第7回 Linuxが携帯電話に搭載される可能性は?

それまでPCやサーバー用途に導入されてきたオープンソースのOS「Linux」が,PDAや情報家電などに搭載され始めている。携帯電話プラットフォーム用OSとして利用できれば,無数にあるオープンソースを利用することで,開発効率が向上するのではないだろうか。

【国内記事】 2001年5月18日 更新

開発コストの高い携帯電話向けプログラム

 携帯電話でJavaなどのプログラム実行用に搭載されるプラットフォーム用OSは“リアルタイムOS”と呼ばれる機器組込型のOSだ。「VxWorks」や「OS-9」といった汎用のOSもあるが,携帯電話の場合キャリアや携帯電話メーカー,チップメーカーがそれぞれ独自に開発することもある。

 たとえばクアルコムの「BREW」(2001年1月の記事参照)のベースがそれだ。

 これらに対応するプログラムを開発するには,デベロッパーは少なくとも開発キット(ライブラリ群など)をダウンロードし,その独自仕様に対応するための準備を進めなければならない。新しいプラットフォームが登場するたびに導入コストがかかり,開発コストは必然的に高くなる。

 この点,オープンソースのLinuxを導入すれば,コンパイラは無料で手にはいるし,無数に存在するオープンソースのライブラリをライセンス費用抜きで使えるのでコストが下がる。デベロッパーは参入しやすくなり,生産性が上がるのではないだろうか。

 また,多くのデベロッパーがオープンソースに協調することで,新しいテクノロジーの誕生が期待でき,利用者にとって利益になる。市場全体の発展にもつながることも考えられる。

 Linuxの最大のメリットは,プログラムの権利に依存することなく,目的に合わせて別の開発者がソースコードを調整できる点にある。また,コードが無料であるため,コストを低く抑えることも可能だ。

 リアルタイムOSは言葉の通り,リアルタイムで処理できる機能に重点をおいて作られたマルチタスクOSで,制御装置などに使われている。イベントが発生したらすぐに(通常,〜数十msec以内)に動作するような用途に適したOSで,実は「炊飯ジャー」といった家電に多く使われていたりする。

 PC用途のOSとはイベント処理の面で異なっているが,OSとしての基本的な機能に大差があるわけではなく,Linuxがその機能を備えることは可能だ。

 あとは,携帯電話という少ないリソースの環境でどれだけ動くのかが焦点になってくるが,どうやらそれも解決されつつありそうだ。

PDAではLinux OSの搭載が進む

 PDAの世界では,Linux OSの導入が着実に進んでいる。従来から,既存のPDAにLinuxを搭載する動きは頻繁にあった。

 例えば,HPC2000に対応したNECの「モバイルギア」にLinuxをインストールしたり,日本で5月から発売が開始されたコンパックのPDA「iPAQ」に対応した「PocketLinux」というLinux OSも注目されている。

 これらの動きは,従来は開発者やパワーユーザーだけの動向だったが,最近では,シャープが今後発売する新しいPDAにLinux OS搭載を表明するなど,製品としてPDAにLinux OSを採用する動きがある。

 Agendaは,NECのVRチップを作ったLinux搭載PDA「AgendaVR」を発表している。Agenda VRは,既に世界中でデベロッパー向けのサンプル機をリリースし,多くの開発者がその開発に参加しているという。(5月8日の記事参照

 ライセンスが無料のオープンソースだけに,開発に参加するユーザーも多く,リリース後すぐに多数のAgendaVR向けプログラムが出回り,活気づいている。

 ちなみに筆者はAgendaVR開発エディションのユーザーだ。少ないリソース「8Mバイト RAM + 16Mバイト Flash Storage」(66MHz 32Bit NEC VR4181 MIPS)の中で,X Windowが起動するし,日本語もなんとか表示できる。

Windowsは着実に携帯に向かっている

 Linuxの発展を尻目に携帯電話組込み用として開発が続けられているOSが,マイクロソフトの「Windows CE」だ。これはコンシューマ機器向けに作られた安定性に優れるOSで,キーボード搭載PDA向けの「ハンドヘルドPC」や,Palm型のポケットPDA向けの「ポケットPC」,そのほかにも組込型など複数の仕様がある。

 Windows CEは,カシオ計算機やNEC,HP,コンパックコンピュータなどはPDA向けのOSとして採用されていることが知られているが,セガの家庭用ゲーム機“ドリームキャスト”やクラリオンの“AutoPC”というカーナビなどにも,制御OSとして導入されている。

 マイクロソフトは携帯電話を含めた機器組込用OSとしての方向性を強める意向で(5月8日の記事参照),その動向が注目される。

 ただ,Windows CEはあくまで有償のOSなので,少なくとも,現状より対応するプログラムの開発コストが低くなるということは考えにくい。

クリエイティビティとセキュリティとの戦い

 オープンソースOSが携帯電話に搭載されることで,今後新しいサービスや可能性が生まれるかもしれない。しかし携帯電話は,PC以上にセキュリティに気を遣わなければならず,その点,“開発がしやすい”とは一概にいえないようだ。

 携帯電話は課金システムと直結し,常にネットワークに接続された状態になっている。また個人の氏名や,電話番号など,特定の人間関係でしか知り得ない情報などが保存されている。

 PCで起こったウイルス事件のように,携帯電話の個人情報データを悪用されたら大変なことになる。セキュリティホールが存在するようなプログラムはあってはならないわけだ(5月14日の記事参照)。

 少なくとも携帯電話のプラットフォームは,PC以上に制約が多いといえそうだ。携帯電話特有の“制約”を理解し,その上でクリエイティビティを発揮しなければならない。

 現状では,帯電話の情報保護に関するキャリアの考えはあいまいのようだ(3月2日の記事参照)。携帯電話使用におけるセキュリティ問題に対して一体誰が責任を負うのか? そう考えると,オープンソース導入の議論の余地はまだまだありそうだ。

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[増田(Maskin)真樹,ITmedia]

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