込み、目的に応じて使い分けることで、いっそうのコミュニケーション効率の向上を見込むことができる。
もっとも、今ではこれほど活用されながらも、コミュニケーション用途に関しては、日本IBMにおいてもSNSの企業利用に対する抵抗感が少なからずあったという。だが、先進的な社員の利用と情報の着実な蓄積、さらに機能拡張を続けてきたことによる、実務に使えるツールという認識の広がりによって抵抗感も薄らいでいるようだ。
「今でも社員の意識に濃淡はあります。ただし、データ共有などの用途では既に必須となっているのと同様に、メールより気軽にコミュニケーションが取れるメリットの認知が進むことで、必然的にSNSも活性化するのではないでしょうか」(臼井氏)
日本IBMでは今後、業務システムとの連携により、IBM Connectionsのデータ分析機能の活用を進める考えだ。
「連携するシステムが増えるほど、より多様な角度から社員の業務支援が行えるようになります。そうなれば、いよいよIBM Connectionsを抜きに仕事をすることは考えられなくなるはずでしょう」(臼井氏)
日本IBMは新たな武器を手に、社内コミュニケーションのさらなる成長への道を歩み始めている。
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